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ペア  作者: 速水詩穂
3/4

第三話

前日、彼女はあたしに一通の手紙をくれた。そこには今まで何回か怒った事に対しての謝罪と、感謝、激励の言葉が連ねてあった。


シングルスで別別の会場に行ったときもそうだった。


「離れていても、あたしが一緒にいると思って」


その時、いるはずのない彼女が、確かにそのコート上に存在したんだ。



「アウト!ゲームセット!」


二回戦を勝ち上がる。

お互い見ていたのはもっとずっと「上」だった。


対戦相手の中には、小学校からずっとテニスを続けてきている人間がいる。

あたし達はそれを「ジュニア」と呼んでいた。格段、上の世界の人間だ。


次の相手は両方とも「ジュニア」だった。「ここさえ崩せば」の「ここ」だった。


でもシングルスじゃ全く歯がたたない相手でも、実はダブルスなら互角に渡り合えることがあるのかもしれない。

うん。本当にあったんだわ。


試合が始まってラリーが続く。

両者の前衛が飛び出す機会を覗っていた。

引いたら負けだと分かったから一歩も引かなかった。


「リン、ダブルスが楽しい」


そう言われたのは、彼女がスマッシュを決めた後の試合の合間だった。


この時、二度と来ない時間が、限りなく早いスピードで過ぎていっている事に気付いた。

今思っても、人生で一番「贅沢な時間」だった。




晴天。

クレイのコート。

擦り切れたネット。

さびた鉄の匂い。


手元だけ黒くなったラケット。

蛍光のボール。


前を見据えると、

対峙する2人と

小さな背中。



背筋が伸びる。

一本一本のラリーが長いため、心臓の音が早い。指先まで血が通うのが分かった。でも

疲労はなかった。


トスを上げる。



「ありがとう」

試合が終わったあと、彼女が言った。

そうして走り回った直後であるにも関わらず、あたしの注文も聞いてダッシュで自動販売機に向かった。


あたしは木に背中を預けて、擦れ合う葉の間から空を見上げた。

いつの間にか、真っ青だったはずの空に大きな入道雲が浮かんでいた。


その光景は今でも鮮明に思い出せる。

そうしないと我慢できなかったんだ。


空がにじんだ。

何も、考えられなかった。


唯一つ分かったのは、ししょーも今泣いているということだけだった。それだけは根拠のない自信を持てた。




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