当たり前の話
読むのは自己責任で。
まあ、読むと暗くなりますが書いたらこんな感じになっちっち☆(ウゼ)
彼らは慣れていた。
「ここは……」
「はじめまして、勇者様」
異世界から呼び出した異世界者を歓迎することを。
「勇者……?」
「はい。今この世界をお救いくださる方があなたさまなのです」
あたかも呼び出した異世界者が特別であるかのように対応することを。
「勇者様。このような場に突然連れてきてしまって混乱しているだろう。だが、この世界に未曾有の危機が迫っているため、手段を選べない状態なのだ。本当に、すまない」
「は、はい」
「とりあえず今日はもう眠ると良い。詳しいことは明日話そう」
「……はい」
世界を守るために救うために必要とするのが異世界者であることをとろけるほど甘いやさしい蜜色の言葉でいいくるめ、まだ何も知らぬ無垢な心に付け入ることを。
「…以上が、この世界の現状だ。このままでは世界は滅び、我らは一人残らず塵となるだろう」
「そ、んな……」
「申し訳ありません。私たちにもっと力があれば勇者を…何の関係もないあなたを呼ばなくても済んだのに…」
「……確かに、何の許可も承諾も事前の説明もなくこちらに呼び寄せたのは許せませんが、身の危険によってやむをえなくやってしまったというならば当たり前のことでしょう。…けれど、還れるのですか?」
「ああ、大丈夫だ。魔力が足りないだけだからな。あなたが帰ってきたときには何とかなる」
「ならば、お力になりましょう」
「ありがたい」
適当な武器を持たせて強い敵と殺しあわせ、それを自国の手柄にすることを。
「こちらが宝物庫となります。お好きなものをお手に取ってください」
「はい………これは……っ?」
「勇者様?」
「あ、いいえ。なんでもありません。大丈夫です」
「そう、ですか……あ、武器はそちらに?」
「はい」
生き残れば還すことなど考えもせず適当な王族あるいは貴族に口説かせ婚姻で繋ぎとめ、そのすばらしい『力』を手にすることを。
「すまなかった!!まさか魔族が襲撃してくるとは…!!」
「そ、れなら陣は!?還るための陣は!!?」
「………すまない。城ごと燃やされてしまった」
「そ、んな………」
「勇者様……勇者様、私たちがここにいます。大丈夫です、大丈夫ですから……っ」
「う、うあぁぁぁあああああああ!!!」
けれど、だからこそ知るべきであった。なにも分からぬまま召喚された彼らがどれほどの絶望に身をつつまれたのかを。
「勇者様……」
友人から知人から親から兄弟から姉妹から親戚から積み重ねてきた過去からこれから紡ぐべき未来から慣れ親しんだ世界から引き離され、何のたよりもつながりもない世界へ唐突に呼び出され、気を許せぬ相手との交渉としたこともない殺しとまわりの期待に押しつぶされそうな精神と便利な元の世界とは違いすぎる文明の差に崩れ落ちそうな体を心を支えていた唯一の帰る場所を奪われた絶望を。
「勇者様のご様子は……」
「最近、何も召し上がらずに書斎にこもっています……このままでは体が壊れてしまう」
「そうか…私たちにも、なにか役立てられることがあればよいのにな……」
「ええ……」
そしてそれらすべてが予定の内であったことを知った際の、異世界者の想いを。
「なに?パレードを行いたい?」
「はい。歴代の勇者達は行わなかったそうですが、世界崩壊の原因はすべて消え去り、世界はもはや平和といって過言無いでしょう。ですから、これからはよりいっそうの協力を呼びかけるためにもある程度の事情を打ち明け、互いに手を取り合うべきでは無いでしょうか?」
「うむ、確かに」
「それに、国は民あっての国です。ないがしろのままでは民も不満を覚え、いずれ大きな災厄になります。僕の世界ではそういった事象が多くあります。ですので、ぜひ国民の皆にも誇りに思えるこの国の偉業を知ってほしいのです」
「なるほど、確かにそうだな。では、半年後にパレードを行うぞ!!」
「ああ、それともうひとつよろしいですか?」
「うん?」
「その、出来れば皆に挨拶をしたいのです。私はずっと誰にも姿を見せませんでしたがこの国の人は皆とてもいいひとばかりですごく嬉しかったから」
「うむ、それならば世界中で聞こえるようにしよう。それでよいか?」
「はい」
彼らは慣れていた。
異世界から呼び出した者をあたかも自国の民として偽り世界を救うためなどといいくるめて適当な武器を持たせて強い敵と殺しあわせ、生き残れば還すことなど考えもせず適当な王族あるいは貴族に口説かせ婚姻で繋ぎとめ、そのすばらしい『力』を手にすることを。けれど、だからこそ知るべきであった。なにも分からぬまま召喚された彼らがどれほどの絶望に身をつつまれたのかを。
そして彼らは、その欲した『力』に追い詰められることなど考えもしないまま、ひたすら罪を重ねていったのだ。
「はじめまして世界の皆さん、私は勇者と呼ばれる異世界から渡った人間です。――――皆様には少々長いお話を聞いていただきたく思います。どうぞ、口を閉じて静かにお座りになってお聞きください」
あるところに、ひとりの子供がおりました。
子供には不仲ではありますがめったに帰らない父と愚痴ばかりの母がそれでも子供を放棄することなく世話をし、育て上げてくれました。
父と母は子供が一人前に働けるようになった年、離婚を選び、子供は父方の籍のまま、少々不器用で口下手で、けれど聡い子供に育ちました。
子供は理解あるやさしい友人に恵まれ、不仲だった両親は会うことはありませんでしたが子供には少し優しく接してくれました。
大人になった子供の仕事場は少々失敗しても笑って許してくれるおじいちゃんが経営する工場で、大人になった子供はそこで文官のような仕事をしてお金を稼ぎ、静かに穏やかに暮らしていました。
さて、そんなある日、大人になった子供は異世界に召喚されてしまいます。
大人になった子供は大変びっくりしました。
なぜならば大人になった子供のいる世界には絵空事のような場所でありましたから。
大人になった子供がいた世界にはドラゴンも、フェアリーも、魔物も居りません。
剣も、魔法も、甲冑も、農民も、奴隷も、王様も、貴族もない国で育ち、それが当たり前だったのだから当然です。
けれど、召喚された大人になった子供には不思議な『力』がありました。
それは剣の才能と、魔法を使うための才能です。
大人になった子供が国にいた頃にはなかった不思議な『力』。
それは昔、子供が子供であった頃に夢見、そして諦めた物語でした。
大人になった子供はとても喜びました。
そして召喚した国の王様に頼まれ、この国を救う旅に出ました。
王様が言うには、呼び出した勇者達は皆自分のいる場所に帰ったと、そのための陣は出来ていると、現在は魔力が足らないから、世界が救われればその魔力も集まり、すぐに還れると、王様はいったからです。
けれど、世界を救った大人になった子供が城に凱旋するころ、城がおとなしくなったはずの魔族の襲来を受けて、全焼してしまったのです。
ああ、魔族のことに関して少々説明しましょう。
魔族は生まれつき魔力が強く、そして魔力の影響が受けやすい一族です。
だから魔族は瘴気に侵されたオーブが発する魔力によって暴走してしまっただけで、正気に戻った彼らは人間にかかわることなく森深くで静かに暮らし、たいへん温厚で賢く、そして慈愛深いやさしい一族なのです。
嘘ではありません。大人になった子供自身がそれをこの目で体で知っているからこそ断言できるからこそ、この場で話せるのです。
そして、その暴走していた魔族はたまたま近くにさしかかった国の中枢で城を守る結界を維持していた大魔術師長達が倒したと言われ、最初から何もなかったかのように平らな更地に案内された大人になった子供はとてもかなしくなりました。
それでも何かないかとひとりでとぼとぼ歩いていた大人になった子供は夜中、草むらの中から小さな宝石を手にします。
宝石はきらきらと輝き、魔方陣を破壊している数人の魔族の姿と、まだ年端もいかないような魔族の女の子に杖を突きつけている大魔術師長達。そして返してくれと叫ぶ魔族たちとその女の子がなぶり殺しにされている映像が頭の中に浮かびました。…そう、皆さんの頭の中に浮かんだでしょう?そこの、真っ青な顔をして体を一生懸命動かそうとしている偉いえらぁい大魔術師長達ですよ。
会話も聞こえましたか?そう、これは自分の国のイメージアップのためだけに呼び出された哀れな大人になった子供のお話。
瘴気のオーブを作り出したのは人間。
そしてその尻拭いをさせようと呼び出したのが大人になった子供。
異世界から来た者ならば何も知らずだませると考え付き、実行したのは人間の王族と貴族と魔術師達。
そして何も知らないまま大人になった子供を歓迎した人間たち。
さて、一番悪いのは、だぁれ?
カルデリオ・カプリル暦3042年羅月10と2の日
フィオディア国解体、勇者召還の陣破壊及び国家罪により国王ラグント・リリ・フィオディア、その他各首脳陣を縛り首及び毒殺の刑に処す。
第二王子を含む王族すべてを『白罪の塔』へ収監。終身刑に処す。
勇者召喚の儀を取りやめ、これ以降偶然にくる異世界人を厚く保護するための『異世界人救済法律保護会』を設立。
第1王子ミディア・ルル・フィオディアを都市『カーディオ』の領主とし、異世界人の保護を徹底的に行うこととする。
その後、世界中の都市や村の中心に、巨大なクリスタルが現れた。
このクリスタルの前で誓う、あるいは宣言すると、その想いが偽りの場合は不運が、真実だった場合は幸運が降ると言われている。
結婚式や商人同士の契約などでも良く使われているため、真実の声とよばれるようになった。
実例としては確認されているが、真実の声がおこなったことかは実証されていない。
尚、この時すべてを明らかにした歴史上最後の勇者『ナギ・マツユサ』の姿は一連の騒ぎが終わった後、すでに姿はなくなっており、一説には魔族の元で暮らしたとも、あるいは元の世界に還ったとも、はたまた今でも生きているなどと諸説いわれているが定かではない。
伝承によれば夜を集めたような黒髪に黒目、絹のように滑らかな肌といつまでも子供のように変わらぬ容姿から夜の皇帝と呼ばれるかの人は、バラバラになった空の星を不思議な形に紡ぎながら世界の夜に彩りを添えている、という。
なにが一番大変かって登場人物全員の性別をどっちつかずにするにはどうしたもんかと(笑)
男でも女でも幼女でも僕っ娘でもなんでもだいじょうぶです←