プロローグ
一通のメールが彼らの運命を変えた。
記憶の無い日本人の青年マモル、露出狂の変態隊長リンダ、過去のトラウマにより精神を崩壊させたメアリー。
そんな彼らの運命を変える、原因を創り出した人物とは一体。
全ての始まりは、パソコンに届いた、一通のメールからだった。
「ねぇマモル、メアリー。ちょっと見て頂戴、仕事の依頼みたいだけど…面白い事が書いてあるわよ、子どもの悪戯かしら?」
今、俺の事を呼んだ女性。
名はリンダ・フォーカード、俺が所属している傭兵部隊の隊長だ。
かつては特殊部隊に所属していたのだが、ある事件をきっかけに除隊されたらしい。
そして俺の名はマモル、リンダ隊長の部隊に所属する傭兵の一人。
リンダ隊長によって俺は保護された。
だが、俺は小さい頃の記憶がない。
聞いた話しだと、俺は路上で片手にリボルバーを持って座り込んでいたらしい。
血まみれの状態で、死んだ魚のような目をしていたと。
そこを通り掛かった隊長が、連れて帰ったと聞かされた。
「答えは自爆!爆破音!私を捕らえてフォーリンボム!これ私の妹からのメールDEATH!」
俺の隣で騒いでる女の名はメアリー。
年齢は、俺の一つ下の傭兵で、頭のネジが思いっきりぶっ飛んでいるのが特徴だ。
黙ってれば可愛いんだが、何かにつけて爆弾に結び着けては問題をしでかす天才。
そんな俺達の元へ届いたメール、それはまさに子どもの悪戯かと思える内容。
ところどころが誤字が混じっているものの、読めないほどではなかった。
ただ読み上げると、少し笑いそうになってしまう。
「オミエ達?は名誉あるごとの、魔王軍専属の兵士として選ばれまちた。つきまちては、詳ちい事をお話ちたいので、下にありますYESかNOのどちらかをクリックちてください…ですって、しをちと間違えてるわ」
「どうする隊長?子どもの悪戯に乗せられるか?それとも無視?メアリー?お前はどうおも…」
「イエス!イエス!イエス!爆破スイッチオン!」
ここでメアリーがマウスを操作して、勝手にYESを押してしまった。
だが、何かが起るなんて事はないだろう。
所詮は子どもの悪戯、ただの迷惑メールと思った瞬間。
パソコンの画面が、突如ブラックアウトしたのだ。
一瞬、新種のウィルスにやられたと思ったさ。
画面に赤い魔方陣と謎の文字が映し出されて、どう見ても悪戯にしか思えない。
相当にたちが悪い…買ったばかりのパソコンなのに。
「何よこれ?パソコンがおかしくなったわ。もう!オンボロなんだから!」
「いや、これ最新型だから。多分ウィルスメールか何かだろ、最近のは強力らしいからな」
パソコンを叩く隊長を止め、色々と弄ってみるが反応はない。
やっぱりウィルスにやられたか、最悪だ。
これじゃあ、テンションが下がだださがりだ。
せっかく仕事の依頼が来たかと思えば、こんな無駄な事をさせられるなんて思ってもみなかった。
「ダメだ…完全に死んでる。今日のところは電源落として、明日にでも修理に出すしかないか、クソッタレが」
「うひゃひゃひゃ!爆破爆破爆破!PC型超小型爆弾!PC4爆弾を作りあげる!ピラルクのムニエル食わせろぉぉぉ!」
俺は電源を落とそうと、スイッチに手を伸ばした。
だが同時にそれは起った。
画面に映し出されていた魔方陣と文字が、突如光りを放ちだしたのだ。
光はとても暖かく、まるで包み込むかのように俺達三人を照らしてくる。
とても暖かい、もの凄く暖かい。
なんだろう…この安らぎを与えてくれる光。
心が
…いやなんか熱くね?これ燃えてるレベルで熱いって!
熱い熱い!燃えてる燃えてるって!ヤバいって!
チクショウがぁ!俺は童○のままで死ぬのか!?
死ぬなら、隊長の胸に圧迫されながら死にたかったぜ…。
「マモル、マモル起きて、マモル!」
眩しい…隊長の後ろから光が差し込んでくる。
なんだ?この黄金のような輝き。
状況が全く理解できないぞ。
隊長は無事、メアリーも元気に爆弾を作り始めてる。
本当にここどこだ?俺達は確か、事務所蒹自宅にいたような。
「いやぁ、本当にすまない事をした。まさか本当に依頼を受けてくれる人間が現れるとは思ってもいなくてね,テンションが上がりすぎてつい火力を上げてしまったんだ」
誰だ、この美青年。
真っ赤な髪に、真っ赤な目に…角?
なんだよこのゲームとか漫画に出てきそうな青年?
まさか、異世界転生したのか?
ないないない!普通ありえないって!
てかどうして俺達?まさかあのメールが原因か?
聞いた事ねぇよ!傭兵をメールで異世界に呼び出すなんて!
せめて事務所まで来いよ!
「あの悪戯メールはアナタの仕業?随分と凝った悪戯をしてくれるじゃない、大人のお姉さんを怒らせるとどうなるのか教えてあげる」
隊長…この状況を完全に悪戯と勘違いしてる。
今俺達は、元居た世界にいるのではないことは確か。
本当にゲームや、漫画の世界に迷い込んだ気分だ。
とりあえず隊長には、この状況を理解をしてもらう必要があるな。
「ちょっと隊長。多分これ悪戯じゃなくて、ガチで起ってる事態、緊急事態発生」
「え?だってあのメールとか悪戯でしょ?私達はあの強い光を浴びて気を失っている間に、ここへ連れてこられたんじゃないの?メアリーもそう思うでしょ?」
「現実爆破!人類皆爆発すれば兄弟になる!爆弾兄弟イエーイ!おやすみ!」
寝やがっ…コイツ一度眠るとなかなか起きないんだよな。
こんな大事な時に普通寝るかよ…まぁこいつは普通じゃないからな。
ってそんな事を考えてる場合じゃねぇ!
この状況を整理しない事には、隊長が何をしでかすか。
俺達の置かれた状況は、普通では到底ありえない事態に間違いはない。
目の前には、俺達がここに来るようにさせた張本人の青年。
それも超美形と来ているから、腹が立つ禿げろ!。
ダメだ…どう考えても、この状況の打開策が見当たらない。
「あの…お取り込み中すまないのだが、自己紹介をさせて欲しい、私はこの城の主、レオナルド・エルガンテ、職業は魔王だ」
ま、魔王?魔王ってあの魔王?
世界征服を狙ったりしてる?
勇者が倒す為に戦うっていう?
倒しても、次の形態を残してたりするあの魔王か?
こういうのって、普通は逆の立場が召喚したりするような気がするんだけどな。
魔王によって世界を支配された、だから勇者を召喚しようとか。
まだそっちの方が、より現実味があるってものだ。
いや、実際にはそんな事もないんだけどさ。
対して、魔王に召喚されるってのは聞いた事がない。
まず第一に、何故魔王は俺達を呼ぶ必要があったか。
その次に、魔王の目的とは一体なんなんだ。
「どうか怯えないで欲しい。私は確かに魔王だが、別に君たちに何か危害を加えると言う事はしない、雇いたいんだ、君たち傭兵を」
「随分とおふざけが過ぎるのね、私達を雇いたいですって?調子に乗るのもいい加減にしなさい」
「だから隊長、これは現実だ。まずあの一瞬でこんな場所に運び込むなんて不可能だ、閃光手榴弾や催眠ガスを使われたわけでもない、受け入れるのが難しいのは俺も分ってる」
頼むから、俺を信用してくれ。
「…マモル…私はアナタが、私に対して嘘をつかない事くいらい知ってる。それは小さい頃から見てきたらこそ信用が出来る、でもこれが全て真実というなら、それを示す為の証明が出来る物が無いと難しいのよ」
隊長の言うとおり、この状況が真実だと証明出来る物が必要だ。
だがこの証拠を出すといっても…目の前に居るじゃねぇか!
そうだよ!魔王が証明すればいいんだよ。
どうして今まで思いつかなかった、俺!
「アンタ!魔王だよな!?何か力を見せてくれ!じゃないとうちの隊長が受け入れられそうにない!」
「証明?私の力を見せるのであれば、容易いご用ではあるが…これで良いかい?」
そういって魔王が見せた力は、とても強大なものだった。
背後から突如吹き出す炎の柱。
まるで地獄を連想させるそれは、俺達が本当に異世界に居る事への、紛れもない証拠になった。
青ざめる隊長に、燃えさかる炎に気づき目を覚ますメアリー。
正直、俺達の運命はこの魔王の手の中にあるのかとも思わされる。
本当の事を言わせて貰う、俺達はまともな実戦経験なんてない。
傭兵は傭兵でも、落ちこぼれなんだよ。
あるのは護衛とかそういうことばかりで、ちゃんとした銃撃戦はまだ一度も行ってない。
大抵が、不慮の事故で終わる。
例えば、ターゲットの護衛は車両爆破により失敗だとか。
金の強奪も、間違ってガソリンを掛けての引火。
もう上げれば切りがない程、失敗続きだ。
それを魔王に雇われでもしたら、首が飛ぶかもしれない。
なんとしてでも断らないと、だが断ったら…。
「理解が出来た所で、依頼内容を話したい、実はある悩み事があるんだ…私が魔王という理由だけで勇者がこの城に来るんだ…幾ら追い払ってもまた来たり、新しい勇者が来たりで大変で」
魔王が追い払っても、また来る勇者か。
ある意味ウザいかもしれないな。
何というか、この魔王は世界征服とか考えてないのか?
…なんだか、可哀想に思えてくるな。
見た感じ、イメージしてるのと違う気がする。
悪い魔王というよりも、弱い魔王?の方がピッタリだ。
「何度も攻めてくる、それはお困りね…つまりは、その勇者を討伐する為に私達を、えっと…別の世界?に呼んだと言う事でいいのかしら?」
「ああ、その通りだ。いきなり呼び出した事は申し訳ないと思っている、だがこうするしか方法はなかったんだ」
魔王の話によると、この世界と別の世界を行き来すると言う事はとても難しい。
唯一の移動手段と言うのは、片方が片方を召喚をするという方法のみ。
自分の意思での異世界移動というのは行えない、だからこうして俺達を召喚したということらしい。
メールに関しては、魔術を使い通信を行う事が出来るそうだ。
ただそれには莫大な魔力消費が必要らしく、普通の人間には到底不可能とのこと。
「つまりは、私のような偉大な存在にのみ許された特権と言う事だ」
急に偉そうになったな。
魔王だから偉いってか?
「私達を雇うと言うならば、それなりの報酬は支払って貰えるんでしょうね?」
「報酬か…無論支払うつもりだ。それ以上に、我が軍に所属してくれるならば、報酬以上の収入を約束しよう」
報酬以上の収入を約束か…悪くはない話だ。
むしろこれは、俺達にとっては好都合なのではないだろうか。
…ちょっとまて、さっきの話を整理するとだ。
俺達は魔王によって召喚された。
その理由は、ただ勇者を倒して欲しいが為に。
でだ、魔王はこちらに来なかった理由が、こっちにこれないから。
召喚する事は出来るが、送る事は出来ない。
つまり…俺達は元の世界に帰る事が出来ないと言う事か!?
どちらにしろ選択肢なんてねぇじゃねぇか!?
「いいわ。その話、乗らせて貰うわね」
ふぅ、仕事を受けるかどうかは隊長次第。
彼女が受けるというのであれば、部下である俺達はそれに従うまで。
隊長が黒と言えば黒になる、白と言えば白にもなる。
たとえば、メアリーが履いてるパンツがグレーでも、黒と言われれば黒と言わざるおえない。
「では、契約成立と言ったところだな。早速だ!丁度勇者達がここへ向かってきている!その勇者達を撃退してくれ!健闘を祈る!」
そう言うと、魔王はどこかへと歩いて行ってしまった。
「じゃあ、行くとしましょう。お金を稼いで儲けるわよ!そして続けられそうなら!ここに就職するわよ!」
「勇者の顔面でケツ拭いてやるぅ!グリーンイグアナが食べたい!」
元の世界に帰れなそうな話は、後で隊長に話しておくとしよう。
とりあえずは、仕事をこなして…。
…やべぇ…俺達、武器持ってきてないじゃん。
早速積んだよ、どうするんだよこれ。
異世界に召喚された三人。
魔王が勇者を撃退する事を条件に、報酬を支払う事を約束し、去ってしまった。
武器を元の世界に忘れてきたマモル達はどうするのか?