魔法使い
目が覚めた。今回は、すぐに状況の理解ができた。二回目の転生、三回目の人生だ。
今回は、少年程度の身体だった。憑依転生とか、そういう類だろう。
俺は何故か山で寝そべっていた。少し寒い。立ち上がり、足元に視線を落とすと、何かの模様が描かれていた。
魔法陣のようだった。散々創作物で見てきた、あの魔法陣だ。
「すっげぇ。細か」
美しい魔法陣に感動する。誰がこんなに細かい模様を描いたのだろう。
「どうやら、成功したみたいだね」
空から人が降りてきた。箒が地面に落ちた。彼女は三角に尖った大きな帽子と、ローブを着ている。
魔法使いだ。格好が完全に魔法使いだ。
「成功した?」
「魔法だよ。魔法が成功したんだ」
「どんな?」
「知りたいか?知りたいよなあ。じゃあ『お願いします。教えてください、偉大なマロナ様』と言え」
「めんど。じゃあ良いや」
「ちょ!待て待て」
彼女は焦ったかと思えばすぐにドヤ顔に戻る。
腕を胸の下で組むと立派な球が強調され、俺の頭が真っ白になった。
彼女の咳払いで思考能力を取り戻した。
「この魔法は異世界の人間の肉体、または魂。もしくは両方を、この世界に呼び出す魔法でね。とっても高度な技術なんだ。ほら、褒め称えろ」
こういうときは、逆に褒めたくなくなる。実際凄そうに聞こえるし、おそらくその通りなんだろう。けど、なんか、褒めたくない。
「あの、質問良いですか?」
「ああ。良いぞ。聞くと良い。私はこの世で一番の魔法使いなのだから、魔法に関しては知らないことなどない!」
「俺は、魂を呼び出されたんですか?」
「いや、肉体と合わせて両方だ」
「鏡とか、ありません?」
「あるぞ。ほら」
彼女は魔法を使い、どこからか鏡を出現させた。
それを見ると、俺の身体は、昨日までの身体と同じ、そして、腕は修復されていた。
「それで、俺はどうしたら良い?」
「さあ?取り敢えず試しただけだし」
「えぇ…」
「と言っても、この辺に受け入れてくれるような街はないがな。まあ、頑張れ」
「ちょっと!待ってくださいよ!」
「私は忙しいからな。このあと魔導書を読む予定なんだ」
「しっかり、責任とって引き取ってください!」
「やだ」
「責任、とってくーださい」キュピーン
精一杯の萌え声を出したが、男の萌え声ほどキモいものはない。
こんなものでは足りないか。さて次は何をしようか。
「…わ、わかった。一日、いや三週間だけなら、住まわせてやっても、良いぞ」
やったのか?マジで?
変わった趣味をしているようだ。まあ好都合だ。でもこれじゃ、こいつもキモいのでは?
…やっぱり野宿しようかな。
「さあ、上がってくれ。ソラーネ、夕食の準備はできているか?」
「はい。今日はカレーです」
「だそうだ。ソラーネのカレーは美味いぞ。存分に楽しむと良い」
そう言われて期待が高まる。カレーは美味しい。だから好きなのだが、異世界におけるカレー、というのはどんなものなのだろう。
「…人間?消えろ、クズ」
辛辣。彼女がソラーネなのだろう。声のトーンが明らかに違う。厳しい、怖い顔。
でも、可愛い。顔が、可愛い。
顔が熱い。胸が高鳴る。これが…恋!?
多分、違う。
「早く消えろ。従わないのなら、死ね」
彼女は指輪をつけた指輪を突き出した。空中に魔法陣が描かれる。やはり美しい魔法陣だ。厨二病は永遠の病だ。
「ソラーネ。彼は人間だが、君の家族を殺した連中とは関係ない」
「いいえ。関係あります。魔法では無い、何か特殊な力を持っています。連中もそうでした」
何も特殊能力は持っていない。それとも、自分でも気づかなかった秘められし能力があったりして!
「ないだろ。こいつ、弱いし」
え?
「だって、ここに来るまで、何回も何も無いところで転んだし、スライムと遭遇したときも死にかけてたし。雑魚だろ」
「そう、ですか」
「ああ。とにかく、こいつに特殊な力なんて無い。この私が言うんだ。間違いない」
俺はぼこぼこに貶されたが、ソラーネさんには納得してもらえたようだ。
…さっきのキレた顔も可愛かったなあ。
なんか、今日の俺は、キモい。