第2話:見誤りの代償と、選び直す意志
この作品は生成AIを使用して作成しています
その報告を受けたとき、エリシアの下で働きはじめたマリアンヌの手はわずかに震えた。
「……穀物価格が、急騰しています」
机の上の書類には、各地の市場価格が並んでいる。
不自然な動きだった。
本来であれば、今回の施策で価格は安定するはずだったのに。
「原因は?」
向かいに座るエリシアが、静かに問う。
「……商会の一つが、買い占めを行っています」
「どこ?」
「ヴァルト商会です」
その名を口にした瞬間、マリアンヌは胸の奥に小さな違和感を覚えた。
――本当に?
だが、すぐにその思考を振り払う。
「証拠は?」
「流通量の偏りと、契約記録から推測できます」
「推測、ね」
エリシアは書類に目を落としたまま言う。
「……確証はありませんが、状況証拠としては十分かと」
「切るべき?」
短い問い。
マリアンヌは一瞬、迷った。
だが――
「はい。被害拡大を防ぐためにも、早急に排除すべきです」
そう言い切った。
「分かったわ。あなたの判断で進めなさい」
その一言に、胸がわずかに軽くなる。
信頼されている。
その実感が、背中を押した。
――だが。
数日後。
「……申し訳、ありません……」
マリアンヌは深く頭を下げていた。
報告書は、無情だった。
ヴァルト商会は潔白。
むしろ、急な取引停止により地方の流通が滞り、混乱が広がっている。
「……私の、判断ミスです」
声が震える。
胸の奥が、冷たく沈んでいく。
あの日と同じだ。
――見誤った。
「顔を上げなさい」
エリシアの声は、静かだった。
「ですが――」
「事実はもう分かっているわ」
責める色はない。
それが、余計に苦しかった。
「問題は、その先よ」
ゆっくりと顔を上げる。
「……先、ですか」
「ええ。あなたは今、何を見ている?」
問いに、言葉が詰まる。
失敗。
自責。
後悔。
――それしか見えていなかった。
「……」
「それでは、また見誤るわ」
はっとする。
「……では、何を見れば……」
「構造よ」
エリシアは淡々と続ける。
「なぜ、あなたはヴァルト商会を疑ったのか」
思考を辿る。
価格の急騰。
流通の偏り。
契約の偏在。
「……意図的に見えたからです」
「ええ。そしてそれは“誰かにそう見えるようにされていた”可能性は?」
息が止まる。
視界が、一気に開けた。
「……誘導……?」
「その通り」
エリシアはわずかに微笑む。
「あなたは“善意で動く者”だから、こういう罠に引っかかりやすい」
胸が痛む。
だが、否定できない。
「……では、私は……」
「弱点を知ったのよ」
その言葉は、優しかった。
「それは強さになる」
マリアンヌは、ゆっくりと息を吸う。
そして――
「……再調査を、させてください」
顔を上げる。
もう震えてはいなかった。
「今度は、“誰が得をするか”から追います」
「ええ。行きなさい」
その言葉に、力強く頷いた。
――やり直す。
逃げない。
数日後。
「……見つけました」
マリアンヌは報告書を差し出した。
「複数の中規模商会が裏で結託し、流通を分断しています。ヴァルト商会は、それを補おうとしていただけでした」
「動機は?」
「市場支配です。価格を意図的に吊り上げています」
エリシアは頷く。
「今度は、確証があるわね」
「はい」
迷いはなかった。
「では、どうする?」
問われる。
以前なら、即座に排除を選んだだろう。
だが――
「……段階的に締めます」
「理由は?」
「一気に潰せば、市場が混乱します。まず流通を正常化させ、その後で責任を取らせるべきです」
エリシアは、わずかに目を細めた。
「……良い判断ね」
その一言で、胸の奥がほどけた。
だが同時に、分かっていた。
これは“褒められた”のではない。
――認められたのだ。
「エリシア様」
「なあに」
「……ありがとうございます」
「何が?」
「見捨てなかったことです」
一瞬の沈黙。
そして。
「当然でしょう」
エリシアは淡く笑った。
「あなたは、私の隣に立つ人間なのだから」
その言葉に。
マリアンヌは、初めて自分の足で立てた気がした。
もう、ただ守られるだけではない。
――共に進む。
その覚悟が、確かにそこにあった。




