表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華の街  作者: 花椿蘭
5/6

恋心

「まだ、起きてたんですか」

音もなく障子を開けて澄高が入ってきた。

澄高自身も寝巻に着替えておらず、今まで動いていた様子だった。

多分、仲間の生存確認や諸々の手配に翻弄していたのだろう。

「あぁ。すまぬ。少し落ち着かぬのだ」

澄高は机に膝をついている小五郎の前に座った。

「大変な1日となりましたね」

小五郎は少しため息をついて目を伏せた。

「皆に息抜きをしてもらおうと思ったのだが、裏目に出たようだ」

「まさか、新撰組が出てくるなんて」

「澄高にも迷惑をかけたな」

そういうと、澄高はニコニコ笑った。

物腰も柔らかく、身にまとった雰囲気も落ち着いている。

大人びた顔は年相応には見えない。剣を持たないくせに、極まれに仕合いをするような目つきになる。

「驚きましたよ。世司さんなんか帰ってくるなり水!って騒いで

 落ち着いたかと思ったら、俺は殺されるんだ!って騒いでました」

本当に面白かったのだろう、身振り手振りを加え場ながら

小五郎が帰ってくるまでの出来事を話す。緊急事態だというのにまるで他人事だった

幸いけが人や死人はでなかったが、逃げる際に誰かに後をつけられているかもしれない。

「明日、ここを離れるか」

「はい。その方がいいでしょうね。

 そう思って、すでに色々手配しておきましたから」

騒ぎが起きてからそんなに時が経っていないのにも関わらず、手際が良いのは頭が切れる証拠だ。

「相変わらず、仕事が早いんだな」

小五郎はなんとなく、心ここにあらずで話していることに澄高は気が付いていた

「何か、ありました?」

澄高の声に我に返ったように背を正した。

心を見透かすような澄高の目は心に刺さるようだった。

「あぁ・・・お前には嘘はつけんな」

と少し自嘲気味にほほ笑んだ、

「お前にはわからん感情だよ」

「はぁ?」

小五郎は時々、澄高という男に苛つ事があった。

女に疎いところが災いして言葉の芯の意味に気が付く事ができない事もある。

その際には、初めから話さないといけない。それはひどく面倒であった

「恋ですか?」

澄高が笑いながら言った言葉に、小五郎は目を丸くした

「驚いた。。。」

「少し考えれば、わかることですよ。私にはそういう感情はわからないので

 話を聞くことはできますけど、助言はできませんよ?相手が遊女なら、なおさらです」

澄高はニコニコと笑顔をこぼしながら、小五郎の言葉を待っているようだった。

「私には妻がいる。到底、叶えられるものでもないのだ。

 おかしいだろ?遊郭なんて、夢を買うところだと頭ではわかっているのに心がいう事を聞かないのだ」

小五郎は机に伏して話を続ける

「私には彼女の心は癒すことができないのだ。」

暫く、沈黙が続いた、

澄高は微動だにせず、ただ、そこに座っていた。

彼そのものが空気のように、いるのかいないのかわからないくらいに。

きっと澄高は自分を軽蔑しているに違いない。

「彼女は、どんな人なのですか}

あぁ。そうだった、

澄高とはこういう人間だった。とことん人の話を聞いて、理解しょうとする人間だ。

感情で話す人間とは全く違う。

なぜ、このような人間が倒幕派になって革命を起こそうとしているのか理解に苦しんだ。

野心なんて感じたことがなかったからだ。何時、なんどきも平和を好んでいるのは明らかだった。

小五郎は疑問の念と底知らぬ恐怖を感じていた。

と、同時に澄高が自分の一味に加わった日を思い出した。

その日は夕方から雨が降っていた。

宿舎の門扉に傘もささずにずぶ濡れで立っており、気味が悪く、小五郎は意を決して話しかけた。

その時、澄高は一言「世の中を変えたい」それだけ言った。

目の色はなく、目の奥の方で悲しみと怒りとが混じった怪しい光が輝いているのが見て取れた。。

今、考えればそれはとても不自然な出会いで

もしかしたら、幕府側の人間かもしれないと思う事もある。

「そう・・・いつも、悲しい目をしている。彼女から出る言葉は【自分】がない

 まるで人形そのものだ。。でも。。。」

あの時、

おそらく、小五郎達を捕縛するために葵屋にやってきたであろう

新撰組の副長、土方。

桂もよく知っていた。

新撰組の中でも、人格を恐れられている。

容姿もよく女性には人気だが仕事に熱心で女の事はからっきしダメだった。

仕事の為なら女も容赦なく斬り捨てると風のうわさで聞いた事があった。

だから、土方の前に白百合が出た時、どうなるかと心底心配した。

仕事の邪魔をしたことで土方に一太刀浴びせさせるのでは?と気が気ではなかった。

助けなければ。そう思ったけれど、彼女を助ける事に躊躇い、躊躇してしまった。

今、自分が出ていったらどうなる?捕まったら?

自分の命を削りここまで来たのに、すべてが崩れてしまう。

心では助けたいと強く思ったが頭はそれを拒んだ。体がうまく動かなく事を見ているしかなかった。

情けないとさえ思った。

対照的に白百合は立派に「花魁」として土方の前にで花魁の生き様を見せつけたように見えた。

それはいつしか見た花魁道中の白百合よりも神々しく、誇り高かった。

そして、土方に向けたあの笑顔。

勿論、演技であることは一目瞭然だったが、小五郎の前では決して見せたことがない類のものだった。

それをみて、心がざわざわと動くのを感じた。怒りにもにた心のざわめき。

白百合の言葉を借りるのであれば、「嫉妬」をしていたんだと思う。

「小五郎さん。私思うんです。 人間思っていることは、声に出さないと伝わらないって。」

澄高は穏やかな笑みをこちらに向けていた

小五郎の心を読み取ったように言った澄高はまるで魔術師のように感じた

「あぁ。。。そうかもしれぬな」

伝えなくてもよい感情なはずだった、止めどもなく溢れてしまったこの気持ちは

絶対叶えることができなくても、伝えることが大事なのではないかと思った。

そして、この感情を、愛を彼女に伝えることで彼女の心が少しでも暖かくなるなら

それでそれで嬉しことかもしれない。

ふと、澄高を見たとき彼の首元に装飾があったことに気が付いた

「澄高?そんなの首から下げていたか?」

麻の葉模様に似た形のヒスイだった。

ふと、小五郎は違和感を感じた、古臭い感じのするそれは

彼の趣味趣向から外れていて、自らが好んでつけているとは思えなかったからだ

「え?あぁ…これですか?」

っと、装飾を手で触ると少し考えこむよう様子を見せた

「あ、いや。いいのだ。少し気になっただけだ」

「…これは、私の戒めです。」

そういうと澄高はほんの一瞬、真顔になり

一瞬だけ、初めてであったの時のように、怒りと悲しみの色が目に差したのを

小五郎見逃さなかった。



「無茶をしてくれるな」

葵屋の白百合の座敷。

真っ青な色に赤や白、桃色、黄の糸で花の刺繍が施された着物は

白百合の白い肌に際立って眩しく見えた。一瞬その出で立ちに息を飲んだが

小五郎は白百合をきつく抱きしめた。華奢な体が布の上からでも確認できるほどに

しかし、白百合は顔色一つ変えることなくされるがままだった。

窓からは伏見で働く人々の元気な声がしていた。

笑い声、子供たちのはしゃぐ声。それのすべてが平和だ。

風鈴が弱々しく鳴った。湿った風は今以上に暑く感じさせた。

暑さで、白百合の首元が少し汗ばんでおり、それが妙に艶っぽく、白百合を押し倒したい衝動に駆られた

「あいつらは新撰組だ。女であろうと簡単に斬るんだぞ!」

ふり絞るような声で小五郎は言った

「小梅が…」

相変わらず感情のない言葉。

昨日の白百合はちゃんと「生きていた」。しかし今はいつも通りである。その変化にまた心が痛んだ、

ー悔しい。私にはあんな顔を見せたことがないのに…

「小梅に感謝してください。」

それだけの短い言葉。だか、その言葉もなんだか愛おしく感じてしまった。

ーあぁ。私はこんなにも彼女の声に一喜一憂してしまう。

「ん?」

小五郎は、ふと、あることに気が付いた。

何時もと、何かが違った。

「今日は練香をつけていないのだな。。。

 ・・・・また、仕事か」

幾度となく、その事に心が引き裂かれそうになったか知れなかった。

彼女は、今日も人を殺めに行く。

「桂様? 

 この仕事を桂様に紹介していただいて、感謝しております。」



花魁道中で白百合をみてから白百合とこの葵屋で会うようになって幾日か経った時

白百合から”人探し”をしている事を聞かされた。

詳しく話を聞くと、もしかしたら、探し人はこの動乱の世の一端を担ったいる人物ではないか?と

感じ、少しでも協力ができないかとこの仕事を紹介した。

つまり

ー動乱の世を生きる人達を助ける仕事ー

勿論、小五郎は倒幕側の人間だったから倒幕側の人間の手伝を願い出た。

聞こえはいいが本質はなかなかなものだったと思う。

知らず知らずに倒幕側の人間と関りを持ち、自分の意に関せず彼らの考えた策の

一端を担わされる。じわりじわりと倒幕側に引きこまれて蟻地獄のように逃げられなくなってしまう

最初は人殺しなどではなく、簡単な仕事だった。

ある時は、他人の目を背くための偽装の夫婦を演じ

ある時は、どこかに文を運んだ

またある時は町娘に扮して情報屋のようなこともやった。

いろんな人間と関わるし、いろいろと情報も入ってくるから人探しには最適な仕事のように見えた。

勿論、危険な事は小五郎も十分に理解はしていたが大して大きな事にはならないだろうと踏んでいた。

だってそうではないか。

例えば、文を運ぶ仕事に関して言えば、

文を運ぶのは誰だってするし

もし、疑われても中身は知らぬ存ぜぬを通せば良かった。

どんな仕事も「嘘」さえ上手く言えれば簡単な仕事だった。

しかし、それは甘い考えだったと思い知らされた。

ある冬の事、倒幕側の男性の妻役としてある町からある町まで一緒に歩いていた時である。

相手は毎回違ったがこんな仕事は何十回と行ったし、そのすべては何事もなかった。

目的地まであと一歩のところで、今回も何事もなく終わると思っていた。

白百合も相手もお互いに労いの言葉をかけており、気が緩んでいた時、幕府側の人間に襲われた。

そして、白百合は自分の腕前を披露してしまった。

それが噂となり今のように幕府側、倒幕側、関係なく仕事が来るようになった。

白百合にしてみたら、捜索範囲が広がり願ってもないことだった。


「私は望んでいない!こんな事、死と隣り合わせなのは私達だけでいいのだ」

後悔をしていた、この世界に女を引き込んでしまった。しかも、惚れた女なのだから尚更だ。

誰かが殺されたという話を聞くたびに、白百合の事を思い出す。

もしかしたら白百合が殺されたのかもしれない。

または、白百合が殺したのではないか?と

その度に葵屋に立ち寄り白百合の無事を確認していた。

しかし、小五郎は気が付いてた。

元より著しく感情がない彼女だったが、ますます感情をなくしていったことに。

出会った頃は今よりも感情があったし話も弾んでいたようなきがしていた。。

だが、今はどうだ…

いや、違う、

ー彼女をこんなにしたのは、自分のせいだ

どう考えても自業自得だった。

白百合を抱く力がさらに強くなった。

本当にこんな華奢な体で人を殺めることができるのかと思うくらいだった

「何度、この仕事を紹介したことを悔やんだことか!!」

はぁ。。。と白百合はため息をついた。それが妙に焦りを感じた

「君の手助けができるならばと思っただけなのに。

 自分の好いた人が、自分の紹介した仕事を通してこんなにも

 心を疲弊させてしまった。全部、私のせいではないか!」

涙が溢れそうになった。泣いている場合ではない、

彼女に、本当の気持ちを伝えなければ。。。気が焦った。

「私の話を聞いてはくれぬか。

 ・・・・私は。所帯持ちだ。世の中を変えて見せると妻と子供を置いて日本を走り回っている。

 妻と子供には悪いと思っている。

 もしかしたら、次、再会するときには、私のは亡骸になっているかもしれない。

 それでもいいと思っていた、自分のやっている事が正しいと思っていたから。

 だけど、白百合と出会ってから、生に執着してしまっているんだ、

 私が死んでしまったら、君に会えなくなる。

 おかしいんだ、心の中がぐちゃぐちゃで

 君が昨日、土方に見せた笑顔、私には向けてくれたこともない。

 おかしいんだ、自分が、こんなにも、あの土方に嫉妬している。」



「桂様?私は、あなたは私に疑似恋愛をされているだけです」


耳元で、そうささやかれた。



ー男は女の体を欲し、それを奪われると思ったら玩具を取り上げられた子供のように怒り狂う

 それを誰だかが、「嫉妬心」などときれいにまとめ、女は男の心がほしいから

 「嫉妬」してくれたことに喜びを覚える。そして、恋という疑似恋愛が始まる



ゆっくりと小五郎は白百合から離れた、

「そうで、、、あったな。。。」

小五郎は肩を落とした、

そして、頬に涙が伝った、

この涙は何なのか、自分ではよくわからなかった、

こうなることは分かっていたことだから今更、涙を流す事などないと思っていたが

そうではなかったようだ、


「今日ここを立つ」

立ち上がった小五郎の姿を白百合が首をあげて見つめていた。

「桂様…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ