【 魔王性善説 】
〇〇説。第二話は、悪の親玉の魔王様です!
――やっと、やっとここまできた。
突然「勇者」になり。魔王を倒してもらいたい、と王様に言われ。厳しい修練をこなし、仲間と言える出会い。そして別れ……。
きっと、勇者になる前の俺だったら越えられなかっただろう壁をいくつも乗り越えてきた。勇者となったことを、今では良かったと思っている。そして、色んな人と交わした約束を果たすため。護るべき人たちを護るため。俺は、最後の砦へと向かう―――!!!
重く冷たい扉に触れ、開聞の呪いを唱える。すると光が扉を包み、ゆっくりと、ギイィ――っという、耳障りな音を立てながら開いていく。それと同時に、中からとてつもない威圧感と瘴気が荒れ狂う風となり襲ってきた。だが、それを瞬時に風の壁で相殺する。
≪ ハーッハハハハッハハッハッハ!!! よく来たな、勇者よ!! ≫
ゆっくりと中へ進むと、突如として広く高い部屋中にこだまするほどの大音量が響いた。その声、というより音の主は、玉座らしき場所で居座る大きな、巨大な黒い影。
「お前が、魔王……」
血が滲み、ボロボロになりながらも諦めず修練を積み歴代最高とまで言われる実力を手にした自分でさえ僅かな隙を見せれば倒れそうになるほどの強大な力をもっている。流石、代々の魔王の力を受け継ぐ能力。
――だが、その歴史もここまでだ。俺が、その核となっている額の玉を壊しこの世界に平穏と安寧をもたらす!!
「魔王! ここが貴様の死に場所だ!!」
≪ふん。それは果たしてこの戦いが終わった後、どちらの台詞となっているのだろうな≫
姿がない、魔王。だが、双眸と思わしき場所から発せられる光は鋭い光線となって突き刺さってくる。だが、俺は決して目を逸らさない。
≪ 勇者の全力をもって、私に挑んでくるがいい! ≫
魔王がそう宣言すると、急に体が光に包まれ。力がみなぎって来た。
その言葉通り、魔王が個々に来るまでに削られていたはずの俺の体力や精神力を回復したのだと身をもって知る。
(――なめた真似をしてくれるっ)
「俺の力を回復したこと、その身をもって後悔させてやる!!」
≪くるがよい、勇者よ!!≫
「ハアアアアアアア――――――――アアアッ!!!」
歴代最強の魔王と歴代最強の勇者。
両者が戦いあった後には、一つの影だけがあった――――。
そこに立っているのは、大剣を手にし人物。
☩ … ∴ … ☩
戦いが終わりし後の魔王城の、地下のある部屋にて。
「ううぉぉぉおおお……。い、イタタタタ…………」
先ほどまで勇者と壮絶な戦いを繰り広げていた魔王が、瘴気のヴェールを脱ぎ捨て横たわっていた。
「毎度のこととはいえ、さすがに辛いな」
ヴェールの下から現れたのは、夜よりもなお暗い、漆黒の髪と深い暗青の双眸。高く筋の通った鼻に、切れ長の目。とても整った顔立ちの男性。うっすらと潤む瞳は色気が溢れており、魅了される者は女性だけではなく男性でもいそうだ。
しかし、そんな男も今は腰痛その他諸々の痛みにうめく一人の老人。見た目はたとえ三十前後だとしても、実年齢はウン倍。戦いには慣れているとはいえ、中々辛いものがあるだろう。
そんな男の元へ、軽やかな足音と高めのお花が咲いたような声が聞こえてきた。
「まっおぉ―――――さまっ♪」
その言葉と同時に扉が大きく音を立てて、開かれた。
「うげ……」
魔王の口からもれたのは、そんなうめき声。素敵な顔も、眉間に深く皺が寄り苦虫を噛み潰したかのような顔をしてその闖入者をみた。
「あなたの愛しの愛しのお姫様がきましたよ」
現れたのは、今回の勇者を送りこんできた国の唯一の姫君だ。彼女はとっくの昔に勇者とその仲間の手に寄り助け出され、国で大切な人たちに囲まれているはずだ。――――はずだ。
「――お前。何しに来た」
「まあ、ひどい!魔ーちゃんが独りで寂しいだろうと思って、愛しの私がきましたのに!!」
魔王の問いに、姫は可愛らしい頬をリスのように膨らませながら、いつの間にか近寄り魔王の腕に己の腕を絡ませ体を密着させながら抗議をする。
しかし、次の瞬間には花のような笑顔を浮かべて絶対零度と恐れられる魔王の目をしっかりと見つめながらこう言った。
「本当に、魔ーちゃんは優しいんですから。自分のことを倒しに来た敵を、わざわざ回復させて勝ちやすくさせてから戦いを開始するなんて。本当、どこぞのバカに爪の垢でも煎じて飲ませて差し上げたいわ」
姫が暗に名指ししている人物を思い浮かべながら、魔王は一つ溜息をつく。
「――仕方なかろう。これが、魔王の役目だ。嫌われようと、憎まれようと、これが私だ。私が必要悪となり、倒されることによって世界に一時の平穏が訪れるというのであれば。私はそれを甘んじて受け入れよう」
そんな、幾度も繰り返されても変わることのない言葉に姫は一瞬辛そうにその瞳を陰らせたあと。ニーッコリ、と、一番可憐で愛らしく、美しい笑みを浮かべてこう言った。
「ねえ、魔王様。私は優しい独りの貴方が大好きですわ。だから、覚悟なさってくださいましね」
その姫の言葉と笑みに、魔王は背筋に何か冷たいモノが走った気がして身震いした。
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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております。




