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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第1節] ガレッツ公国>オーヌの町
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009. 町の砦

 オーヌの町の砦。

 吾輩が、昨晩少しだけお世話になった地下牢もある、役人と憲兵が常駐している施設。


「ねぇ、ワガハイくんってば……ねぇ!!」


 文句を言いながらもついてきたクーリアが、吾輩のコートの袖をつかんだ。


「わけがわからないよ、いきなり剣を取り返すだなんてさ。私が言うのもおかしいけど、ばかなまねをしたら、また捕まるって」


 吾輩の前には、石造りの角張った建物。

 それほど大きくはないけれど、なかなか威圧的だ。

 宿屋や食堂が目立つ宿場町だから、よけいに。


「もしかして、ワガハイくんの剣って業物わざものだったの? そんなに大事なものだったなら、私が今夜にでも、こっそり忍び込んで――」

「いや、たいしたものじゃないよ。ちょっとした武器屋ならどこでも扱っているような、可もなく不可もない護身用の剣さ」


 吾輩、高級な武器を買えるようなお金なんて持ってないし。


「だ、だったらいいじゃない。言ったでしょ、ここの役人や憲兵は腐っているの。下手に目をつけられたらワガハイくん、オーヌの町から出られなくなるかもしれないよ!?」

「……うーん、それは困るな」

「そ、そうだよ、うん。ワガハイくんは旅人なんだから、わざわざあいつらにケンカを売るようなこと、しなくたっ――」

「でもね、吾輩も同じなんだよ」


 クーリアの腕をほどき、まっすぐに伝える。


「旅立つならさ、心の底から、笑顔でこの町を離れたい――吾輩も、クーリアと同じ気持ちなんだよ」

「……ワガハイ、くん?」


 すると、


「お前ら、このオーヌの町の砦に何の用だ?」


 扉が開き、中から憲兵が二人。


「ここは、宿屋でも食堂でもないぞ――ん、お前……昨日のハレンチな泥棒か?」


 一人に続いて、


「お、おお、間違いない。地下牢から脱獄してたっていう、あのぺろぺろな泥棒だ」


 もう一人の憲兵が、強くうなずいた。


 ハレンチ。

 ぺろぺろ。


「……クーリアのせいで、吾輩、とんでもない汚名を着せられているんだけど」

「あ、あはははは――じゃないよ、ワガハイくん!? 逃げないと、すぐに逃げないと!?」


 状況が状況なだけに、慌て出すクーリア。


 けれどもう、あの憲兵たちが見逃してくれるとは思えない。

 彼らにとって吾輩は、ハレンチでぺろぺろな泥棒っていう評価なんだし。


「脱獄したくせに戻ってくるとは、ずいぶんとおかしなやつだな」

「けれど、謝って済むなら憲兵はいらないんだぜ」


 腰に装備していた剣を抜き、吾輩たちに近づいてくる憲兵二人。


「あのですね、ハレンチもぺろぺろも泥棒も、全部濡れ衣なんですよね……あと、どうか吾輩から没収した剣を返していただきた――」

「「ふざけるな、このやろうっ!!」」


 吾輩はていねいに、弁解と要求を伝えたんだけど、声をそろえて一喝されてしまった。


 できれば荒事は避けたいところだが、


「覚悟しろ、ハレンチ泥棒」

「観念しな、ぺろぺろ泥棒」


 どうやら、そうもいかないらしい。


「「うりぁーっ」」


 剣を振り上げた憲兵二人が、吾輩に斬りかかってきた。


 コートを傷めたくない吾輩は、ひらりと回避。

 憲兵の攻撃くらいどうってことはないけれど、ボロボロの服装で町を歩くわけにもいかないからね。

 ほら、必要以上に気味悪がられちゃうし。


 強引な剣を六振りほどかわしたところで、憲兵たちが息を乱す。


「く、くそっ、素早いやつめ」

「い、いまいましい」


 二人ではどうにもならないと思ったのだろう。


「おい、来てくれ、昨日のハレンチ泥棒だっ!!」

「逃げたぺろぺろ泥棒が、砦に乗り込んできたぞっ!!」


 彼らは建物内の仲間に、大きな声で呼びかけた。


「う、うわっ!? まずいよ、ワガハイくん」


 戸惑うクーリア。


 さすがは、訓練された憲兵だ。

 すぐに武装した十名ほどの男性が立ち並び、吾輩の周囲をぐるりと囲む。


「わ、ワガハイくん……ど、どうするのぉ」


 不安そうにしながら、クーリアが吾輩に身を寄せた。

 ここまできたら、とても話し合いでまとまりそうにない。

 彼女を守るためにも、多少は反撃してもいいよね。


「あいつを捕らえるぞ」

「「「「「おぉーっ!!」」」」」


 大声と共に、無数の刃が吾輩に迫ってきた。

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