6/エピローグ
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「ありがとうございました」
木遊荘の入口で、僕と夏乃さんは秋菜さんから頭を下げられた。
……はて、僕はいったい何をしていたんだっけか?
「この度は、この村にある必ず願いが叶う人形のことを調査してくださって」
「いや、骨折り損の草臥れ儲けとはまさにこのことですね。なにせまったく見つからないんですから」
そうだった。
僕は夏乃さんが請け負った『依頼』とやらを手伝いに来たのだ。
そしてそれが漸く終わり、僕たちはこの結目村を後にするのだった。
「……おい、何をぼうっとしている。行くぞ、少年」
夏乃さんはそそくさと立ち去る。僕も秋菜さんに頭を下げて、その場を去った。
◇◇◇
帰りの電車で、夏乃さんは電卓を操作していた。
「……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわ。なんでか知らないけど予算が上手く合わないのよ。二人分往復のはずなのにまったく合わない。……まさか少年、ネコババなんて……するわけがないな」
「するわけないじゃないですか」
僕はそう言って、紙パックのミルクティーを一口啜った。
夏乃さんは何か考え事をしていた。
「なあ、少年」
「……どうしました?」
「『幸せ』ってどういう意味なんだろうな」
夏乃さんはいったい何を言い出すんだ――という僕がそれを言う隙を与えずに話を続ける。
「幸せって人によってそれぞれ違うだろう? 例えば私だったら甘いものが食べられればそれで『幸せ』だと言えるし、人によっては本を読んでいる瞬間を『幸せ』と定義するかもしれない。それは人によってそれぞれだしそれをパラメータ化しようがない」
「……何を言いたいんですか?」
夏乃さんはそこまで言ってすっきりしたのか、或いは続きが思いつかなかったのか、車窓に目線を向けた。
「幸せって、不運なことがあるから幸せだと言えるんじゃないですかね」
「ん?」
「だってそうじゃないですか。幸せなことが続けば人はそれを『幸せ』なんて定義しませんよ。だってずっと幸せが続いているのだから、それが普通だと思ってしまう。けれど、不運なことが起きてからの幸せは幸せだと認識出来ますよね。つまり、そういう事なんじゃないですかね」
僕はそれに、ところでどうしてこんな話題を? と付け足した。
夏乃さんは「少し気になっただけだ」と言った。
車内は再びモータの駆動音に包まれた。
第二話
ネガヒ様の村 終




