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華の街  作者: 花椿蘭
2/6

京都、伏見の小さな花街。

吉原が最大の遊郭だとしたら

おそらく、この花街は足元に及ばないだろう。

吉原はすべてが高値であったがここの花街は

そこそこの料金で遊べると人気があったし

何よりも、遊女が生き生きしているのが特徴だった。

それもそのはずで、吉原は借金返済のため、

働かされ、厳しい規律の中で生活をしなければならない。

そして、その生活は過酷であったが

伏見では、

個々で売り上げた金額の半折りを渡すし、

太夫(花魁)は遊女・客の憧れでなくてはならず

諸作法が完璧で、また客をとらずともよいと決めてある。

他とは根本から違う独自の文化がこの伏見にあった。

その小さな小さな伏見の花街で一番の花魁は

「葵屋の白百合」といった。

噂では、男とも女ともつかないほど中性的な顔立ち。

諸作法は完璧にこなし、茶道、華道などは免許皆伝であるほどだという。

しかし、その姿は拝めたら奇跡というほど人前に出ないのだという。

噂が功をなし、一目見ようと葵屋ならず伏見の花街はいつでも

にぎわっていた。


朝。

「で?自害なされたと?」

葵屋の1室で侍風の男が白百合と対峙し座っている。

侍風の男。名前も知らなければどういった素性の者かも知らなかった。

ただ、わかるのは白百合の剣の腕を見込んで、

誰かからの殺しの依頼を請け負い、持ってくる役目という事だけ。

そして今、依頼の小林平三郎の暗殺の報告を聞きに来ているのだった。

白百合の脇には白梅と小梅が控えている。

白梅と小梅は白百合に仕えている下女だった。

もちろん二人とも美人ではあったし、座敷もちくらいの品格も

備わっているのだが、自ら白百合の下女を志願している。

小梅は少し小柄である。目は大きく童顔にみえ、唇が厚い。

淡い桃色の着物が余計に幼く見える、

白梅は肌が雪のように白かった、同じく目は大きく口元にほくろがあった。

それが妙に色っぽく見える。

うーん。とうなる侍風の男をみて白百合が重い口を開けた。

「おおよそ、想定内どすぇ」

噂通りの美女である。

切れ長の瞳、長いまつげ。薄い唇に少し高い鼻。

鼻にかかったような少し甘い声。

髪に差さる簪の数は7本、

光に反射して時折、眩しいくらいに簪が光る。

朝もまだ間もないというのに、きっちりと花魁の化粧をしている。

男がいつの時間、ここを訪問しても白百合という女は完璧な出で立ちだった。


-女にとって、化粧は大事なお面のようなもの-


侍風の男の同僚が言っていたのを思い出した。

その同僚はもうこの世にはいない。優しすぎる男だった。

優しいが故に、この時代には生きにくかったのだろう。

笑いながらこう言ったときは、自分たちの中では最高に生き生きとしていた。

しかし、今はどうだ。

遊女に世の中の一端を握らせている

この厚い化粧の下で表情を隠し

淡々と人殺しの話をしている白百合という女に恐ろしさを感じずには

いられない。

そもそも、この女が何十人と人を殺めている事自体信じられないのだ。

「まぁ、いいだろう。目的は果たした。」

早く部屋を出たかった、

部屋に立ち込める香の香りがあまったるく苦手で着物につくのが嫌だった。

侍風の男は白百合の前に半紙を置いた。

「じゃーな。また」

そそくさと部屋をでていった。


白梅が折りたたんである半紙の包みを開けると中には

大判1枚が入っていた

「これが、人の命の価値か…。」

そういって、自分の懐の中に納めた。

声には虚しさが籠っていた。

暗殺依頼のあった人物が重要人物であればあるほど

高額な支払いをしていった。

今回はまずまずの重鎮であることがうかがえる。

「私、あのひと苦手」

そういうのは小梅である。

人を好き嫌いで判断するところがあり、また、それが態度に出やすい

一方、白梅は理論的で感情をうまく抑えることができる。

「白梅」

白百合がゆっくりと、裾袋の中から短剣を出した。

白梅は受け取ると、ゆっくり立ち上がり部屋を出て行った。

刃物は2.3人を斬るたびに切れ味が悪くなる

白梅は利き腕の鍛冶屋へもっていく。

それは、習慣となっていた。

白百合の持つ短剣は普通と異なり、両刃の短剣であった。

男と対峙するにはやはり力で負けてしまうため、

一撃で仕留める必要がある。

自分でもいつから剣術を学んだのか記憶にないが体に染みついている

型には両刃であり、大きなものより小さなものの方がうまく立ち回れる

事を自然と理解していた。

「白百合はん。湯、どうぞ」

部屋外から女将さんが声をかける。

白百合は小さく返事をして立ち上がった。


最近、依頼が立て込んでいる

幾重にも重なる着物を脱ぎながら、大きくため息をついた。

疲れているとは思わないが心が大きく疲弊しているように感じる。

湯につかり、昨夜の人物を思いだす。

彼は何をしていた人物だろう。

大判1枚とはそれなりの人間だ。

なのにごろつき風の男たちを連れていた。なぜか?

自分が狙われ、斬られることは薄々気が付いていたのだろう。

なのに、なぜ?

なぜだけが頭をよぎる。

しかし、どうにも潔い死に方だった。


ーみな自分のやっている事が正しいと思っているのだ

 

最後はそういっていた。

湯船の中で、濡れた布で顔をぬぐった。

ごろつきの血が自分にかかったのを思い出した。

すでに、血はおちているのに落ちていない感覚。

強く布を顔にあてる。

潔癖ではないはずなのになぜか、湯に入る時には

血がついた分部が無性に気になるのだ。


ふと、自分の小さい頃の記憶がよみがえる。

自分の思い出せる一番古い記憶。

それは小さな村のはずれ。

夕暮れ時で、辺りはスズキが生い茂り、蜻蛉がたくさん飛んでいた。

自分はそこで寝ていた。いや。倒れていた。

後頭部あたりが痛み気が付いた。

ゆっくりと辺りを見回すが、秋の虫の鳴き声しか聞こえず

無にも近い感覚で急に恐怖と不安が込み上げてきた。

どこかを打たれたのか全身が痛い。それでも不安感がぬぐえずに数歩歩いた。

一陣の風が吹いた。

その風に乗って、血の匂いが押し寄せてきた。

吐き気がした。それはたぶん、人生の中で初めて嗅ぐ死の香り

白百合の頬には1筋の涙がこぼれていた。

無という感情の中で、なぜ自分が涙を流しているのかも到底理解できなかった。

ふと、足元を見ると自分の周りには何十人という死体が転がっている。

知らない顔ばかりだ。それはみな苦しそうな顔をしている。

血の水たまりがそこいらに広がっている。

誰かがうなり声を上げていた。急いで声の持ち主を捜した。

ー何があったのか?

それを聞くつもりは頭の中にはなかったが助けなければという

気持ちだけが支配していた。

声の持ち主は若い男性だった。だいたい19くらいだった。

手には刀が握られており、血で染まっていた。肩から腹にかけての

傷から赤い血が流れていた。

その男はこういった


「伏見の葵屋へいけ」


今、思えば、それだけを頼りに自分はここへ来たのだ。

残念ながら順調な旅ではなかった。

そもそもの話、それ以前の記憶がすっぽりと抜け落ちていたのだから

今、どこに自分がいて、伏見という場所がどこなのかわからなかった。

それよりも、もっと重要な自分の名前、年齢なども分からなかった。

ふらふら歩いている時にすれ違った老夫婦に伏見とう場所が

自分がいるところよりかなりの距離を歩かないといけないという事だけは

わかった。

幼かった自分は、そこへ行くしかなかった。頼りがないのだ

生きるすべを知らないのだ。

そんな幼子の一人旅に剣術が自分を助けてくた。

すんなりと体が動くほどに誰が一体、自分に剣術を教えてくれたのか。

それさえも記憶から抜け落ちていた。

時には、人を斬る時もあった。

そのたびに何かが落ちていくような気がした。

やっとの思いで伏見の葵屋へ来た時には極楽へきたような気分だった。

安堵が一番強かったが、自分の中が一番変わってしまった事に驚いた。

人を信じる事が出来なくて、人を殺す事に何の感情もなくなってしまった、

心がない人間に、自分はなってしまった…


「白百合はん?大丈夫?」


女将さんが外から声をかけてきた、

「えぇ。問題ないです」

そういうと、湯から上がった




















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