表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏乃さんと魑魅魍魎の謎  作者: 巫 夏希
第三話 いつもの店がなくなった時
20/23

後編




 少年は大学の講義があるとのことなので、向かうのは私だけになった。まあ、別に問題ないだろう。仕事をするのは主に私なのだから。

 新井とともに江ノ電に乗り込み、鎌倉駅で下車。そのまま横須賀線に乗り込んで横須賀駅で下車した。


「……何だ。家は横須賀だったのか。であれば、横須賀で話を聞けばよかったな。申し訳ないことをした」

「いえ。別に問題ありません。それに、横須賀はいいところですがゆっくりとお話をする場所、というものが私の中で見つからなかったものですから。江の島でお話しを聞いていただいて問題ありませんよ」


 三笠公園の傍にある大きな一軒家、それが新井の家だった。旧家か何かだろうか。それにしても三笠公園には多くの人間がやってきているな。そういえば最近戦艦がブームになっていると聞いたことがあるし、それが影響しているのか? 少年も戦艦が出るゲームをプレイしている、と言っていたし。まあ、私はそういうゲームはあまり遊ばないから興味は一欠片も無いわけだが。

 家に入り、居間に到着する。それにしても、人の気配が一切ない。この広い部屋に、誰も住んでいないのだろうか。


「……母も父も、不幸が立て続けに起きてから引きこもりがちになりまして……。ですから、それを何とかしたいのです」


 ははあ、家族がそういうことになってしまったのか。ならば仕方がない。そう焦る気持ちも分かる。

 少し時間を置いて新井はお茶と豆大福を持ってきた。皮から豆が出てきそうだと言わんばかりのごつごつ具合だが、それがまた手作りというか、美味しそうな雰囲気を醸し出している。私は嫌いじゃないぞ、こういう大福は。

 お茶を頂いて、それから大福を一口。うん、粒あんか。やっぱり大福は粒あんに限る。別にこしあんがダメというわけではないが、どちらかといえば粒あんだろう。

 大福を食べ終わった段階で、私は一つ頷いた。


「さて、それでは、赤い部屋とやらに連れて行っていただきましょうか」


 そういえばネットの都市伝説で赤い部屋というのがあったな。確か、『あなたは好きですか?』というポップアップを閉じると、閉じた人間は死ぬんだったか。まあ、それとこれとは明らかに話は違うと思うが……。


「解りました。それでは、ご案内いたしましょう」


 新井はそう言って立ち上がると、部屋を出て行った。私もそれを見て、新井の後を追うのだった。

 新井が到着したのは、新井が説明していた離れだった。離れまでは廊下で繋がっているため、靴を履いて移動する必要は無い。

 もしかして元々誰かが住んでいたのではないか? そんなことを思ったが、一先ずそれは一つの可能性として置いておくこととした。

 そして、障子の前に到着する。


「……開けるぞ」

「どうぞ」


 新井の了承を受け取り、私は障子を一気に開け放った。

 そこに広がっていたのは――一面真っ赤に染まった部屋だった。

 壁、床、天井は勿論、棚やタンス、テーブルに布団などの家具までもが真っ赤に染まっていた。

 まるで、それ以外の色が抜け落ちたかのように。


「こいつは……成程ね」


 そして、その部屋の中心には――これまた赤い浴衣を纏った女性がすやすやと眠っていた。


「……どうしたのですか。もしかして、何か見えているんですか」

「見えていない、とは言わせないぞ。部屋の中心に居るだろう。赤い浴衣に身を包んだ、私と同じくらいの女が」

「……まさか、それが座敷童、だと?」

「さあな。いずれにせよ、確認する必要はあるだろう」


 そうして、私は部屋の中に入っていく。

 どうなるか解らなかったが、あっさりと中に入ることが出来た。

 そうして私はその座敷童に声をかけた。


「……名前が解らないから、座敷童と呼ぼうか。お前、いったい何がしたい?」

「……、」


 すやすやと寝息を立てている。

 根気がいるな……。そんなことを思いながら、身体を揺さぶろうとした、ちょうどその時だった。


「そんなことをしなくても、起きているのよ」


 目を閉じたまま、座敷童は答えた。


「……起きているなら、さっさと答えてくれないか。面倒な話になる」


 或いは騙されている姿を見たかっただけか。だとすれば随分と子供っぽいが。

 座敷童の話は続く。


「私は別に座敷童として住んでいるつもりも無ければ、かつては人間だったよ。ただ、それだけを言っておこうか」


 唐突に。

 座敷童は衝撃の事実を口にした。

 それはつまりどういうことだ? 座敷童は座敷童ではなくて、ただの人間だった……だと? それは、恐らく、人間が座敷童に、妖怪に変化したということになる。まあ、確かに人間が天狗になるという説話があるくらいだから、人間が座敷童になるケースもあるのかもしれない。

 だが、だとすれば。

 新井は嘘を吐いている、ということになる。座敷童として住んでいるつもりはない、という言葉から推察するに、長年ここに住んでいるわけではないということになるのだろう。そして、その意味は――どういうことだ?


「それに、彼に私の姿が見えていないと思っているのかもしれないけれど、それは真っ赤な嘘。彼には私の姿が見えているはずだし、声も聞こえているはずだよ。そして、彼は私の存在から逃げている……ということだね。真っ赤な部屋、真っ赤な浴衣、女性の姿を見ようとしない。……さあ、ここから導かれる結論は?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ