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夏乃さんと魑魅魍魎の謎  作者: 巫 夏希
第三話 いつもの店がなくなった時
18/23

前編

第三話

いつもの店がなくなった時


「冠天堂が潰れただと……?」


 私はその言葉を聞いて先ず抱いた感想は、そんなことなどありえないというものだった。なぜなら、冠天堂は老舗の和菓子屋だ。最近はゆるふわロールケーキなど和洋折衷の食べ物を多くリリースしており、私も週に一度はわざわざ江の島の本店まで食べに行くくらいだったのだが、最近は仕事が立て込んでいてなかなかいくことができなかった。


「違いますよ、夏乃さん。過去形じゃなくて、未来形です。つまり、今月末には閉店してしまうんですよ、冠天堂は」


 そんなことは関係ない。

 今月末に閉店しようが、いま閉店していようが、そんなことは関係ない。

 問題は、冠天堂が閉店してしまうということ。ただそれだけだ。その事実を考えるだけで、仕事に手がつかなくなる。


「……先週もゆるふわロールケーキとロールケーキパフェを食べに行ったじゃないですか。それで我慢してくださいよ」

「我慢もクソもあるか! 少年、二度と食べに行くことが出来ないのだぞ。あの、冠天堂のゆるふわロールケーキを!」

「それなんですけれど……」


 電話が鳴ったのはちょうどその時だった。くそ!! どうして、このようなときに! しかも見たことがない電話ということは……。


「……依頼の電話だ」


 仕方がない。正直一番電話に出たくないタイミングではあるが、電話に出ないとお金を儲けることができない。そう思って私は電話に出ることとした。


「もしもし、こちら柊木伝承相談所ですが」

『……依頼の電話はこちらで問題ないでしょうか』


 声が聞こえた。

 か細い男性の声だった。何というか聞いただけで幸が薄そうな感じだったが、それは言わない約束というものだ。内に秘めておく必要があるからな。

 はてさて。

 仕事の依頼というのだから、少々まじめに話を聞いておく必要があるな。そう思って私は電話に耳を傾けていく。


「はい。そうですが」

『ああ、そうですか。ありがとうございます。すいません、私は新井と申します。実は、我が家には座敷童がいると昔から言われているのですが……、どうも我が家には幸運が訪れないようなのです』


 座敷童。

 確かに座敷童には家にいるだけで幸運を招くといわれている、定番の妖怪といえるだろう。

 だが、その座敷童が幸運を齎さない? それはいったいどういうことだろうか。

 新井と名乗った男の話は続く。


『そして、不審に思った私は、座敷童が住まうといわれる部屋に向かったのです。……我が家にある奥の住まい、それがその部分となります。普段は当然座敷童が住んでいますから、入ることは殆どありません。けれど、行ってみたら……、そこは血のように真っ赤だったんです。写真も撮影してあります。どうか一度詳しい話を聞いていただけないでしょうか』


 それを聞いた私は、疑問を浮かべる形となった。

 座敷童が不幸を呼び寄せた、ということか?

 それにその地のように真っ赤な部屋。気になる。かなり伝承、あるいは妖怪の可能性がある。もしかしたら除去する必要もあるし、場合によっては新しい妖怪をパッケージングする必要があるかもしれない。


「……解りました。それでは一度、お話をお聞きしましょう。場所はいかがなさいますか? 事務所で話を聞きますが、別の場所でも問題ありませんが」

『そうですか……。実は私の家は江の島にありまして……、できればその近所でお願いしたいのですが』


 それなら、と私は思ってある場所を待ち合わせ場所に指定した。

 新井は困惑しているようだったが、少ししてそれを了承した。

 そうして、新井と私の通話は終了した。





 三日後。

 冠天堂フルーツパーラー江の島店に私と少年、そして新井は居た。新井は眼鏡をかけて黒いぼさぼさとした髪、それに赤と青のボーダーのポロシャツを着用した、見るからに根暗な大学生みたいな風貌だった。おっと、これをいうと根暗な大学生に風評被害だと言われてしまうが、それについては面倒なのでこれ以上言わないことにしておこう。まあ、口には出していないから安心したまえ。


「先ずは……話し合いの場を設けていただいてありがとうございます」


 おずおずとしたような口調で新井は言った。


「別に問題はない。私はそういう仕事をしているから話を聞いているだけだ。面白いかどうかは、私が判断する」

「面白い……ですか?」

「ああ。正確に言えば、私がやるに値する仕事かどうかを判断する、ということだけれど」


 フリーランスだから、こういうところはメリットになるよね。結局のところ、私としては仕事なんてどうだっていい。別に金に困っているわけではないのだから。だからこそ、私にだって仕事を選ぶことに関しては自由がある。組織に所属していればある程度組織の意思に従わなくてはならないが、個人であればその必要はない、ということ。つまり仕事を選ぶ考え方には、私の面白いと思う心が最優先に選択されることとなる。私が面白いと思えばお金なんて二の次。逆につまらないな、と思ったら幾らお金を積まれても無駄、ということだ。やる気が出ないから、仕事にならない。それが結論だ。


「……解りました。取り敢えず、お話だけさせてください。我が家に纏わる、座敷童の話を」


 そうして新井はゆっくりと話を始めた。それが私にとって面白いか面白くないのか、そして、仕事を引き受けるに値するものであるかどうかは、とにかくこの新井の話を聞いてから判断するしかないだろう。


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