転生
俺は、自分で言うのもなんだが、努力家だ。だから今日も遅くまで図書館でテスト勉強をして、ランニングをしていた。
腕に巻いた時計を見れば、八時だった。コンビニに行って、チキンを買っていたら、八時だった。
幸い一人暮らしだ。家族に心配をかけることはない。
チキンの入ったレジ袋を手に持ちながら、横断歩道を渡る。レジ袋はチキンの温かさが伝わっていた。冬だから、さらに温かく感じる。
「あ…」
道路に積もった少量の雪。そこに足を突っ込んだ。身体が浮遊する。体温が、無くなった。身体の芯に、ツンとした冷たさがある。
待ってましたと言わんばかりに、トラックが向かってくる。身体は宙に浮いて、身動きが取れなかった。
眼前にトラックが現れる。運転手の人と目が合った。次の瞬間、ぶつかる。レジ袋を持っている右腕が痛い。少しして、痛みが全身に伝わった。寒さのせいで感覚が鈍くなったのだろう。
「痛い」
身体が、動かない。こういう時、野次馬が集まったり、誰かが救急車を呼んでくれるものだと思っていた。
段々視界がぼやけていく。母さん、父さん、おじいちゃん、おばあちゃん。これが、走馬灯というやつか。
「ごめん」
俺は、この世界を去った。
俺は目覚めた。死ぬのは、眠るようで、案外怖くなかった。ただ、目覚めるとは思わなかったし、申し訳なさも感じている。
あたりを見渡すと、人がいる。
『あのぉ』
声を出すつもりが、出ない。目は見えている。手も動かせる。
「え?あ?」
手が小さい。指がうまく動かせない。一つ、嫌なことを思いついてしまった。近くに鏡はないか。
近くの窓に映る自分の顔。それは、自分の顔ではなかった。小さく、髪がない。
「あうあ?あうああぁ!」
俺は、赤ちゃんになった。