第三話
前日、彼女はあたしに一通の手紙をくれた。そこには今まで何回か怒った事に対しての謝罪と、感謝、激励の言葉が連ねてあった。
シングルスで別別の会場に行ったときもそうだった。
「離れていても、あたしが一緒にいると思って」
その時、いるはずのない彼女が、確かにそのコート上に存在したんだ。
「アウト!ゲームセット!」
二回戦を勝ち上がる。
お互い見ていたのはもっとずっと「上」だった。
対戦相手の中には、小学校からずっとテニスを続けてきている人間がいる。
あたし達はそれを「ジュニア」と呼んでいた。格段、上の世界の人間だ。
次の相手は両方とも「ジュニア」だった。「ここさえ崩せば」の「ここ」だった。
でもシングルスじゃ全く歯がたたない相手でも、実はダブルスなら互角に渡り合えることがあるのかもしれない。
うん。本当にあったんだわ。
試合が始まってラリーが続く。
両者の前衛が飛び出す機会を覗っていた。
引いたら負けだと分かったから一歩も引かなかった。
「リン、ダブルスが楽しい」
そう言われたのは、彼女がスマッシュを決めた後の試合の合間だった。
この時、二度と来ない時間が、限りなく早いスピードで過ぎていっている事に気付いた。
今思っても、人生で一番「贅沢な時間」だった。
晴天。
クレイのコート。
擦り切れたネット。
さびた鉄の匂い。
手元だけ黒くなったラケット。
蛍光のボール。
前を見据えると、
対峙する2人と
小さな背中。
背筋が伸びる。
一本一本のラリーが長いため、心臓の音が早い。指先まで血が通うのが分かった。でも
疲労はなかった。
トスを上げる。
「ありがとう」
試合が終わったあと、彼女が言った。
そうして走り回った直後であるにも関わらず、あたしの注文も聞いてダッシュで自動販売機に向かった。
あたしは木に背中を預けて、擦れ合う葉の間から空を見上げた。
いつの間にか、真っ青だったはずの空に大きな入道雲が浮かんでいた。
その光景は今でも鮮明に思い出せる。
そうしないと我慢できなかったんだ。
空がにじんだ。
何も、考えられなかった。
唯一つ分かったのは、ししょーも今泣いているということだけだった。それだけは根拠のない自信を持てた。




