仙台迷宮の伊達男~ローカル志向で追放された俺、謎の木刀でA級怪異をワンパン無双~
仙台に出現したダンジョンを舞台に、配信者の主人公が成り上がったりヒロインに惚れられたりざまぁするご当地コメディ。
「伊達陽太、お前は今日でクビだ」
仙台駅前、ペデストリアンデッキ。夕方のローカル番組の生中継が行われる陰で、配信者グループのリーダー・佐治が俺の脳天へ無情な宣告を叩きつけた。
「どういうことだよ。納得いかないぜ!」
たまらず佐治へ食い下がった。仙台愛をとことんアピールし、グループへ貢献してきたはずなのに!
「これからは東京を意識する時代だ。お前のローカル思考はもう古いんだよ」
あまりにその通りすぎてぐうの音も出ない。
「大体、これ見よがしに楽天キャップを被りやがってよ。あざとすぎ。今時芸人でもやらないっての。ププッ」
佐治の傍にいた松本が帽子を指さして笑い出す。その横では亀井が淡々とカメラを回していた。
「そこをなんとか! 万バズで取り返すから!」
「黙れッ! 俺がクビと言ったら、その時既に行動は終わってるんだッ!」
佐治は背中を向けた。松本も「じゃあな」と手を振る。亀井は終始無言のままだった。
(お前ごときが生ハム兄貴の名言を使うな~!)
最高にイケてるクリムゾンレッドの帽子と、大好きな漫画までも侮辱されて……俺はデッキの上で一人のたうちまわった。
2026年。仙台市中心部を未曾有の大災害『裂都事変』が襲った。地下鉄仙台駅の深部で超常的な力が目覚め、駅前一帯が壊滅。街に一兆円規模の損害を齎した。
事変から数ヶ月後……仙台は無事復興したが、今度は駅の最深部に怪異が犇く迷宮が現れた。
サブカルに精通する人間はこぞってツッコむ。
(普通ダンジョンって東京に出現するものでは!?)
だが胸が躍る異常事態に変わりはない。
若者達の間ではダンジョン配信が大流行した!
配信機材や探索用具はバカ売れ、仙台駅構内にアンテナショップが設置され、ダンジョン饅頭や限定ドラゴンソードキーホルダーが店頭に並ぶ事態に。いつしかこの大穴には『仙台迷宮』の愛称が付き、宮城は東北初の球団創立時レベルの熱狂に沸いた。
俺達セブンスターズも流行に便乗したタチである。同グループは佐治の呼びかけで大学の身内が結集した四人組。過去に何度か迷宮探索に挑んだが、視聴者数は伸び悩み、松本は「お前も知恵を出せ」と詰る始末。で、本日、こいつらは出発直前に不当解雇を言い渡したという。
(こうなったら俺一人でもバズってやる!)
悔し涙を飲み、撮影機材を手に一人『仙台迷宮』へ向かった。
***
地下鉄南北線。俺は撮影用ドローンを飛ばし、仙台四郎ブレードを携えてダンジョンに降りた。改札を抜ければそこは魔境。ICカードの代わりに命を張る危険なエンターテインメント空間だ。
仙台四郎ブレードとは、先日の探索で拾った木刀である。佐治はゴミだと笑い飛ばしたが、俺は唯ならぬ力を感じて持ち帰った。市内のおたから屋で鑑定してもらったら、なんと神の御加護を受けた最高級のレアアイテムだという。刀には商売繁盛、武運長久、厄除け、更には縁結びの加護もあると査定のおっさんが熱弁を振るっていた。半分は嘘だと思う。だって仙台四郎は本来商売の神だし。
配信画面を確認する。同接は三人。コメント欄は挨拶で絶えてる。だが俺は露骨なコメント稼ぎなどしない。視聴者へ媚びず、ひたすら質の高い探索をお届けする気高き姿勢こそが仙台流・黄金の精神(殿様商売ともいう)なのだから。
静寂に満ちたホームを黙々と進むと、突如曲がり角の向こうから甲高い悲鳴が飛び込んだ。
「いやあぁっ! 誰か助けてぇぇ!」
女の子がこちらへ走ってくる。
彼女を襲っているのは……A級怪異・ミノタウロスだ。
(マジかよ、この階には出現しないはずなのに!)
想定外の事態に戸惑った。今日は浅い階層で切り上げる予定で、装備は木刀しか持参してなかったからだ。魔牛は憤怒に鼻息を散らし、味噌焼きにしたら美味しそうな肉厚の舌をブルンブルン振り回しながら執拗に女の子を追い回す。
彼女が危ない!
破れかぶれで仙台四郎ブレードを振り上げた。
その時、刀身が光り輝きミノタウルスを粉砕した!
「えっ!?」
A級怪異、まさかのワンパン!
木刀で木端微塵である。わけがわからない。
衝撃で女の子が尻もちをつく。
一息ついてようやく、彼女が超人気YouTuber・YUIだと気づいた。
仙台出身を掲げ、県内で知名度急上昇中のインフルエンサー。お人形のような美貌に黒髪のツインテール、爪先まで整った地雷系ファッションをネットで見かけない日はない。武器は途中で落としたのか、丸腰だった。
「か……カッコいい~!」
YUIは睫毛バツバツの大きな目を輝かせた。
「……すみません。お邪魔しました」
俺は楽天キャップを深く被り直した。ちなみにこの「すみません」は謝罪ではなく、謙遜の意である。
立ち去ろうとした瞬間、彼女の撮影用ドローンが真っすぐに俺へカメラを向けた。向こうの枠でコメントが爆速で流れる。
『ミノタウロスを一撃で!?!?!?』
『やばいカッコイイ!!!』
『謙虚すぎワロタ』
『YUIにゃん名前聞け!』
『切り抜きはよ!』
やばい。一部始終が全部配信されてた。
YUIはツインテールを揺らし、深々と頭を下げる。
「助けてくださりありがとうございますっ! お名前、教えてください!」
「……伊達陽太だ」
「伊達って政宗の!? 超エモ~い!」
『んほおおおwwwwww』
『まさに伊達男!!!』
『現代の侍じゃんw』
『神回』
『救世主ktkr』
思わぬ展開に冷や汗が止まらない。
「陽太さん! 普段はどこを中心に探索してるんですか!? コラボ、コラボしましょうよ!」
グイグイと距離を詰めてくるYUI。ブランド物らしき香水の匂いがキツい。女の子の腕の柔らかさに戸惑う。そもそも俺はYUIが好かなかった。高専がテーマの某アニメが、早々に東京へ舞台を移したくせに仙台のご当地アニメ面をしてるから的な理由で。
「あ、あのさ。密着しすぎなんだけど」
「えー? だって陽太さん、逃げちゃいそうだから!」
ドローンのカメラがイチャイチャ紛いを至近距離で捉え、弾幕が加速する。『YUIにゃんを落とすとは何者』『くっつけ!』『ゴールインしろ!』などなど。下世話すぎる。
「もう少し距離感ってものを考えてくれよ」
「冷たい! でもクールで素敵!」
完全な会話のドッジボールだ。
あしらう方法を必死で思案する内に、暗闇の向こうからもう一匹のミノタウロスが現れた。
「俺がやります! YUIさんは後ろに下がっててください!」
好き嫌いと危機は別物。配信に私情を挟まないのがプロというやつだ。
俺は再び御神刀(?)を構えた。
響き渡る咆哮。二匹目は先程の個体よりも遥かに巨体だ。ステロイド全開の丸太腕が血塗れの重斧をぶん回し、顔面からは牛タン定食五十人前はあろうかという極厚の舌が飛び出し、獣臭い涎を撒き散らしていた。
YUIが悲鳴を上げて座り込む。俺は振り返らずに突撃した。斧を振り下ろした隙を狙い、股下をスライディングで抜け、無防備なアキレス腱に向かって仙台四郎ブレードを薙ぎ払う。
バチィィンッ!
A級モンスターの巨躯が軽々と宙に浮いた。神の威光が黄金のエフェクトとなって弾け、後にはレアドロップたる霜降り肉がポトリと落ちた。
「わぁぁぁ……!」
YUIが感嘆の息を漏らす。彼女のドローンからとんでもない量の通知音が鳴り響く。スーパーチャットの嵐。視聴者の熱狂を受けてYUIは立ち上がり、俺の手を握ってブンブンと上下に振り回した。
「私、決めました! 陽太さんの相方になります!」
「いや、相方はちょっと……」
「遠慮しないでくださいっ!」
カメラレンズが俺の楽天キャップをドデカくフォーカスした。気づけばこちらの枠の同接も千人規模に増えてる……。
仙台四郎パワー、ガチだった。
***
陽太の万バズで配信者界隈に激震が走った!
凡百の配信などやってられないと危険区域に突入する者が続出。佐治らセブンスターズも例外ではなかった。
バズの数日後、佐治、松本、亀井は禁断の東西線ジャンクション付近に降りる。『裂都事変』の震源付近で、強大な怪異の出現報告が絶えないエリアだ。
通路を埋め尽くさんばかりの笹かまスライムの大群が三人を襲う。一匹一匹は雑魚でも数が多すぎる。セブンスターズは純粋に人手不足に陥っていた。
「畜生! こんな時に伊達がいてくれれば……!」
松本はジャケットを練り物の匂いまみれにしながら嘆く。
「黙ってろ、愚痴る暇あったら手動かせ!」
佐治は息を切らしながら命ずる。彼の武器たるバールはひん曲がりかけていた。亀井は弱音の一つ吐かず、体幹もぶらさず交戦を撮影し続ける。だがいくら潰しても分裂・増殖の無限ループだった。
「腕がもげる! もう無理っす!」
松本が悲鳴を上げた瞬間、暗い線路の奥から地響きが轟いた。
「グルルォォオオッ!!」
現れたのはA級怪異ツキノワ・バーサーカー。伊達政宗風の三日月型前立て付き兜を被った、体長三メートルに迫る熊の獣人である。
「冗談キツいぜ……ッ」
佐治が絶望に顔を歪める前で、狂熊は道を塞ぐスライム群を貪り喰いながら猛進してくる。
「退避、退避だ!」
三人は這いつくばって、一目散に通路脇へと転がり込んだ。
次から次へと湧いてくるモンスターの波に、佐治の薄っぺらなプライドが産廃と化す。
「ふざけるな……! 俺は東京に……全国区に行く男だぞ! なんで俺様がこんな東北のド田舎の、クマソの末裔みたいな奴に殺されなきゃいけないんだ!」
配信画面が一瞬、凍りついた。
隣でバットを振るっていた松本が、血の気を引かせて佐治を見る。
「さ、佐治……お前、バカか! クマソは九州だろ! いや、それ以前に今の発言はマズいって! 完全に東北の逆鱗に触れたぞ!」
『は?』
『クマソって何?』
『クマソ 検索』
『うわ、1988年のアレかよ。歴史的差別発言引っ張り出してくるとかドン引き』
『しかも蝦夷と間違えてて草』
『一線超えたな』
『最低』
『仙台舐めんな。通報しますた』
一気に燃え広がるコメント群を見て、佐治の顔面が笹かまより白くなった。
「ち、違う! 今のカットだ! 亀井……カメラ止めろ!」
だが亀井は更に佐治の醜態をドアップで抜く。そして今まで頑なに引き結んでいた口元を、ニヤリと歪めた。
「これぞ私が求めたリアルです。続けなさい」
「「ひいいぃぃ~~~っ!!」」
***
「かんぱ~い!」
居酒屋にて、俺はYUIと撮影の打ち上げをした。大ジョッキでビールをあおる向かいで、彼女はノンアルコールのレゲエパンチをストローで味わう。卓上には豪勢な料理の数々。YUIとの運命的な出会いを経て、俺は迷宮探索で何度も数字を叩き出し、トップ層の仲間入りを果たした。
佐治は不適切発言で大炎上した。予定のコラボ案件がパアになり、松本と亀井も彼を見限ってセブンスターズは解散。発言は今後の就職活動にも影響する見込みだという。
(ま、もう関係ないけどな)
胸糞悪い記憶はアルコール消毒に限る。頼んだ銘柄はもちろん、キリンである。
「陽太さん、あなたのお陰で、配信を見てくれる人がいっぱい増えました」
テーブル越しのYUIはカクテルグラスを両手で包み込みながら、照れくさそうに微笑んだ。
表で魅せる小悪魔キャラを引っ込めた、年相応の素直な顔。成り上がりでウハウハな俺とは対照的に、彼女の声にはどこか暗い響きが潜む。枝豆をつまもうとしていた手を止め、ジョッキの冷たい水滴を指先でなぞって無言で先を促した。
「あたし……仙台に帰郷してからずっと一人で寂しかったんです。周りの人とは仕事だけの付き合いだし、元居た友達も地元内で固まっちゃったし……」
自嘲気味に笑う視線がテーブルの端を泳いだ。
地方都市特有の人間関係の閉塞感ってやつだろう。東京帰りで配信者という色眼鏡で見られがちな彼女には、とりわけ孤独を感じやすい環境だったに違いない。
到着したばかりの特上牛タンを、目の前の相方へスッと押しやった。
しんみりすんな、美味い肉でも食え。
そう言外に告げてジョッキを傾けると、YUIは小さな瞬きの後、表情を綻ばせた。
「だから陽太さんがいてくれて助かりました。本当に……ありがとうございます」
深々と頭を下げるYUI。
神妙な雰囲気に思わず頬を掻いた。
「それより、そろそろ本名を教えてくれよ。本気で天下獲りに行くんなら、な」
俺は財布から名刺を差し出す。
名前欄を見た途端、彼女は俯いた。
奇妙な沈黙が流れる。
「わ、笑わないでくれる……?」
やがてYUIは小さな口をおずおずと開いた。
「あたしは富澤。富澤ゆいな、です……」
別に普通の名前だが……。
あれ?
俺のフルネームは伊達陽太。
そして彼女が富澤ってことは……?
「二人でサンド◯ィッチマンじゃ~んw」
「ちょっと何言ってんのかわかんない」
こうしてダンジョン界隈の黄金コンビが誕生した!
完
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