004. 入山、ソノーガ山脈
気づけば、周囲の景色は一変していた。
乾いた土と岩肌。
草木はほとんどなく、わずかにこけが這っているだけだ。
「よし、全員そろったな」
ターボフさんが言う。
振り返ると、そこには魔洞の渦。
短い石の杭が円状に、うねる螺旋を囲っている。
魔力的輝きも鎮まっていて、先ほど飛び込んだはずのものとは完全に様子が違っていた。
空が、急に近くなった気がする。
確認するまでもない。
吾輩は、一瞬で移動してきたんだ。
緑生い茂るグシカ森林から、ルドマ大陸の屋根と称される、この場所へ――。
「ここがソノーガ山脈なのだな、マルチェ?」
「はいユッカさま、そういうことになります」
ユッカちゃんとマルチェさんは、注意深く辺りをながめていた。
どうやら四人とも、無事に魔洞の渦を抜けられたらしい。
「巫女」
吾輩の到着を確認できたからだろう。
ターボフさんが、ユッカちゃんに呼びかける。
「ここからは、神聖な存在から怪しい魑魅魍魎まで、何が出てきてもおかしくはない領域――どうか、十分にご注意を」
「……うむ」
ターボフさんの忠告に、ユッカちゃんは小さくうなずいた。
「ワガハイ」
そこでターボフさんは、吾輩に伝える。
「理解していると思うが、俺たちは今、ソノーガ山脈にいる。ルドマ大陸を東西に走る広大な山の連なり、その西の際の中腹といったところだ」
「ええ」
「パーティーの隊列を短くしたい。先頭は俺、最後尾はお前だ。前後の俺たちが意識すれば、自然とコンパクトになるからな」
「わかりました」
つまりは、ユッカちゃんを守るための陣形。
無事に彼女を、聖地まで連れていくための。
「お前が参加してくれたおかげで、俺の負担も、少しは減りそうだ。ルートを把握しているオトジャのトロールであっても、目的地までは気が抜けない――そういう場所だからな、この山脈は」
「お役に立てるよう頑張りますよ」
言葉を交わした、ターボフさんと吾輩。
前後で構え、何か事が起これば、お互いすぐに対応する――さながら、巫女の守護者というわけだ。
「従者の嬢ちゃん」
続けてターボフさんは、マルチェさんに告げる。
「あんたは自分の判断で、巫女の安全を第一に考えて行動しろ。覚悟しているとは思うが、ここから先は何があっても不思議じゃない……どんなことが起ころうとも、後悔だけはしないようにな」
「……わかりました」
ちらりとユッカちゃんを見やったマルチェさんは、表情を変えることなく答えた。
それから自然と、それぞれが動く。
確認したように、先頭はターボフさん。
次いで、今回はマルチェさんが二番目、ユッカちゃんが三番目になった。
そして、当然ながら吾輩は最後尾。
「マルチェ」
パーティー四人が小さく並んだところで、ユッカちゃんが口を開く。
「行ったことのない国も、出会ったことのない種族も、まだまだたくさんなのだ。ワタシはこれからも、お主と修行の旅を続けたい。だからずっと、ワタシの従者でいてくれるか?」
応じるマルチェさんは、ただ一言。
「……はいユッカさま、もちろんです」
振り返らず、それだけ。
心なしか、声が震えているように思えた。
「うむ――それさえ聞ければ、もうワタシは大丈夫なのだ♪」
大きなマルチェさんの背中を見上げながら、ユッカちゃんはうなずいた。
「よし――それじゃ、いくぜ」
ターボフさんの声を合図に、吾輩たちは歩き出す。
聖も邪も混在するという、人里離れた、この魔境を。




