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華の街  作者: 花椿蘭
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序章

大きな川に沿うように土手が延々と続いている。

2日ほど前に豪雨に見舞われ、もともと水量が多いこの川の流れる音が地鳴りのような音を立てていた。

川を並行するように林が,また鬱蒼と延々続いている。

大人二人でも抱きかかえられないような大きな幹の杉の木がまっすぐと伸びていた

その大きな杉の木の脇には背丈ほどの地蔵が等間隔に並んでいる

その昔、この川が大雨により氾濫を繰り返し、多くの人間が流され亡くなり、

それを供養するために造ったものだと聞いた事があった。

だが、供え物もなく、何年も雨風に晒され顔がぼんやりとしており,

ところどころに点々と苔が生えていた。

この林も振り過ぎた雨の水を消化できず、いつもより草木の香が濃かった。

足元では急いて秋の虫が自分の存在を見つけてほしいように鳴いていた。

だが、実際にはこの暗闇のなか姿は全く見えやせず、もちろん、探す気にもならなかった。

川べりでは蛍たちが楽しそうに、しかし幻想的に綿毛のような淡い光を放ちながら自由に舞っていた。

時折、林の中に蛍が迷い込んできていた。手を伸ばせば1頭くらいは捕まえられそうだったが

か細いその光に触れてしまうと壊れてしまいそうでただ、観ているだけに留まった。

夏の虫と秋の虫が共存するこの時期、この湿度さえなければなかなか心地が良い季節だ。

苛立つような湿度が体を取り巻き、動いてもいないのに背骨沿いにじんわりと汗がでてきていた。

先ほどまで雲の間から月が見えていたが今ではその姿が見えなくなっていた。

厚い雲に覆われまた一雨きそうだと思った矢先に、霧雨のような雨が降ってきた。



この杉の木は身を隠すには最適だった。こちらからは横を通る土手がよく見えるが地蔵も影になり

土手を歩く者からは見つかりにくい。

雨から身を守ってくれていた杉の木の葉ががだんだん強くなり雨の水の重さに耐えられなくなったのか

ぽつり、ぼつり。と水滴が頭に落ちてきてた。

その落ちる水滴もだんだんと速さを増し、降り始めてそんなに時が経っていないのに

顔をぐっしょりと濡らしていた。

約1刻程の時は時に長く感じる時もあれば虫の声を聴いて、あっという間な時もある。

だが今日は最悪だ。足元はぬかるみ、足袋が水をたっぷりと吸い込み

足先の感覚がなくなりそうになる。

気が付けば、紺色の袴と着物も黒い水染みが出来ている。

この後起こることを考えると、今のこの状況は芳しくない。

奪われる体温に気を取られないように集中力を切らせないように必死だった

一体、どれほどの時をここで過ごしたのだろうか。

この川の土手は繁華街から最寄りの街への唯一ある道の為、

何人もの人間が行きかっていた。今も何組目かの団体が目の前を通りすぎていく。

世の中は物騒だ。川や人目のつきにくい町中などで死体が見つかる。

それが毎日。そのため、基本的に5人程度の組で行動するのが常識になりつつあった。

金がある者は腕の立つ者を雇い、さらには人数も多くぞろぞろと引き連れて

小さい道幅の道でもわが物顔で歩くのだ。


-コツ・・・・


これが合図だった。

狙うべき相手が現れたら石を投げて教える。

少し後に控えている斥候との約束のやり取りだ


ずっと暗闇を眺めていたせいか、闇にはすぐ対応できるが少しでも光があるとまぶしく感じる。

目を細め、土手を歩いてくる1つの団体に目を凝らす。

泥道独特のびちゃびちゃと水を含んだ足跡が聞こえてきた。

間違いない。

番傘でなかなか見にくいが、もうひとつの手には提灯を持っていた。

やがて、刀を佩帯した者が10人程見えてきた。

色とりどりの袴と着物を身にまとったものが大きな声で話しながら近づいてくる。

いかにもごろつき風で喧嘩好きのような感じがしたが一人だけ灰色の着物を着たものがいた。

それが、目的の人物であることは一目でわかった。

他のものとは明らかに風格が違い、剃髪していて丁寧に髪を束ねていた。

そして、香の香りがした。それは裕福なものの特徴の一つだった。

「本当に合っているのか?間違ってはいないのか?」

中性的な声がした。聞こえるように言ったつもりだったが

雨の音でかき消されていた。

予定していた人数よりいくらか少ない上に、ちゃんとした護衛でないのが気になった。

これではまるで・・・・

「殺せと言っているようなもんだ」

「どうします?」

先ほど石を投げて知らせてくれた人物がいつの間にか近くにいた。

鈴のような声でいかにも冷静でこういう状況に慣れている。

存在していたかどうかはわからないが、多分、くのいちというものを

想像させられた。

「いや。問題ないだろう」

そういうと、道に出て行った。

一瞬目がくらんだのかと思った。

自分が提灯の火に照らされていた。

もちろん、姿が見られない方がいいに決まっているが

それにとっては大した問題ではなかった。雨が降っている事以外は、何も問題はない。

相手の人数も聞いていた者よりも少ない。


「闇討ちか!」

静かに誰かが言った。

少年とも、少女ともつかぬものが一人、木の陰からあぜ道へ出てきた。

頭の高い位置で髪を1つに結わき、涼やかな目元で口は布で隠されている。

出てきた相手が一人だとわかり、安堵した様子も見れたが

声を出したのも以外は周りを見渡し、ほかに敵がいないかを探っていた。

声をかけてきた男が、前にでて提灯で改めて相手を提灯の明かりで照らした。

おそらく、この前に出てきた男がこのごろつきの筆頭なのだろう。

「なんだ、ガキか・・・」

舌打ちをするように言う。

後ろにいる男たちは思い思いに声を出す。

「おい。脅かすな。ガキは寝る時間だ。違うか?」

からかう様に笑いながら話す

「悪いことはいわねー。帰れ」

今度は真顔で、瞳に力を込めていう。

「小林平三郎殿とお見受けいたしますが、お間違いないでしょうか?」

ごろつきの言葉を無視して、女のような、男のような声が響いた。

「だとしたらどうだという?お前ひとりでは何もできんだろう

 ろくに獲物ももっておらんでなぁ」

無視されたことが気に食わなかったのか答えたのがごろつきの筆頭たった、

改めて、相手が剣を持っていない事を各々が黙認すると笑いが起こった。

しかし、相手はそんな笑いでも気に留めた風でもなく、ただそこに立っていた。

「勝負あったな!」

10人ほどの中から一人が大きく声を出した。

随分しわがれた声だった。

「やってみなければわからない。」

相手は吐き捨てるように言うと、

しわがれた声の持ち主は、短気なのかずかずかと前に出てきて

すぐに剣を抜き、恰幅のいい体格からは想像もつかないような

俊敏な動きで飛びかかってきた。

しかし、

その動きは大きく隙があった。

大きく振りかぶったために、胴回り、首回りの防備が手薄になっていた。

まるで子供がちゃんばらごっこ遊びをするみたいだった。

つまり、剣の腕はない。

それを瞬時に見極め短剣で喉元を下から突き上げられた。


声も無く、絶命。



短剣を抜くと血の雨が降り注いだ。

血を浴びたその顔は仏のように穏やかで、人一人を簡単に殺した者とは思えなかった。

ごろつきの男たちが1歩、2歩と後ろに下がる。

少年は自分の短剣についた血を、懐にしまってあった半紙でぬぐい、鞘に納め帯にしまった。

絶命している男の刀を手に取ると構えるという事もなくただ持った。

「これで、獲物は手に入った。」

一人言のように、しかし、聞こえるようにしっかりという。

その姿を見て、ごろつきたちの中で恐怖に支配されたものたちが

2.3人と奇声をあげて襲い掛かってきた。

上から斬れば喉を突かれる。

少しは学習能力があるのか、今度は低い位置から剣を繰り出してきたが

相手の方が身軽である。寸でのところで横に除けた。

が、その隙をついて、もう一人一人と襲い掛かってきた。

相手は舌打ちをしたように顔を少しゆがめたが

瞬時に帯の中にしまってあった短剣左手で取りだし、

右手の長剣で相手の剣を受け止め、左手の短剣でもう一人の腹を突いた。

両手がふさがっている所で先ほどかわされた男がまた襲い掛かってくる。

相手は両手がふさがっているのだから絶好の機会のはずだった

相手は長剣で受けている右手側の男の腹を蹴り飛ばし、

左手側の腹を突いた男も蹴り飛ばした。

そして、態勢を低くして襲い掛かってくる男が斬りかかる態勢に入った時、

相手は深く膝を折り男の視界から消え、懐に入り長剣で腹を薙いだ。


瞬きをしている間の出来事、

残っているものはその場に尻もちをついたり逃げ出そうとしていた。

所詮ごろつきだ。そう少年は思った。

血糊がついた剣をその場に捨て、先ほどまで生きていたごろつきの綺麗な剣を手に取った。



「やめい!」


低く響くような声が響いた。

それこそ、貫禄のある声というべきだった。

灰色の着物をきた年配の男が前に出てきた。

雨音が強くなり一層、雨が視界を遮り足元がぬかるんだ

先ほどは番傘の影と提灯の火の影になってはっきりとは見て取れなかったが

頭に、白いものが混じり始めていた。

少し体格もよく、剣はもっていなかった、

「おぬしの実力は、ようわかった。寄せ集めのごろつきでは相手にならんようだ」

笑いながら、ごろつきの筆頭をちらりと見た。

見られた男は苦虫をかんだような顔をした。

「所詮、金で買われた少し喧嘩が強い男の集まり。もういい。帰れ」

そういわれると、ごろつきの集団は逃げるように帰った。

そして、男一人となった。

「残念ながら、わしは剣を持っておらん。おぬしのような腕も全くない。」

そういうと、鼻で笑った。

「いまさら、何を言うつもり、聞くつもりもない。」

そういうと、川の蛍を眺め始めた。

「幕府だ倒幕だと言っておる者すべてに言えること。

 ただ、よい世を作りたいだけだ。」

そういって、懐から短剣を取り出した、

「安心せい。こうなることは、概ね検討がついていた。

 人に斬られるより、自分で斬った方がまだ潔い。介錯を頼む。」




何ともあっけなく、潔く、そして悲しい最後だった、



「小梅。後はたのみます」

そういうと、再程まで控えていた

少女が闇の中から影のように姿を現した。







遠くで、蛍と似たような火が見えてきた。

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