今の僕は立ち止まったまま
再び目を覚ましたときには午前10時を過ぎていた。
たとえ、年末年始と言えども規則正しい生活送るべきと考えている僕にとってはこれは失態である。
ー矢川雪菜ー
初めて会ったときは、確か4歳頃だっただろうか。親の紹介で知り合った。
もとより友人が少なかったため、彼女と過ごすことが多かった。基本は公園で。ちょっと遠出して河川敷のほうまで行ったり。山のほうまで行っちゃってこっぴどく怒られたっけ。
そのまま数年経って同じ小学校に通って、偶然にも2回クラス替えがあったけど5年間ずっと同じクラスだった。
そして、あの日…。
12月25日。クリスマスのあの日…。ーーー
ーーー
「もう、今年も終わっちゃうんだね。」
「あっと言う前に過ぎちゃったな…。」
壁に掛けてある時計に目をやると5時を指していた。そろそろ帰らなければ、また母に叱られてしまう。
だが、今日はクリスマスだ。少しばかり遅れてもいいだろう。
ーーそれに、言わなきゃいけないこもあるし…。
「ん?どうしたの?」
俯く僕をのぞき込む雪菜。
「あっ!いや、その…。」
「その…、何?」
「あ、明日の朝すごい雪降るみたいだな。」
「う〜ん、そうみたいだね。」
ーーダメだ。また、言えなかった。どうしても緊張して言葉が出ない。
ずっと前から決めていた。今年のクリスマスに告白すると。小学5年生の自分がこんなことをするのは少しばかり早いかもしれないけれど、この気持ちははっきり伝えておきたかった。でも…。
「あれ?そろそろ帰る時間じゃない?大丈夫?」
「んっ?あぁ、そう…だね。帰る準備しないと…。」
雪菜に流されるまま彼女の家を出て、送ってもらっているのにも関わらず、ついに言い出すことが出来なかった。
そして、いつもの「踏切」
「それじゃあ、また来年かな?」
そう言って首を傾げ、長い髪の毛を揺らす。
いつも一緒にいたはずなのに、ちょっとした仕草で胸が高鳴ってしまう。
「そうだね…。また、来年…。」
寒いはずなのに顔が熱い。上手く喋れない。勢いで言ってしまえばいいのに!言葉が…出ない。踏み留まってしまう。
「ねぇ、ホントに大丈夫?今日ちょっと変だよ?なんか、いつもと違うような…。」
「そ、そんなことないよ!!いつも通りだって。」
「ホントにぃ?」
「本当にホントだって!」
じーっとこちらを見つめる雪菜。内心を悟られないように不動の僕。しばらくそんな時間が流れた。
「ん〜…。まぁいっか。それじゃあ、良いお年を。」
「うん。良いお年を。」
すたすたと逃げるように帰る僕。現実的にも告白的にも逃げた。でも…、いつかはしっかり伝えなければならないことは確かだ。
今回、こんなに緊張するなんて想定してなかった。今度はしっかり対策を練って挑もう。そして、出来るだけ早くに。だから……!!
体が勝手に動いていた。雪菜の肩に手をかけ尋ねる。
「次、いつ遊べる?」
「そうだなぁ…、お父さんの仕事の手伝いとかしなきゃだから……。3日かな?どうしたの急に?」
「伝えたいことがあるから。大切なこと。その、だから…。」
しどろもどろに話す僕を見て、雪菜は笑った。
「な、何?どうした?」
「いや、なんて言うか、いつもの雪ちゃんに戻ってよかったなって。」
「なんだよ…それ。」
「分かった。3日、楽しみにしてるね?」ーーー
ーーーだが、その時は来なかった。
何故なら、この日。僕を見送った帰りに何者かに誘拐されてしまったのだから。
僕のこの思いが彼女に伝わる時はこの瞬間から消えたのだ。これから続くはずだった二人の未来も…。
二日酔い対策にと、買い置きしておいたインスタントのシジミの味噌汁が活きた。
だが、薄々感じている。この頭痛は二日酔いからくるものではないと。
ーーなんで今更、こんなこと思い出したんだろう。
忘れた方が良かった。このままずっと…。
ピンポーン
と、家中に鳴り響いた。ぼーっとしていたせいかインターホンに映る人を見ずに玄関へ向かった。
何か、頼んでいただろうか?もしくは実家から何か送られてきたのか…。
考えがまとまらないままドアを開けた。
「久しぶり。」
冬だと言うのに、白いワンピースを着た髪の長い女性が立っていた。
瞬時に誰だか分かった。背丈は違えどもおそらく間違っていないだろう。
「矢川…雪菜か?」
「正解!さっすが雪ちゃん!」
20数年生きてきて僕のことを成平雪人のことを「雪」と呼ぶのは両親と雪菜しかいない。
懐かしい気持ち、嬉しい気持ち、そして何故ここにいるのかと言う疑問。様々な感情が入り乱れた。理解が追いつかない。
時計の短針は11を指した頃。
消えたはずの時間が動き出す。
遅れて申し訳ない…
もしかしたら、誤字があるかもしれませんがご了承ください。
ここから、主人公『成平雪人』と『矢川雪菜」のこれからが始まります。