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第3話

見事当選濃厚の復活演出を乗り越えた俺、狙井蓮(ねらいれん)

絶望的状況に追い込まれ、

寸前の所で(レインボー)演出が絡んだ事により無事生還する。


「勇者様! お、お怪我はございませんか!?」


共闘演出でやってきた謎の金髪ツインテールの少女。

彼女が駆け付けてくれたお陰で助かった。


さっきから俺の事を勇者と呼んでいたが、

もしや彼女が俺をパーラークステリアに呼んだのか?


だとしたら、

手始めにデータ情報を頂きたいところなのだが……。


まずこんな恐竜の生息する田舎のパチンコ店が、

データを公開しているとは想像できないな。


「えと。ええと、こんにちは?」


美少女相手と会話をする事自体、

存在しないものだから言葉が変になってしまう。


女性店員とでさえ、

「全部交換で」くらいしか言った事ないというのに。


「あっ! すみません、申し遅れましたっ!」


彼女は何かを思い出すようにはっとなり、

さっきまで広げていた羽根が消えていく。


コスプレかと思っていたが、

よくよく思い返せばこの子空を飛んでいたんだった。


「私はパラクステリア王国でメイドを勤めてますっ。

名前をリーチェと申しますっ!」


リーチェと名乗る女性もどこか緊張しているようだ。

所々で声が裏返っていた。


確かにメイド服のようなものを着ているが、

とてもじゃないがメイドには見えない。


演出でいえば当たりの絡まないリーチだろう。

この子が何かに失敗し、

「三、四、三」と図柄が止まるのが目に浮かぶ。

だがこれでも発展すれば何とかなるのが面白い所だ。


「あー、よろしく?」


いい加減会話に慣れたいのだが、

いかんせんこの状況がそうはさせてくれない。


俺はパチンコ店で収支をプラスにする為に来た。


ここで油を売ってるのは、

損害以外の何者でもないだろう。

一回転でも多く回さなければ意味がないのだ。


「あのっ。勇者様をお連れしたいのですが、

よろしいですか?」


リーチェも同じ事を考えていたのか、

そう問い掛けてきた。


「……お願いします」


自分の足で向かいたかったが、仕方がない。

ここはリーチェの意思を汲み取る事にした。


実際、パーラークステリアがどこかも分からないしな。


「あ、では。飛んで行くので……。

私に掴まってもらっていいですか?」


前言撤回だ。

どうやら自分の足で行くしかないらしい。


掴まってくれと言われても、どこを掴めばいいのか。


いい歳した俺がこんな美少女に掴まろうものなら、

今のご時世警察のお縄に捕まるのがお決まりだろう。

俺は決してそんな事には手を染めるつもりはない。


「ちょちょっ、勇者様!? どこに行くのですかっ」


美人局には屈しないと、

俺はリーチェをスルーしようとしたのだが。


「いやだって、ねぇ?」


「パラクステリア王国はここから遠いので、

歩きでは無理ですよ!」


どうしてだろう。

そっちが俺を連れてきたのに、

なんでそんな遠い所に降ろした?

もしやあの声の主は俺に勝たせるつもりはないのか。


「ちょっと事情があって、召喚に失敗して……」


最後の方、口籠もるように言っていたが聞き取れた。

どうやら向こうにも想定外の事情があるようだ。


「……わ、わかりました。私が掴んで飛ぶので

その、一緒にご同行お願いします……」


そんな泣きそうな顔で言われると、

どうしても断れない。


というより早く打ちたいのが本音なので、

ここはリーチェに甘える事にした。


なに、この世界は俺の知る場所ではないのだから。

警察のお世話になる事もないだろう。


なったとしても俺は死人。

死人に口なしだ。黙秘権で何とか乗り切って見せる。


「じゃあ、落とさないでね?」


「努力しますっ!」


点滅保留並の言葉に、こっちが泣きたくなってきた。

人は二回死ぬとどうなるのだろうか。



◆◆◆◆



リーチェに掴まれ、

空を飛んでどれくらい経っただろうか。


こうしている間にも何回転か回せているのだろう。

恨むぞあの声の主。


周年日は一年に一度だけのイベント。

厳密には現状のパチンコ屋はイベント自体、

法規制されているが故に店側は濁して、

それをユーザーが察する事で体裁を保っている。


そんな一大イベント、

それを逃せば初見で行く店舗の勝率は低い。


仮に勝率を上げる方法があるのなら、

リニューアルオープン、グランドオープンなのだが。

というかそもそも、周年日はいつなのだろうか。


「勇者様! 

パラクステリア王国が見えてきましたっ!」


そんな事を考えているうちに、

どうやら目的地に着いたようだ。

俺もその姿を見ようと、前方を覗き込んでみた。


「えー……でっか。総設置台数何台あるんだよあれ」


あまりの大きさに目を丸くした。

あんな城みたいな大きさのパチンコ店、

いままでみたことないぞ。


いや、城みたいなホテルの一室に、

一台だけスロットが設置されてるんだったな。


そういうコンセプトのパチンコ店なのだろうか。

だとしても、

あとでフロアマップを貰っておかなければいけない。


リーチェはパチンコ店の入り口から入らず、

上階に降り立った。


「こちらです! この先に王の間がございますっ」


彼女に先導され、そのまま着いていく。


ここがパーラークステリア王国のようだが、

店内が異様に静かだった。


あのパチンコ屋特有の、

ジャラジャラという音が全く聞こえない。


しかし広いのは確かだ。

どこを見ても豪華な飾り付けに、見た事もない絵画。


これは相当儲かっているのだろう。

いい店なのかもしれない。


大型店舗をぼったくりだと思っていた事もあったが、

実際還元率的には大型店舗の方が高い事は、

誰もが知っていると思う。


「……こちらの先に、パラクステリア王国の国王、

オーフェル様が勇者様をお待ちしています」


誰の部屋なのだろう。この店の、店長? 

さすがに店長と顔馴染みになるのは嫌だな。

なんか色々疑われそうなんだが。


巨大な扉が重く開き、

奥にいる店長の姿が見えてきた。


店長の前には、

複数の店員達が列を組んで俺の事を見ている。

しっかり研修されているようで、非常に好印象だ。


「よくぞ来てくれた。勇者よ。さあ、入りなさい」


店長に呼ばれ、恐る恐る歩みを進めた。

奥に座る店長の前に辿り着く前に、

店員達は丁寧にお辞儀をしている。


本当に勇者みたいな扱いをされるとは、

死んでみるものだ。


「私はパラクステリア王国の国王、オーフェルだ」


白髪の店長がデカい椅子から立ち上がり、

俺に近付いて握手を求める。


この店長、

俺を早くも出禁にしようとしているのだろうか?

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