第8話
見栄張り家族に翻弄される俺、狙井蓮。
この国の財政状況一体どうなってるんだと、
まったく関係のない俺ですら不安になってきた。
「えー? じゃあ明後日からでいいや」
「だからワタクシが案内すると言っているのですが?」
リーチェが明日用事あるなら、仕方ない。
明日は稼働休みにして、明後日から本気出そう。
レグナが文句のありそうな目でコチラを見ているが、
己の言動を振り返ってみてほしい。
「俺が嫌なんだけど」
「ワタクシだって嫌ですわよっ!
どうして貴方なんかと!」
もうお互い嫌い合ってるじゃん。
なら明日は休みでいいと思うんですけど。
「これレグナ! 勇者になんという口の聞き方だ!」
「んなぁっ、
貴方のせいでワタクシが怒られたではありませんか!」
その理不尽過ぎる言い回しはやめてほしい。
だが、オーフェルは俺の味方のようだ。
招かれた側の俺をもてなすのは当然の事なのだが。
レグナはもてなす素振りを一切見せないので、
好感度は差枚グラフマイナス域だ。
「ま、まぁまぁ。レグナ様も落ち着いてください。
今日はご馳走を用意したんです!
お食事にしましょうよ」
台所の方で何かをやっていたかと思えば、
リーチェはきちんとメイドをしていたようだ。
料理担当だったのか。
そういえばメイドって料理するのかな。
こういうのは料理人が別にいたりすると思うんだけど。
まあ、この国の財政じゃ雇うのは無理な話だろう。
リーチェはグツグツと煮込まれた鍋を運んで来た。
家族団欒みたいな雰囲気出てるけど、俺部外者です。
「まぁ、美味しそう! さすがはリーチェね」
「えへへ~。私の得意分野ですからっ!」
美味しそうな匂いに釣られ、俺も鍋の中を覗き込んだ。
見たことのないお肉だこれ。デカすぎるだろう。
「……これなんの肉?」
「? 先程勇者様に無礼を働いた竜ですよ?」
いつの世も、食物連鎖の頂点に立つのは人類なんだな。
よく分からない魔法で吹き飛ばしてたかと思えば、
まさか肉塊として提供されるとは、
コイツも想像していなかったろう。
許せ。俺と出会ったのが運の尽きのようだ。
「ごめんよ。
誰かさんが召喚場所を間違えたばっかりに」
俺は鍋の具材と化したあの生き物にお詫びをした。
レグナの鋭い視線が突き刺さるが、
まあ気にしないでいいだろう。
竜の肉を食べるのは初めてだが、意外と美味しい。
脂が少なく淡白ではあるが、噛み応えがあった。
しかし、
食に関心のない俺だから食えるんだろうなこれ。
普通の人は、
ここに召喚されたら泣いて雑草食べてるまである。
◆◆◆◆
食事を終えた俺達は、
満足そうにお腹を撫でながら天井を見上げる。
まさか豪華な飾りに見えたもの全てが、
魔法によるものだとは。
というか、今日俺が打ってた台どうなったんだろ。
「……さて、明日から忙しくなるからな。
今日はもう寝ようか」
オーフェルがふいに声を出した。
料理に気取られたり有耶無耶にされて忘れていたが、そうだった。
まだ問題が何一つ解決していないのである。
「そうですね。では寝巻きに着替えますわね」
倫理観俺だけバグってるの納得できないから、
もう気にせず寝ちゃおうかな。
リーチェの隣なら問題ないだろう。
「――いやまって。おい、なあ」
俺以外の三人が、
揃いも揃って着用している物を脱ぎ出し始めた。
おっさんの裸体以外はラッキーかもしれないが、
さすがに倫理観がここまで違うのは、
俺でも戸惑いを隠し切れないだろ。
「む? おぉ、そうだったな。
失礼。勇者の着るものを持ってこよう」
「いや俺の着る服はどこかとかじゃなくてさ。
違うでしょ? もっと他にあるだろ」
確かに俺の服ないから気にはなったけど、
今一番気になったのは、
絶対にそこじゃないのよオーフェルさん。
「さすがにこのドレスでは眠れませんわよ。
これ、結構重いんですよ?」
「このまま寝たら、
服がシワだらけになっちゃいますし……」
ダメだこの世界。俺生きていけないかも。
「……外で風に当たって来るよ……」
「あ、外出るなら落ちないよう、
前に出過ぎないで気を付けてくださいね!」
変に追求するのも疲れたので、
部屋を出ようとしたんだが。
リーチェが不穏な事を言い出した。
あれ? さっきまで玉座に繋がる通路でしたよね。
もしかしてあれも魔法なの?
落ちないようにとの事なので、恐る恐る扉を開いた。
なるほど。これは、昭和の木造アパートかな。
二階だけ浮いてるタイプの物件は初めて見たけど。
これ本当に突き進んだ場合、
真っ逆さまに落ちていくんだけど大丈夫?
台風とか来たらどうなるんだこの家。
「魔法ってすごいな……」
足を動かせばギシギシと軋む通路。
国を統べる一国の王が空中アパートに住むってあるの?
そういえば俺、
こっちの世界に来た時何か持って来れたのかな。
荷物はなかったが、
ポケットとかに何か入ってないか探してみた。
「おっ、煙草じゃん」
ポケットに忍び込んでいた煙草を取り出した。
情報収集用のアイテムとして活用しているが、
この際もうここで吸ってしまおう。
もしかしてこれ売れば滅茶苦茶儲かるのではないか?
いや、量産できないだろうし無理か。
そんな事を頭の片隅で考えながら、俺は煙草を咥えて、
一緒に入ってたライターで火を付けた。
美味い。もう買えないと思うと心残りがあるな。
「――あら、なにをしていらっしゃるの?」
寝巻きに着替えたであろうレグナが、
家の扉を開いて出てきた。
なんというか、
年頃の女性に対して言う事ではないんだろうけど。
ドレス売ってバランスのいい服着てもいいのでは。
見る限りジャージそのものなんだが? しかも赤って。
どうせなら金にした方が期待値あると思うんだが。
「ん? 煙草吸ってる」
「煙草? 嗅いだ事のない匂いですわね。
結構いい匂いしますね」
現実世界でそんなこと言う人いないよ。
大抵は臭いが無理とかだけど、
煙草自体が存在しないからなのか。
しかし、そう考えるとやっぱ売れそうなんだよな。
「家の中で吸いなさいな。落ちたら大変ですわ」
現実世界でそんなこと言う人いないよ。
俺もあんまり家で吸いたくないんだけど、
ヤニ汚れとか壁に付着しちゃうしな。
退去の時大変なんだぞ。
「ん……もう少ししたら戻るよ」
「そうですか。では、私は先に休みますので」
退去費用の事を考えた結果、
吸い終わるまで外にいる事にした。
レグナが部屋に戻っていくのを横目で眺めて、
空を見上げる。
どこの世界にも星空は広がるものなんだなと、
らしくない事を考える俺なのであった。