39話 ふわふわ甘いバレンタイン
──7人で作る、世界一にぎやかなチョコレートケーキ──
ロッジのキッチンに、甘いココアの香りが漂い始めた。
バレンタイン当日。
7人は「みんなで大きなチョコレートケーキを作りたい!」というフローナの提案でケーキ作りが始まったのである。
「はい! 皆んなエプロンつけて〜!」
フローナがめちゃくちゃ張り切っている。
「フローナ、テンション高いわね」
ラナが笑う。
「だってバレンタインだよ!? チョコレートだよ!?」
その横でノエルはボウルを抱えながら首を傾げた。
「チョコケーキって、そんな簡単なのか?」
「簡単にする為に、みんながいるんでしょ」
「ラナちゃん料理下手だもんね」
「何ですってー!?」
ラナがノエルの両頬を引っ張る。
「いはいいはいー!」
ジン、サラ、ひまわりの3人は材料を量る係だ。
「ジン様、砂糖ってこれくらいかしら?」
しかし、サラが持って来たのは砂糖ではなく・・・。
「サラ、それは塩だ・・・」
その時、ひまわりが砂糖の袋を咥えて来た。
「ひまわり、ありがとう」
「きゅ!」
「サラ、これをカップ一杯頼む」
「分かりましたわ」
サラが砂糖の袋を逆さまにしようとしたのでジンが止めた。
「サラ、いっぱい、ではなく一ニの一杯だ」
「あら、すみません」
ひまわりが近くではしゃぐ一方で、ジンは淡々とチョコを刻んでいた。
「ジン、細かいな」
チェルが驚いてのぞく。
「刻みが細かいほど、溶けやすくて滑らかになる」
「へぇ・・・さすがジンは頼りになるなぁ」
サラも小さくうなずいた。
「ジン様って料理上手ですわよね」
ジンは少し照れて目を逸らした。
ラナとノエルは材料を混ぜる係りだ。
ラナが泡立て器を持ち、ノエルが横でボウルを押さえる。
「ラナちゃん、そんな必死にならなくても」
「生地にダマが残ったらイヤなの!」
「いや、それにしても力入り過ぎだって。飛び散ってるじゃん。」
「じゃあ、アンタがやってみてよ」
「いいよ」
ノエルが泡立て器を持つと、力強くかき混ぜ始めた。
「あら、結構上手じゃない」
「まぁラナちゃんよりはね」
「私にだってそれくらいできるわよ!」
「じゃあやってみる?」
「貸して」
ぐるぐる!ぐるぐる!!ペチャ!
「ラナちゃん、やっぱり僕がやるよ」
ラナが飛ばした生地が顔に付いたまま真顔でノエルが言う。
チェルはそのやり取りを見て苦笑しながら、生クリームを混ぜていた。
フローナは飾り係りだ。
フローナは仕上げ用のイチゴを切っていた。
「ハート型に切ってみたの!ジン君見てみて!」
「フローナ、包丁の持ち方それじゃ危ない」
「え〜?」
「こうして、こう・・・」
「わぁ、ジン君上手〜!!」
「簡単だ、ここをこうするんだ」
「ふんふん・・・あ!できたぁ!!」
「はは、良かったな」
隣ではサラが先程の計量から巻き返そうココアパウダーを茶こしに入れて、そっと振りかける練習中。
「サラちゃん、それ可愛い!」
「ふふ、次こそはやりますわ」
少し誇らしげなサラにフローナが微笑む。
今日は何だかみんなの空気がふわふわしてとても甘い。
チョコレートの香りに包まれているからだろうか。
ついに焼く工程へ。
しばらくして
オーブンのタイマーが「ピピッ」と鳴る。
「できたーー!!」
チェルの声に
ひまわりが一番に飛んでくる。
ラナがそっと扉を開けると、膨らんだチョコケーキから熱い湯気が立ち上がった。
「「おおーー!!」」
全員が感嘆の声を漏らす。
ノエルが腕を組む。
「思ったより上手くいったな」
「みんなでやったからだよ」
チェルが優しく言う。
ケーキを冷ましたら、いよいよデコレーションタイム。
フローナがイチゴを並べ、サラがココアを振り、ひまわりがチョコを垂らし、チェルがプレートを整える。
ラナとノエルは生クリームをしぼり合う。
ペチャ!
「ちょっとノエル! ふざけて生クリーム人に向けないでよ!」
「いや、今のは手が滑ったんだって」
「嘘よ!も〜!!」
「ごめんって」
そう言いながらノエルがティッシュでラナの頬に付いたクリームを拭く。
「ん」
さっきまでプンプンしていたラナはすっかり機嫌が良くなったようだ。
テーブルに大きなチョコレートケーキがどん、と置かれた。
ハートのイチゴ、きらきらのパウダー、チョコのライン。
見た目は凸凹としているけれど不思議と一体感がある。
「きゅ!!きゅー!!」
ひまわりが目を輝かせる。
「これ絶対おいしいやつ」
チェルがほっと微笑む。
「じゃ、みんなで食べましょうか」
サラの声で全員が席についた。
「「いただきます!」」
フォークが触れ、ケーキがゆっくり切り分けられる。
ひと口食べると・・・。
「んまっ!」
ノエルの素直な声。
「うん! めっちゃおいしい!!」
ラナも頬をゆるませる。
フローナは感動して手をパチパチと叩いた。
「ん〜美味しいー!!」
「ほら、口にチョコレート付いてるぞ」
ジンが苦笑しながらティッシュでフローナの頬に付いたチョコレートを拭き取る。
「わっ、ありがと!」
皆んなの笑い声。チョコレートの甘い香り。
チョコレートが口の中で溶けるようにバレンタインの夜もふわふわと溶けていった。




