第一話 夕焼け空の猫
……ああ、これでやっと終わるのだわ。
断頭台の上で、私は安堵の溜息をつきました。
学園の卒業パーティで王太子殿下に婚約を破棄されて半年。
婚約者である彼に愛する人が出来て、私よりも彼女を優先される日々が辛くなかったといえば嘘になります。ですが、婚約破棄後に比べたら──
婚約破棄時に断罪された王太子殿下の恋人を苛めたという汚名は、伯爵である父が雪いでくれましたけれど、後になって考えればその件で処刑されていたほうが良かったのかもしれません。
卒業から二ヶ月後、今から四ヶ月ほど前に国王陛下が崩御されると、即位なさった王太子殿下……ですので、今は新王陛下であらせられますね……は、新しい法律を次々と創り出して父を糾弾し処刑しました。
卒業パーティで私を庇ってくださったご令嬢の方々も罰を受け、ご実家も断絶させられたと聞いています。
子どもだと笑われるかもしれませんが、一番悲しかったのは捕縛に来た新王陛下と側近の方々から私を庇おうとして払い除けられた母が頭を打って亡くなったことでしょうか。
彼らの侵入を止めようとした侍女や使用人も怪我をさせられたと聞いています。
ほんの数日前のことです。目の前で繰り広げられる蛮行に、私はなにも出来ませんでした。怯えて震えることしか出来なかったのです。
裁判など望むべくもなく、拷問で自白を強要された上で処刑が決まりました。
私の罪は南の帝国に情報を流しての国家転覆罪だそうですが、まったく身に覚えはありません。そもそも帝国は学園の卒業パーティの一ヶ月ほど前に、先代の皇帝が魔獣の大暴走で亡くなるまでは友好国でした。新しい皇帝が決まらず内乱の真っただ中にある国が他国の情報を得てどうするというのでしょう。もっとも、そんな理屈が通じる方々ではないのでしょうね。
卒業パーティの際の断罪だって、なんの証拠もなく王太子殿下の恋人による証言だけでした。彼らにはそれで十分なのでしょう。
大きな刃が落ちてきて、私の頭は地面に転がりました。
見物している群衆達の歓声は聞こえませんでした。新王陛下と側近方が次々と貴族の家を潰していった影響で、王都には庇護者を失い食い詰めた人々が流れ込んでいます。仕事も食料も取り合いになり、王都の住民は今夜の夕食すら手に入れられるかもわからない状況です。
断頭台の刃が乾く日はありません。毎日だれかがなにかの罪で処刑されているのです。兵士が見物を奨励するから集まっただけで、実際はだれが処刑されようとどうでも良いのでしょう。
首が落ちる寸前に、私は真っ赤な夕日に染められた空を見ました。
巨大な猫の形の雲が空を切り取って、雲の向こうに輝く星を瞳にしてこちらを見つめていました。
少し肌寒い夕暮れの風が、空の端まで伸びた長い長い雲の尻尾を振っていました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはようございます、お嬢様」
部屋のカーテンを開く音がして、私は無意識に体を起こしました。
ここは……王都にあった伯爵邸の私の寝室、私のベッドの上ですね。
父が処刑された後はこの屋敷すら奪われたはずなのですが、どうしてここにいるのでしょうか。父の処刑から私の処刑まで時間が空いたのは、一度汚名を雪がれた私を再び罪に落とす名目を考えていたためだと思われます。
「……おはよう?」
状況がわからなくて首を傾げた私は、断頭台で落とされたはずの頭がある事実に驚愕しました。




