020. 二人で一つ(2)
「モザン、ゴア……お主が、清き大地の精霊」
『入山してからのあなたを、ずっと見ていました。ここにたどり着くまでに何があったのかも、すべて、この目で』
驚きと緊張の様子でその名をつぶやいたユッカちゃんに、大きく雄々しい姿の清き大地の精霊――モザンゴアは、ゆっくりと語りかけている。
『自覚しているように、あなたは聖職者として、まだまだ未熟です。このような形で私と顔を合わせるのは、いささか時期尚早――ここまでの道のりを踏まえれば、そう判断せざるを得ません』
「……うむ、お主の言う通りなのだ」
『巫女としての潜在的魔力に頼るのみで、そこにいるハーフミノタウロスの従者がいなければ何もできない――どころか、あなたは心の安定を欠き、感情を乱され、情けなくも悪しき精霊に取り込まれる始末。挙げ句の果てに、瀕死の状態にまで追い込まれた彼女を癒すこともできず、この私に泣いて懇願してくるようでは、とても一人前の大地の女神の巫女として認めるわけにはいきません』
「……わかっているのだ、すべて」
『あなたは、確かに大地の女神の巫女。しかし、そうであるからこそ、未熟なあなたに関わらざるを得ないその従者、信者、友人知人にいたる多くの者が、巫女であるあなたに関わったがゆえに、傷つき不幸になることがあるのです。我らが偉大で神聖なる御柱の力を宿すあなたが未熟であるということは、もはやそれだけで罪。悪しき精霊に飲まれようとそうでなかろうと、成長しないあなたは、生きているだけで害悪だと――』
「お言葉ですが、清き大地の精霊さま」
立ち上がったマルチェさんが、モザンゴアの言葉をさえぎった。
やはり、傷は完全に回復しているようだ。
動きにぎこちなさもないし、相変わらずの無表情ながら、顔も凛としている。
『「モザンゴア」で結構。必要以上に、私を敬うことはありません。真に敬うべきは、私もあなたも、偉大で神聖な、あの「お方」だけなのですから』
「それではモザンゴアさま――私を救ってくださったことには、心から感謝いたします。しかし、ユッカさまに対する発言には納得しかねます」
『……聞きましょう』
「ユッカさまは、決して害悪などではありません。この方は私の光であり、多くの信者を導く可能性を持っ――」
「いいのだ、マルチェ」
「ユッカさま……」
「モザンゴアの言うことは、何も間違ってはいないのだ」
今度はユッカちゃんが、マルチェさんの言葉をさえぎる。
「ワタシが立派な巫女であったならば、マルチェのケガを癒すことができたのだ。それどころか、マルチェが傷つくこともなければ、そもそも悪しき精霊に飲まれてしまうことさえ……全部、ワタシが未熟だからいけなかったのだ」
「そんなことはありません、ユッカさま。あれは、私がユッカさまを守ることができなかったから、だから――」
「いいのだ、マルチェ。ワタシは、お主が無事だっただけで、それだけでいいのだ」
軽く首を振って、マルチェさんを諭すユッカちゃん。
「きっとすぐには、一人前の巫女にはなれないだろう。けれどワタシは、お主といっしょなら、どんなことがあっても、立派な聖職者になることをあきらめたりしないのだ――だからこれからも、ワタシとずっと、この旅を続けてほしいのだ、マルチェ」
小さな手を、そっと差し出したユッカちゃん。
その答えは、もちろん一つしかない。
「はいユッカさま、喜んで」
二人の手が重なる。
やっぱり吾輩には、最高の『姉妹』に思えた。
「モザンゴア」
ユッカちゃんが、清き大地の精霊に呼びかける。
「マルチェを救ってくれたこと、本当に感謝するのだ。ワタシは、かけがえのない存在を失わずに済んだ。きっとワタシは、マルチェと二人で、やっと一人前になれるような未熟な巫女なのだ。だからこれからも、ワタシはマルチェと――」
『それがわかっているのなら、おそらく大丈夫でしょう』
「……えっ?」
モザンゴアの返答に、ユッカちゃんが声を漏らす。
「あなたとその従者は、血縁も立場も超えた、言葉では表現できない強い絆で結ばれているようです。お互いがお互いを想い、二人で手を取り合い、常に前へと進もうとしている――そんなあなたたちだから、私は不本意ながら、このように姿を現してしまったのかもしれません」
「それは、どういうこと……なのだ?」
「あなた一人では追い返すところでしたが、これからも、その従者と二人ということなら――ユッカよ」
モザンゴアの体が、穏やかに発光する。
『あなたを大地の女神の巫女と認め、私から、導きの啓示を与えます』
するとモザンゴアの眉間の辺りから、輝く輪が出現する。
ゆっくりと宙を漂ったそれは、優しくユッカちゃんの首にかかり、そのまま、シンプルなアクセサリーになった。
『それは「大地の女神の巫女のネックレス」』
「……大地の女神の巫女の、ネックレス」
モザンゴアの言葉を、ユッカちゃんは静かに繰り返した。




