年の差ツインソウル1
居間に掃除機をかける主婦。
「貴方、ちょっとどいて」
「……」
夫は動こうとしない。
仕方がないので、夫の周りに掃除機をかける。
バタバタと掃除を終わらせ、出かける支度をする主婦。
彼女は、三枝双葉40才。
夫は彼女が勤めていた会社の上司だった。
当時25才の彼女は、上司である今の夫との間に子供が出来た。
戸惑う彼女をよそに、親達が話しを進めて行き、気がついたら結婚させられていた。
それでも子供が生まれると幸せだった。
そして、15年。
普段はろくに口をきかない夫は、呑むと時々暴れる時が有る。
そして、激しく彼女を求めたりする。
それはまるでレイプのよう。
(酔わなければ悪い人じゃないんだけどね)
「貴方、出かけて来るわね」
「……」
(返事もしないんだから…まあ、15年も一緒に居る夫婦なんて、こんなもんかしらね。私は娘さえ居れば幸せだわ)
【並木道】
双葉は、サロンの看板に目を止める。
「スピリチアルカウンセリング。カードリーディング。ヒプノセラピー」
(ここを通ると気になってたのよね。カードリーディングってなに?)
「いらっしゃいませませ」
つい、何と無く、フラフラ~っと…
(入って来ちゃった)
「どうぞこちらへ」
奥のテーブルの席に座らされた。
「オーナー。お願いします」
「はい」
奥の部屋から女性が出て来た。
「いらっしゃいませ。私、神緒と申します。宜しくお願い致します」
「あ…お願いします」
「今日は、どのようなご相談ですか?」
「え?あ、何と無く入って来ちゃって…あの、カードリーディングって占いですか?」
「似たような物ですけど、私の場合聖霊に引かされますので、占いとは少し違うかも知れません」
そう言うと、サロンのオーナー神緒美貴は、箱に入ったカードを出して並べた。
「色々なカードが有るんですけど…直感でどれが良いですか?」
「えー、じゃあこれ」
「では、今日はタロットで」
リーディングが始まった。
「未来のカードに、カップの2が出てますね、運命的な出会いを暗示しています」
「はあ…出会いって、私もう40ですから…って、運命的な?」
(無い無い、今更そんな出会いなんて無いわよ。カードリーディングって言うから、どんな物かと思ってたら、タロット占いね)
それでもサロンを出ると、何と無くウキウキして歩いていた。
(まあ、悪い結果じゃなかったから、良いっか。過去はちょっと当たってたけど…未来は何が起こるかわかんないよね)
(さあ、買い物して帰ろう。あ、こっちの方が近いか…私方向音痴で中々道覚えないわ)
双葉は細い路地を入って行った。
(うちの近くのスーパーでも良いけど、せっかく電車に乗って来たんだもんね。何か変わった物が有るかも知れないし…)
【スーパー】
買い物を終えて、双葉が出て来る。
外は薄暗くなっていた。
(もう暗くなってきた…秋は気忙しいわね)
路地を曲がると、向こうから帽子を深く被った男が来る。
すれ違いざま、双葉のバッグに手をかけた。
「ちょ、ちょっと、何すんのよ!」
(ひったくり?離すもんですか!)
男と引っ張り合いになる。
レジ袋から、食品が飛び散る。
(何が運命的な出会いよ。ひったくりよ、ひったくり)
「ワン、ワンワン」
散歩の途中飼い主の手を離れたのか、リードをつけた犬が来て男に吠えた。
「ウーワンワン!ウー!!」
「あっち行け!」
「ワン!ワン!」
犬は、ひったくり犯に飛びかかった。
「うわっ」
「ウー!ウー!」
「くそう」
男は走って逃げた。
犬は、クンクンと、レジ袋の中の臭いを嗅いでいる。
「助けてくれてありがとう。あーでも、あなたの食べれそうな物無いや」
「マックス」
「あー、もしかして飼い主?」
「これ、コイツの仕業?すみません」
「え?違う違う、助けてくれて」
双葉は、ひったくり事件の経緯を話した。
「おばさんケガしてるよ」
「ああ、これは違うの、昨日主人が酔って暴れて…」
(って、何話してるのよ、私…それより、オバサン?そりゃ私はオバサンだけど)
「ご主人酒乱?」
「酔うと豹変するのよ」
(って、初対面の子に言う?まあ良いっか、もう会う事も無いだろうし)
「俺は女に暴力振るったりしないけどな。酔ってもあんまり変わんないし」
「女に暴力なんて男として最低よ」
「そんな男と結婚したんじゃん、おばさん」
「仕方なかったのよ」
「これで全部かな?」
青年は、散らばった食品を集めて袋に入れた。
「ありがとう」
「行くぞマックス」
そう言うと、犬と一緒に走って行った。
「あ!助けてもらったのに、名前も聞かなかった」
(ああ、聞いたか、マックス。助けてくれたのは犬だもんね)
【居酒屋】
「そんなに気になる?もしかしたら、そのタロットの運命的な出会いの相手とか思っちゃってない?」
「まさか!そんなんじゃないわよ」
(あんな若い子が運命の相手だなんて…)
「だって、さっきからその子の話しばっかしてるじゃない」
「何かね、馴れ馴れしい子だったのよ。でも、何であんな事初対面の子に話しちゃったんだろ?私」
「ストレス溜まってたんじゃない?」
「初めて会った気がしなかったのよね、昔から知ってる子みたいだった。何か懐かしい感じがしたのよ」
(何で懐かしいんだろう?不思議…)
「おう、いらっしゃい」奥からオーナーが出て来て言った。
「双葉。今日は呑んでて良いのかよ?」
彼は、2人の同級生の三津谷。
「主人は出張だし、娘はお婆ちゃんの家に行ってるから良いのよ」
「こんな時じゃなきゃ、呑みに来れないもんね、双葉は」
「友美は良いわよね、自由で」
「うちのも今頃どっかで呑んでるからね」
友美は結婚が早かったので、子供は成人して家を出ていて、夫と2人で暮らしている。
(夫の前にも何人か恋人は居たのに、何であんなのと一緒になっちゃったんだろ?でもまあ、今は娘が居るからね)
(娘さえ居れば私は幸せなのよ。今更恋愛なんてね…私に限って無い無い)
この時まだ双葉はそう思っていた。
それでもふと気がつくと彼の事を思い出す毎日。
(犬の散歩をしてたんだから、あの近くに住んでるのよね)
それからちょくちょくあのスーパーに買い物に行くようになった。
あの路地を歩くとドキドキした。
犬を見かけると、マックスではないかと思ってドキドキ。
(何やってるんだろう?私…)
テレビでソウルメイトに関する番組を見た。
「ソウルメイトね…」
(彼は私のソウルメイト?何でこんなに気になるのよ?1回会っただけじゃない)
(ソウルメイトならあれで終わりじゃないでしょう。だいたい魂なんて本当に有るの?)
ソウルメイトの事をネットで調べたりした。
(ふーん、そういう相手が居るんだ…そりゃそういう人と結婚出来れば良いだろうけどね…)
(皆んなが皆んなそういう人と結婚してるわけじゃないのよ。妥協して結婚するのが殆どでしょう。私なんか、わけがわからないうちに結婚させられてさ…それで15年よ)
そんな毎日のある日、洗濯をしようとしても洗濯機が動かない。
「故障かしら?」
(結婚した時から使ってるんだもん、もう寿命か)
【家電量販店】
(へー、やっぱり新しいのは良いわね。毛布とかも洗いたいし、大きいのにしよう)
洗濯機を買って店を出ようと通路を歩く。
携帯電話のコーナー。
「おばさん」
あの時の青年だった。
ドキッ!とした。
心臓が破裂しそうだった。
「携帯壊れちゃってさ」
「私は、洗濯機壊れたのよ」
「いつ?」
「今日」
「俺も今日」
青年の笑顔が輝いて見えた。
「スマホにしたんだ。おばさんのは?」
「スマホだよ」
「見せて」
「これ」
「同じ会社だ」
「あ、何してんの?!」
「俺の番号入れた。電話代タダじゃん、かけてよ」
「何でよ」
「良いじゃん、あの時助けた恩人だし」
「恩人は、マックス君でしょう?」
「俺の犬だし。俺とマックスが通らなかったらどうなってた?」
「それはそうかも…お昼おごるわよ」
「良いの?」
「お礼だから」
「やった!」
そして2人で食事をした。
彼は三条宏二、22才。
「何か、京都の地名みたいな名前ね」
携帯の連絡先に彼の名前を入れた。
「三条小路」
「その字じゃないよ」
「わかってるわよ」
「俺さ、おばさんと又会えないかなーって思ってたんだ」
「何言ってんのよ、オバサンをからかわないでよ、って、オバサンはイヤよね」
「じゃあ、名前は?」
「三枝双葉」
彼と別れて電車に乗ると、メールが来た。
「さっきは、ごちそうさま、ありがとです♪(o^^o)」
「いえいえ( ´ ▽ ` )」
それから双葉は、彼からメールが来ないか、そればかり気になった。
(メール来ないな…電話かけてよ、って言われたけど、かけてどうすんのよ?こっちからかけられないでしょう)
ネットでソウルメイトを調べていて気になる記事を見つけた。
「ツインソウル?何それ?」
(ツインソウルは双子の魂で、1人に12人居て1割以下が同性…ツインソウルは、恋愛関係になりたがる…)
(巡り会うのがとても難しく、今生にツインソウルが居ない人も…)
「へー…じゃあ違うわよね」
(ツインソウルはシンクロする。驚くような偶然が有る。それは偶然ではなく必然である…どちらかが風邪をひくと、同じ時に相手も風邪をひいていたりする)
(偶然会ったけど…洗濯機が壊れて…宏二君も携帯が壊れたんだった)
(偶然よ、偶然…)
「魂…ね…」
(ツインソウルは、わけもわからず涙が溢れる時が有る…手や爪がそっくり)
「良く見れば良かった」
(ツインソウルは、巡り会うと相手の今迄の事を知りたがる…以前住んでいた所や行動範囲が同じだったりする)
「へー、これは聞いてみたい」
(ツインソウルは、一筋縄ではいかない。どちらか、又は両方が結婚又は恋人が居る状態で巡り会う事が多い…)
(ツインソウルは、タイプではないのに何故か強く惹かれたりする… 年の差などの障害が多い…)
「まさか…違うわよね…」
まさか、まさかと思いながら、心のどこかでツインソウルなのではないかと思い始めていた。
(コイツに違いないと思う…ツインレイはエネルギーが繋がるから本当に自分でわかる)
「ツインレイって何?エネルギー?そんなの知らないわよ。コイツに違いないって…確信が欲しいから調べてるんじゃない」
(強く惹かれ合いながら、肉体的な関係を持たないツインソウルも居る…結婚するかしないか、それは課題によって決められている)
「課題?」
【並木道】
美貴のサロンの前。
(あのタロット、当たってる気がする。ソウルメイトかツインソウルか、そんなのわかんないけど、神緒さんが言ってた運命的な出会いって、宏二君の事だわ)
ふと通りの向こう側を見ると、宏二が居る。
「あっ」
ドキドキした。
店から出て来たようだ。
後から同じ年頃の女の子が出て来て腕を組んだ。
双葉は胸を突かれた。
とても痛かった。
(なーんだ…彼女…居たんじゃない)
涙が溢れて来た。
(え?何で涙?やだ、私…涙が勝手に…バカね…こんなオバサン好きになるわけないじゃない)