第9話
皆んなで一緒に夜を明かした俺、狙井蓮。
勿論一睡も出来るはずなく、
最悪な二日目を迎えるのであった。
「おはようございます勇者様っ。お早いのですね?」
「あー……うん。おはよう……」
早起きは非常に慣れている。
当然だ。毎朝狙い台を取る為に早くに家を出て、
例え遠く離れたパチンコ店だとしても、
俺は勝つ為に足を運ばなければならないのだ。
しかし、だ。
今日は早起きというよりも、眠っていない。
昨日の夜、煙草を吸い終え部屋に戻った俺だったが、
何故か美少女二人に挟まれる形で、
長い一夜を過ごさなければいけなかった。
オーフェルが右端を陣取ったせいでリーチェが左端、
レグナはオーフェルの隣という、
最高の陣形で眠る事になったんだ。
女性二人はせめて固まるべきでは?
俺が右端で寝てたらさぞ快適な睡眠を取れただろうに。
恨むぞこのおっさん。ありがとう。
「勇者よ。昨日はよく眠れたかな?」
「いや、あんまり?」
オーフェルは元気そうでなによりだ。
こちらはあいにくそんな元気にはなれないのだが。
この倫理観はいつまで捨てられずにいるのだろうか。
いつか俺も、
人前で脱ぎ出しそうで恐怖すら感じてしまう。
「起きて下さいレグナ様! 朝ですよっ」
リーチェはレグナの肩を揺さぶりながら、
彼女を必死に起こそうとしていた。
朝が弱いのか、
レグナはなかなか起きてこないようだ。
まあ、俺も朝より夜の方が、
高確率ゾーンに期待が持てるので好きだが。
「ん、んん。うるさいですわね……。
何時だと思っているんです?」
目を擦りながらゆっくり起き上がってきたレグナ。
メイドは大変だろうに。
こんなのをいつも起こしているのか。
「朝ですよレグナ様。朝ごはんも出来てます!」
食卓には昨日と似たような食事が並んでいた。
これ朝から食べるのキツくないか。
竜の肉美味かったけどさ。
「皆さん、私はもう出ますねっ」
硬い肉を頬張りながら、リーチェの声に反応を示す。
そうだった。
今日は確かリーチェは予定があるんだったな。
レグナと街の様子を見に行かなきゃいけないとは……。
「うむ。気を付けるのだぞリーチェ」
「はいっ!
お昼は冷蔵庫に入ってるので温めて食べて下さいね」
俺と同じように、
朝食を食べていたオーフェルも顔を見上げ、見送る。
まるで母のような彼女の健気な姿に、
俺は自然と見惚れてしまっていた。
家の扉を開き、
羽根を広げて羽ばたく姿を見送って、食事に戻る。
一方でレグナの方を見てみると、
若干眠りながら朝食を取っている。
どんだけ朝弱いんだ。
イタズラしてもバレなさそうだ。
「これレグナ! 行儀が悪いぞ!」
オーフェルはそんなレグナを叱っていた。
これは怒られて当然だろう。
それでもまだ眠そうにしているのは、
もうどうしようもないな。
と、思っていたのだが。
「さぁ! 狙井蓮! 街へ向かいますわよ!」
さっきまで眠りながら朝食を摂っていたというのに、
少し時間が経てば何の事かといわんばかりに、
元気を取り戻しているようだ。
逆に時間が経った事で、
一睡もしてない俺に弊害が及んでいるんだが。
「えー、本当に行くの?」
「当たり前ですわ!
でないと何も出来ませんわよ?」
まあ、それはそうなんだが。
なんでだろう、
ここまで気が乗らないのは久しぶりな気がする。
眠いからだろうか。
「さっ、行きますわよ。
しっかり掴まってくださいな」
問答無用でレグナは俺を引っ張り、羽根を広げる。
やっぱりこの世界だと皆んな羽根付いてるのかな。
俺も自分の意思で空を飛んでみたいな。
「それではお父様、行って参ります」
「うむ。気を付け行くのだぞ。
勇者に迷惑はかけないように」
オーフェルはレグナを見送る。
この人は仕事しないのだろうか。
俺が言えた立場じゃないけど、
王族って、結構もっと大変だと思いますよ。
強引に空の世界に連れ去られた俺。
空から見下ろす街並みは綺麗ではあるものの、
見た感じだが、活気はあんまりないな。
そんなに広そうな街とも言えなさそうだし、
どうしたものか。
そうなってくると、
仮にパチンコ店をオープンしたとしてだ。
人口の三割、いや四割来れば上々か?
「そういえば、
この国の王ってオーフェルなんだよな?」
「えぇ。父がパラクステリアの王、
ワタクシは王女ですわ」
国王ってつまりは、
俺の世界でいうと政府みたいな役割を持つ筈だ。
「……税金ってどこにいってるの?」
国に住んでる人がいるなら、
税金を徴収していれば国王が貧しいなんて、
そんな事はないと思うんだが。
「なんです? ぜいきんって」
なるほど、それは国王が貧乏な訳だ。
だってあのおっさん何も仕事してなさそうだもんね。
昨日だって、
俺が行った時城内の椅子に座ってただけだし。
そりゃ、税金がないなら国にお金は入らないだろう。
どうやってこの世界成り立ってるのだろうか。
「え。商売とかは勿論あるよな?」
さすがにこの概念すらないと、
パチンコ屋なんて夢のまた夢だぞ。
「それは当たり前ですわよ。
きちんとお店はたくさんありますわ」
よかった。単に税収しないだけなのか。
それはこの国だけ、というわけじゃないんだろうな。
「お金でやり取りするの?」
「貴方、馬鹿にしてます?
だからお金が必要なんですけど」
これだけ価値観が違うと確認もしたくなるって。
俺の知ってる世界と何もかもが違うんだぞ?
なんせパチンコ店存在しない世界だぞ。
「じゃあ、お金を稼ぐには?」
「? お仕事をするのが基本ではありませんこと?」
俺の世界と共通するものがあったりなかったりと、
よくわからないな。
でも最低限の事は聞けたかもしれない。
少なくともお金のやり取りは存在してるし、
仕事という概念もある。
となるとだ。やはり、
本当に国王が貧乏なのって仕事してないからじゃん。
それから少し歩いていくと、
小さい露店が立ち並ぶ拓けた場所にでた。
「あれは、商店街か」
「ええ。ご挨拶に向かいますわよ」
レグナに連れられ、
俺は後ろに付き添うようについていく。
露店を眺めているが、
どうにも色んな果物が売っているようだ。
「おや? レグナ様じゃないかい!」
「ご機嫌よう奥様。腰の具合はどうかしら?」
レグナが店主の女性と仲良くお喋りを始めた。
向こうから気安く話しかけてきたあたり、
人付き合いはいいみたいだ。
俺に対してだけなぜそんな態度なのかわからないが、
まあ民を想っての事なんだろう。
いい事ではあるんだろうな。国の在り方としては。
商店街は結構賑わっており、
客と店主それぞれが当たり前のように、
どこも楽しそうな会話を繰り広げられていた。