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夏乃さんと魑魅魍魎の謎  作者: 巫 夏希
第三話 いつもの店がなくなった時
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完結編

 まさか。

 まさか……ね。


「なあ、一つ質問していいか?」


 私は背後に立っている新井に問いかけた。


「……何でしょうか?」


 一瞬の間をおいて、新井は答える。


「母親と父親は、どこに居るんだ? この家に、か?」

「そうですね。この家には両親の部屋がありますので、そこにいます」

「ふうん……。もう一ついいかなあ」

「何でしょうか。私に答えられる範囲ならば」

「……この部屋の色、たぶんきっと、私にも君にも持っているあるものを使って人工的に、正確に言えば二次被害になるのかな。とにかく、人の手で塗られたものだと思うよ。……さて、それは何だろうね? 人間の身体に常に巡っている、酸素や二酸化炭素、エネルギーを運んでいる、その流れとは?」

「……すいません、言われている言葉の意味が理解できないのですが」


 笑みを浮かべて、新井は言う。

 その笑みはどこか冷ややかなイメージが見える。


「……この部屋の色、すべて血だよ。人間の血だ。人間を殺した時に、その血があまりにも激しく出過ぎたのだろうよ。そしてこれは、お前が父親と母親を殺したときにできた血。そして今私の目の前にいる、不幸を届ける座敷童は……お前の母親だった存在だろう」

「何を言っているのですか?」


 途端に、口調に怒気が混じる。

 まあ、ここまでは想定の範囲内だ。

 さあ、突き詰めていこうじゃないか。この結論に、如何に突き詰めていくか。もう道筋は見えている。


「……この事象を行ったすべての元凶、とどのつまり、父親と母親を殺したのはお前じゃないか?」

「何を言っているんですか。あなたは、あなたは、わざわざ私が雇っておいて、私を蔑むような発言を言いに来たんですか! 帰ってください! 父はもう十年以上前に亡くなっているのに、ここに父の血があるわけないじゃないですか!」

「……ボロを出したな」


 ここで終わり。幕引きだ。案外早かったが、それはまあ、詰めが甘かったということにしておこうか。


「別に私はついこないだ父親を殺したとも言っていないぞ? それにお前はさっき言っていたよな。父親と母親は家に引きこもっている、と。けれど、お前は今十年以上前に死んだ、と言った。矛盾してはいないか?」


 それを聞いて、目を丸くする新井。

 どうやらこんなところで失敗するとは思っていなかったのだろうな。


「大方、私に赤い座敷童のことを調べさせて、あわよくば消し去ろうとしたのだろう。だが、残念だったな。そこまで私の眼は節穴ではない」

「……なぜ解った」


 あっさりと告げる新井。


「お前の母親が教えてくれたよ。殺した後、その罪に向き合わないと、言っていた。ずっと逃げている、と言っていた。まあ、殺人の罪を犯した人間がその罪と向き合っていれば、とっくに自首するなりなんなりでその罪を償っているだろうがね」


 それを聞いた新井は膝から崩れ落ちた。

 もうこれ以上私の出る幕は無いだろう。そう思って、私はそのまま部屋を後にした。

 新井はずっと泣いていた。その涙が誰のための涙であるかは――言うまでもないだろう。






「……そんなことがあったんですね」


 次の日。私は少年からあの出来事の顛末を教えてほしいといわれたので、説明した。そうして終わったあとのコメントがそのコメントだった。


「まあ、ハッピーエンドとは言えないが、少なくともバッドでも無いだろう。彼はあのあと自首したそうだよ。母親を殺した罪を償う、とね」


 テレビのワイドショーではその話題で持ち切りになっていた。当然だろうな、母親を殺したという事件だ。ワイドショーで盛り上がるにはうってつけの話題かもしれない。被害者からすればたまったものではないが。

 少年は私の机に紅茶の入ったティーカップを置く。


「ああ、ありがとう。……そうか、そういえば、冠天堂は潰れたんだったな……」


 やはり、あのゆるふわロールケーキを食べないとどこか落ち着かない。昨日食べに行ったとはいえ、恐らくもう食べに行くことは出来ないだろう。ミーハーな人間が日を経るごとに増えていくだろうからな。


「夏乃さん、その話なんですけど」


 少年がそう言って冷蔵庫を開ける。

 なんとそこには冠天堂のロゴが入った箱が入っていた。冷蔵庫からそれを取り出して、私の机の上に置く。そして箱を開けると、そこに入っていたのはゆるふわロールケーキだった。


「これは……?」

「冠天堂は閉店します。けれど、それは、フルーツパーラーだけなんですよ。菓子の販売自体は店舗と通信販売で続けていくそうなんです、って……この前伝えようとしたんですけれどね。電話が入ったので途中で切っちゃったんですけれど」


 それを早く言え。私がどれだけ冠天堂ロスに苦しんだと思っているのか。少年はきっと解らないだろう。いや、恐らく誰にも解らないかもしれない。そんなことを思いながら、私は今日も冠天堂のゆるふわロールケーキに有り付くことが出来るのだった。



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