021. 二人で一つ(3)
突然に飛び出した、何やら特別な装備アイテム――大地の女神の巫女のネックレス。
冷静に様子を見守っていたターボフさんも、これはさすがに気になったようで、まるで子供のように吾輩を誘ってくる。
「近づいてみようぜ、ワガハイ。俺たちも体を張ったんだし、ちょっとくらいはいいだろ?」
「……仕方ないですね」
言いながら、実は吾輩も興味津々だったんだ。
『あなたはこれから、世界に散らばるウィヌモーラ大教の聖地に住まう清き大地の精霊と会い、彼らを眷属とする契約を結ばなければなりません。その数は三体。これを成し遂げてはじめて、あなたは本当の意味で、大地の女神の巫女と名乗ることができるのです』
「三体の、清き大地の精霊……」
吾輩たちが近づくと、ユッカちゃんはしみじみと、与えられたネックレスを確認していた。
『あなたが聖地の精霊に認められたとき、彼らはあなたに、その証としての魔宝石を差し出すことでしょう。その魔宝石は、あなたの首に輝く宝石となる。まずはそのネックレスに、三つの魔宝石を光らせること――これが、私からの導きの啓示です、ユッカ』
「ちょ、ちょっと待ってくれなのだ、モザンゴア」
今後の旅の方針を教えてもらえたユッカちゃんだけど、どこか慌てたように聞き返す。
「お主の話は理解できたが……このネックレスにはすでに、一つの魔宝石があしらわれているぞ――ほら」
ターボフさんと二人で距離を詰めたから、吾輩にも確認ができる。
ユッカちゃんの言うようにそのネックレスには、幼い彼女にはやや大きくも思える白濁の魔宝石が輝いていた。
『それは、私からあなたへのプレゼントですよ、ユッカ』
「じゃ、じゃあ……」
『ええ』
穏やかで力強い大地の精霊は、どこか微笑んでいるように、ユッカちゃんへ伝える。
『私――モザンゴアは、あなたの眷属になることを、ここに約束しましょう。あなたの首に光る魔宝石は、その証です』
「……モザンゴア」
『あなたが契約すべき精霊獣は、私を除いて、残り二体――おそらく彼らは、私のように甘くはありませんよ。心して進んでください』
「わかったのだ、モザンゴア」
どうやらユッカちゃんは、このモザンゴアに認めてもらえたらしい。
いろいろあったこの道中も、何とか無事に目的を達成できたみたいだ。
『これで私は、あなたの眷属。あなたが呼べばどんな場所にも駆けつけ、この力、あなたのために振るいましょう』
「うむ」
『しかし、やはりあなたは未熟だ。そちらのハーフミノタウロスの従者が一命を取り留めたのは、あくまで、このソノーガ山脈の聖地それ自体が宿している魔力に依拠した奇跡でしかありません。回復魔法の修得が急務であることは、あなた自身、いやというほどに痛感していることでしょう――学びを止めてはいけません。成長のない巫女に使役できるほど、私の魔力は優しくありませんから』
「肝に銘じておくのだ」
『よろしい』
続けてモザンゴアは、マルチェさんにも呼びかける。
『ハーフミノタウロスの従者、マルチェ――あなたのユッカに対する愛情は、非常に深い。あなたが従者であるから、私はユッカを大地の女神の巫女として認めたのです。あなたの存在は、間違いなくユッカの力になるでしょう』
「ありがたいお言葉です、モザンゴアさま」
『しかし、あなたはどこか、ユッカのためならば自分が犠牲になっても構わないと考えている――その考え方は危険です。あなたに何かが起これば、未熟なユッカには、小さくない心の動揺が生まれます。それがどんな結果を導くのか、ここまでの道中で、あなたはしっかりと学んだはずです』
「……はい」
『ユッカのためを思うのであれば、彼女と共に、自らを守る意識を強く持ってください。私は、未熟な今のユッカを認めたわけではありません。未熟さを自覚しつつ、あなたと二人で歩んでいく彼女に、この力を貸そうと決めたのです――命を懸けるということの本当の意味を、常に忘れないようにしていてください』
「わかりました」
大地の女神に仕える精霊獣として、ユッカちゃんとマルチェさんそれぞれに、これからの心構えについての指針を教授したモザンゴア。
困難はあったが、二人は無事に、ソノーガ山脈での試練に打ち勝った。
モザンゴアが与えてくれた魔宝石と導きの言葉は、その証明に他ならない。
手を取り合う巫女と従者の姿。
わずかではあるが、彼女たち『姉妹』の力になれたことを、吾輩は誇らしく思えた。
さて、下山だ。
クーリアやキューイが、きっと吾輩を待ってくれている。
モルコゴさんをはじめ、オトジャの村の皆さんも、ユッカちゃんとマルチェさんが元気に帰ってくるのを楽しみにしているに違いない。
そんなことを考えていた吾輩に、
『旅のゴーストよ――名前は「ワガハイ」と言いましたね?』
突然、モザンゴアが話しかけてきた。
「……はい」
いきなりのことに、戸惑う吾輩。
ウィヌモーラ大教の関係者でもなければ、その信者ですらない吾輩に、この清き大地の精霊が、いったい何の用があるというのだろう?




