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夏乃さんと魑魅魍魎の謎  作者: 巫 夏希
第一話 トモグイ
8/23

四日目(1)



 そして。

 呆気なくと言うか、しょうがなくと言うか、仕方なくと言うか、それについてどう説明すれば良いのか分からなかったけれど、でも何も出来なかったのは事実。二日間朱矢に居たのに収穫はゼロ。何のためにここにわざわざ帰ってきたのか分からないぐらいに、あたしは癇癪を起こしかけていた。


「どうすりゃあいいのか、結局はこれしか無かったってことじゃあないか……」


 大類家の裏庭に、地下への入口があることは把握している。

 後は中に入って、亜貴を救って、序でに因習のことも調べ上げればこれですべてお終い。

 まあ、そんなハッピーエンドになるとは到底思っていないけれど……。

 あたしは草むらに隠れて様子を探っていた。いつやってくるか分からないから、それはあたしと大類家の勝負といったところ。大類家がいつやってくるかなんてまったく分からないし、あたしが潜んでいることもきっと大類家は知らないことだろう。分からないようにしているんだから、そうでないと困るんだけれどね。

 大類家の裏口から誰かが出てきたのは、スマートフォンの時計で午後十時過ぎだった。あたしはその様子を必死に確認する。ぐっすりと眠っている亜貴を抱えた白装束の男女が二人裏口から出て行く様子が目撃出来た。あたしは草むらに隠れながら、それを追いかけていく。

 すると神社の祠に到着した。祠の前には、赤く塗られた石机が置かれていた。


「ああ……ここでやるのか……」


 石机、名前がある。確か名前は――。


「『血抜きの石机』」

「しまっ――!」


 がんっ! と後頭部を何かで殴られたような衝撃を受けて、あたしは倒れた。

 あまりにも、呆気ない話だった。





 次にあたしが目を覚ましたとき、それは、血抜きの石机に横たわっている状態だった。

 あたしは周囲を確認する。

 しゃっ、しゃっ、と包丁を研ぐ音が聞こえる。


「あそこで立ち去っていりゃあ、良かったモノをね……」

「あなたは……一昨日出逢った……」

「自己紹介は未だだったかね。あたしは大類よね。この朱矢で『神飯かみいい』を作ることの出来る唯一の存在だよ」

「神飯……それはいったい……」

「さて? あんたも大体大方見当がついているんじゃあないのかい?」


 しゃっ、しゃっ。

 包丁を研ぐ音が、止んだ。


「……やはり、人喰いの因習があったというのは事実なのね……!」

「人喰い? そりゃあ、間違いさ。あたしたちはただ、神に肉を献上しているだけのこと。そもそも朱矢の神が生み出した人間を、朱矢のために料理して振る舞うのだから。それの何が悪いというのかねえ?」

「悪いに決まっているじゃあない! あなたたちは、人殺しをしているのよ! そんなことが許容されるわけが――」

「五月蠅い」


 すとん! と包丁が落ちる音がした。

 同時に、足に激痛が走る。


「あがあああああああああああああああああああああっ!!??」

「あら、生きが良いこと」


 あたしは身体を動かして必死に抵抗する。それでも全然動く気配がしない。どうやら両手両足を縛り付けているらしい。

 そして、今大類よねがやったことは――。


「ほら、見えるかい? 今斬ったばかりの『ぴちぴち』さね


 そう。

 大類よねがあたしに差し出したのは――人の足の小指だった。

 それは紛れもなく、あたしの身体から切り取ったものだった。


「き、貴様ああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「おおっと、暴れたってこいつをあげやあしないよ。爪は剥ぎ取らないと、美味しく無いからねえ」


 そう言って手際よく爪を剥いでいく大類よね。

 そして皮も剥いだその肉を、そのまま大類よねは口に入れた。

 ごくり、という呑み込んだ音も確かに聞こえた。そしてにやりと――嗤った。


「ああ、美味い。やはり若い肉は美味いものだねえ。とはいえ、あんたは十分外の空気を吸っちまったからか、味に澱みがあるようだけれどねえ」

「あんた……いったい何を言って……」

「早くこっちも『仕込み』を終わらせて味見したいところだけれどねえ。ああ、そうだ。あんたにも見せてあげようかねえ、もう頭しか残っていないのが非常に残念な事だけれど」


 そう言って、祠の前に置かれていた桶を取り出す大類よね。

 止めろ。

 あたしの予想が正しければ――それは。それは。


「さあ、見せてあげようかねえ」


 止めろ。

 止めろ。

 止めろ。

 しかし、そんな言葉など聞く耳を持つはずも無く――大類よねは桶の蓋を開けた。

 そこには、亜貴の頭がそのまま丸ごと入っていた。

 目は閉じていたが、しかしもう生気を失っている、青白い表情の彼女の頭が、そこにはあった。



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