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"街"は、ガルカという国の中枢にあった。様々な店が立ち並んだ一本の通りを大動脈として、広大な市場が形成されていた。道には赤や黄色の煉瓦が敷き詰められ、街灯に備え付けられたスピーカーからは洒落た音楽が流れていた。市場は常に多くの住民や観光客で賑わい、豊かさに溢れていた――しかし、それはあくまで大通りに限っての話であった。
"街"には幾つもの裏通りが存在した。大通りに並ぶ店と店との間から沢山の道が枝分かれし、それらが此処の地図を複雑にしていた。ほんの200メートルほど市場から離れてしまえば、至る所にひびの入った、みすぼらしい外観の家々を見ることができた。多くの人々が住むために建物の背だけが異様に高く、近辺の道は常に暗く翳っていた。勿論上品な音楽など流れない。人気も夜になれば全く無くなる。大通りとは対照的な貧しさと静寂が、この日陰の地域を覆っていた。
更に一本の裏通りを辿った先には小高い丘があり、その上に小さな教会が建っていた。酷く質素な造りをしており、紺色の屋根は一部が剥げかかっていた。しかし周辺の雑草は丁寧に刈り取られ、道脇に植えられたパンジーが色鮮やかに咲いていた。周りに障害物が無いので教会への小径は明るかった。
この教会には一風変わったところがあった。それは、広大な地下室が存在するという点だった。入口扉をくぐって右に目を向ければ、床に正方形の切れ込みを見ることができる。そこから地下室に行けるのだった。地下室には円卓の置かれた食堂や、二段ベッドの整然と並べられた寝室があった(トイレも存在したが、調理場は無かった。料理は丘の手前にある小屋を利用しているらしかった)。ベッドは"子供達"が教会で寝泊まりするためのものだが、今は昼下がりで、誰も使用していなかった。
"子供達"は昼間は神父と共に草花を摘みに出掛けたり、市場で買い物をしたり、食堂で勉強を行ったりした。最年長が15歳、最年少が4歳の10人ほどの集団だった。
彼らは皆、孤児であった。
春の柔らかい日射しの下、教会前の道は身支度をした彼らの声で賑わっていた。これから市場へ出掛けるのだ。神父を先頭にゆっくり丘を下りつつ、彼らは市場で何を買うか話し合った。手持ちの金が殆ど無いため、高価な物など買えるはずも無かったが、色とりどりの野菜や果物について語るその姿は実に楽しそうだった。暗い裏通りに来ても声の弾みは収まるところを知らず、ぼろ靴を履いた彼らの足は常に軽快だった。




