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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第4節] パジーロ王国>グシカ森林⇔ソノーガ山脈
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002. 森の中、朝の歩み(後編)

 そこに、ユッカちゃんが入ってくる。


「パジーロ王国といえば、やはり『巨人伝説』なのだ。ワタシはちゃんと知っているのだぞ」

「ほう、よくご存じで。さすがですね、巫女」

「ふっ、当然のことなのだ(どやっ)」


 マルチェさんよろしく肯定したターボフさんに、ユッカちゃんはご満悦まんえつ


「ワガハイは知っているか、パジーロ王国の巨人伝説?」

「ううん、残念ながら」


 ユッカちゃんの質問に、吾輩は首を振った。


「まったく、仕方のないやつだな、ワガハイは。それなら、ワタシが教えてあげるのだ(ふふんっ)」

「ありがとう、よろしく頼むよ」


 大地の女神の巫女として、出立しゅったつ前に学んだ知識なんだろう。

 ユッカちゃんが語り出す。


「この世界には、大きな体と強い力を持った『巨大人タイタン』が、地底や海底で眠っている――とされている地域が、いくつもあるのだ。もちろんこのルドマ大陸でも、そういう言い伝えが多くあるのだが、特に有名なのが、パジーロ王国の巨人伝説なのだぞ」


 巨大人タイタン


 ミノタウロス、トロール――などというレベルではなく、そういった、吾輩たち各種族とはかけ離れた、とにかく巨大な存在。


 太古の昔、彼ら巨大人タイタンたちは、この世界を事実上支配していたらしい――ということは聞いていたけれど、吾輩には、その程度の認識しかない。


 なぜならユッカちゃんが口にしたように、現在、巨大人タイタンたちは世界各地で『眠っている』とされているため、彼らの姿を確認することは、ほとんど不可能だからだ。


 ここまでの旅の道中で、吾輩も巨大人タイタンなどに出くわしたことはない。


 神や精霊と同じように、彼ら巨大人タイタンも、吾輩たちにとっては特異な存在。


 その巨大人タイタンに関する伝説の一つが、このパジーロ王国に残っているのか。


「ずっとずっと昔のこと――この辺りの地域には、子供のように暴れ回る、それはそれは迷惑な巨大人タイタンがいたのだ。ワタシたち人間はもちろん、他の種族たちも、その巨大人タイタンには、すごく困っていたらしいのだ」


 巨体を持つという彼らが、いったいどれほどの大きさなのかは、ただただ想像するしかない。


 けれど、その規模、その姿によっては、もはや天災。

 町や村くらい、簡単に潰せてしまうだろうから。


「そんな迷惑な巨大人タイタンに、危険をかえりみず戦いを挑み、見事勝利したのが、パジーロ王国の初代国王なのだ」


 なるほど。


 巨大人タイタン討伐という武功を成し遂げた英雄が、この国を建国したというわけか。


「実はその時、巨大人タイタンに立ち向かった初代国王に協力していたのが、何を隠そう、オトジャの村のトロールだったのだぞ」

「まぁ要するに、俺の先祖に当たるトロールだな。もちろん、気の遠くなるほどに遠い先祖だけどよ」


 ユッカちゃんに続いて、ターボフさんが補足する。


 オトジャの村のトロールは、古くから、大地の女神たるウィヌモーラをあがめていた種族。

 おそらくは聖職者としての力で、巨大人タイタン対峙たいじした初代国王をサポートしたんだろう。


「パジーロの西と東は、ずいぶんと環境が異なるわけだが、そういう歴史的経緯があるおかげで、グシカ森林のトロールとパジーロの王族は、今にいたるまで良好な関係を築けているってことだな。しかも、親父と現在のパジーロ国王は、地位や種族を越えた友情を、若い頃からはぐくんでいる。つまり、俺が王国騎士という立場にあるのも、半分はコネみたいなものなんだよ」

「そうだったんですね――しかし、あなたが王国騎士なのは、武人としての能力が、正当に認められているからですよ、ターボフさん」

「どうだかな」


 自虐的なターボフさんに、吾輩は素直な意見を伝える。


 あしらうような態度の彼だったけれど、どこか誇らしそうに笑っていた。


 しかしユッカちゃんの話おかげで、いろいろと納得できた。


 オトジャの村出身のターボフさんが、大地の女神の巫女の聖地入りに同行しているのは、もちろん彼がウィヌモーラ大教の信者だからだ。


 けれど一方で、パジーロの王国騎士である彼が、いくら個人的な信仰があるとはいえ、王族や上官騎士の許可なく、常駐すべき都を離れることは困難だ。


 そんなターボフさんなのに、マルチェさんと秘密裏ひみつりに会い、彼女の計画した狂言にも手を貸した。

 少なくとも数日間、彼はパジーロ城下町での騎士としての仕事をしていないはず。


 もしもターボフさんに、無断かつ独断で職務放棄した――という事実がないのなら、理由は明白。


 パジーロの王族とオトジャの村のトロールには、歴史的に特別なつながりがあるからに他ならない。


 オトジャの村出身のトロールであるターボフさんが、自らの信仰と故郷の伝統を守るために城下町を離れる――ということなら、パジーロの王族は、二つ返事で許可を与えるということなんだ。


 パジーロ王国の西部と東部――二つの地域は文化も環境も異なっているけれど、それでも一つの国家として成立しているのは、遠い遠い過去、巨大人タイタンに挑んだ英雄と聖職者が、互いの手を取り合ったことが大きく影響しているのかもしれない。


 加えて、モルコゴさんと現在のパジーロ国王の個人的な友情も、きっと。


「わかったか、ワガハイ?」


 自慢するように、ユッカちゃんが確認してきた。


「うん、すごくよくわかったよ。ありがとう、ユッカちゃん。さすがだね」

「ふっ、たいしたことはないぞ……えへへ(てれり)」


 うれしそうに、顔をゆるませたユッカちゃん。


「ワタシは大地の女神の巫女だからな。いろいろと物知りなのだ。わからないことがあれば、何でも教えてやるのだぞ(ふふんっ)」


 ユッカちゃんは胸を張る。


 堂々と、だけどかわいらしく。


 きっとこれからも、吾輩は彼女から学ぶことがいっぱいあるんだろう。


 だから、終わらせない。


 終わりになんか、させない。


 決意を新たに、吾輩はグシカ森林を進んだ。

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