化け猫の独白
我は化け猫である。名前は、まあ、化け猫だ。
姿形は虎に近い。
人は我を虎と勘違いして恐れる。
だが、我は猫である。仕草の全てに猫臭さが滲み出てしまう。気が向いたら撫でられたい。ちょっとしたことにビックリする。たまには飼い主に甘えたい。エサは与えられたい。ヘソ天で日向ぼっこをしながら寝るのも大好きだ。我は気の向くままに好きなことをして過ごす。
しかし、人はこれを怖がる。野生で狩りをする虎のように、凶暴なふるまいをするのではないかと疑り深い眼差しで我をコワゴワ眺めてくる。いつか鋭い爪で飼い主に力強いパンチを食らわし、大きな牙で肉も骨も食いちぎるに違いないと信じているらしい。
だから、我が一歩動くたびに人はビクっと怯える。たいていの場合、我は撫でてほしいだけなのだ。人にグリグリと頭を押し付けると悲鳴を上げるものすら居る。失礼な対応だ。
そのうち、我の仕草が猫っぽいと気付く者が出てきた。そうしたら余計に不気味がられるようになった。
我は寂しい。普通の猫だったら存分に甘えられるだろうに、我は甘え足りないのだ。
虎のくせに活動的ではないことに業を煮やした人は、我が早く虎らしさに目覚めるようにあの手この手で迫ってきた。
我は虎ではない。我は猫なのだ。断固として猫なのだ。
だから人のことはしばらく無視した。虎の真似なぞしたくないのだ。
とうとう人は我を虎の檻に連れて行こうとした。そんなことをされたら我は虎に殺されてしまう。今の個室で満足しているのだ。もっと人と交流したいが、虎と交流するのは無理だ。
我は必死に抵抗することにした。虎の鳴き声を真似、虎のパンチを真似、虎の噛みつく顔を真似た。
そうしたら、人は満足してくれた。
こうして我は猫っぽい仕草をする変わった虎、という名誉ある肩書を手に入れ、より良い個室に移ることができた。
しかし、虎の真似など二度としたくない。我はどこまでいっても猫なのだから。我は可愛いと言われて甘やかされたいのだ。お気楽に生きていたいのだ。
いつか猫扱いされたいのだ。こんなに大きな体でも可愛い可愛いと撫でられるのが夢なのだ。