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第2話

ゾロ目の日。俺、狙井蓮(ねらいれん)は殺された。

勝ちを確信していたのに、

俺は人生という名の勝負に負けてしまった。


台の取り合いで殺されるなんて、

天国に行きたくても行けないんじゃないだろうか。


まともな人生を送ったとは思えないが、

こんな事で死ぬのは納得できるはずもない。


今日の台のデータも取れないし最悪だ。

それにしても、ここはどこなんだろうか。


何もない場所のようだ。見渡す限りの暗闇が広がる。

ここが死後の世界というやつなのか?


『――……者よ』


ふと、どこからか声が聞こえてきた。

優しくて、どことなく居心地のいい声だ。


『勇者よ』


しかし、どうもここには俺以外の人もいるようだ。

呼ばれているぞ、勇者さん。


『貴方です。勇者よ』


中々返事をしないようなので、

俺も声の主を探してみた。

しかし勇者とは大層な名前をつけられた物だ。


俺の世代ではあまり馴染みはないが、

これがキラキラネームというやつなのだろうか。


『……貴方の事です、狙井蓮』


突然俺の名前を呼ばれた。


「なら最初から名前で呼べよ」


姿の見えないその声の主に、思った事を口に出す。

勇者と呼ぶものだから返事が出来なかっただけで、

最初から名前を呼んでたらすぐ反応できたのに。


『……大変失礼しました。

ですが、貴方は勇者なのです』


大学を中退してから十年間、

基本毎日パチンコ店に入り浸ってただけなのだが。


『貴方のその執念、

是非こちらの世界で晴らしませんか?』


今、もしや周年といったか?

()()()とは、

プロが一番押し寄せるパチンコ屋のイベントだ。


一周年、二周年とその年に一度の誕生日は、

パチンコ屋がよく使う常套句であり、

客寄せに期待できる一日となる。


当然俺自身もその単語には敏感だ。

特にマイホの周年日は徹底的に調べている。


もっとも勝てる確率の高い一日なのだから、当然だ。

高設定が多く使われる見込みのある日、

それが周年日というわけだ。


しかし解せない。

この声の主は周年日を知らせにきたのだろうか。


しかし俺が行ったことのないホールだ。

もしやそのパチンコ店で勝ちを収めれば、

俺はここから帰れるのか?


迷っている場合じゃない。

俺は今日のゾロ目のイベントの為に、

生き返ってここから帰らなければ。


「わかった! そっちの世界に行かせてくれ!」


初めて行く店だろうが、勝率を上げる方法はある。

その世界とやらで俺が勝てる確率は高いだろう。

なんせ周年日なのだから!


『ありがとうございます。

この世界の名は、パラクステリア』


パーラークステリア?

田舎のパチンコ店なのだろうか。


参ったな。

田舎のパチンコ店は周年日も危険かもしれない。

まずその店舗の稼働状況から調べる必要があるな。


『貴方のご活躍に期待しております』


声の主がそう言い放つと同時に、

暗闇だったこの場所に光が差し込んできた。


「なんだこのフラッシュ予告は!

眩し過ぎるぞメーカー!」


直視出来ないほどの光に包まれた俺は、

声の主曰く、

パーラークステリアへと吸い寄せられていった。


◆◆◆◆


フラッシュ予告が終わったと思えば、

そこには見たことの無い景色が広がっていた。


広がる青い空に、白い雲。そして輝く(レインボー)


これだけなら俺も見た事はある。


しかし、明らかに俺の知る世界ではない、

違う何かがそこにはあった。


「……なんだあの動物は」


俺の知る限りの知識では、

あれは恐竜と呼ばれる類の生き物だろう。

地球では絶滅したと聞いていたが、

まさか実在していたとは。


「あれはプテラノドンだな。俺でも知ってるぞ」


空を飛ぶの巨大な鳥を見て、そう呟いた。

その鳥を捕食しようと、先程の恐竜が近付いていく。


その瞬間。


「グギャァァァ!」


耳を塞がずにはいられない程の絶叫。

恐竜が大地を揺らすほどの声を高々と上げた後、

その鳥を目掛けて口から炎を吹いた。


「oh……」


恐竜は炎を吹くなんて、授業で習っただろうか。


そもそも恐竜についての知識が乏しい俺にとって、

仮に習っていたとしても、

覚えてないだけかもしれない。


そんなの覚える余裕があるなら、

台の演出や法則を覚えていた方が百倍マシだろう。


その炎に灼かれた鳥は地面に落ち、

恐竜が捕食を始めた。

弱肉強食の時代なのだろうか。

食物連鎖的に、この場合人間はどの位置にいるのか。


「……次、俺食べられるかも」


独り言のように呟いた俺の予感が、当たった。

捕食演出を長々と見ていたせいもあるのだろう。

恐竜が、俺を見下すように見ていた。


「やーっべ……」


俺は後ろを振り返り、一目散に走り出した。

ここがどこなのかわからないが、

目の前に見える森の中をひたすらに突っ切る。


森の中を走っていると、別れ道が見えてきた。

正解のルートを選べば図柄が揃う演出になるだろう。


だが、大抵こういう弱演出でのリーチは本当に弱い。

外れるのが目に見えている。


いやまて。外れたらダメだ。

演出的な都合でやられてても、今の俺は確実に死ぬ。

あれ? ていうかもう死んでなかったか俺?


「復活演出だろこれ! どっち選んでも勝ち!」


迷わず右のルートを選んだ。

読みが当たるなら、この先は崖になっているはずだ。


そこで俺が追い詰められ、

捕食されそうになったところに、

キュインキュインと鳴り響くことだろう。

そうに違いない。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。……見えてきた!」


どうやら俺は、

問題なくプロとしてやっていけそうだ。

俺の読み通り、目の前に広がってきたのは崖。


ここまで追い詰められてしまったようだ。

唯一の懸念点として、

前兆演出があまり絡まなかったところだが。

ただ後はもうただ待つだけだ。


「グオォォォ……」


追い詰めたと判断したのだろうか。

恐竜はスピードを落とし、

ゆっくりと俺の方に近付いてきた。


よく見たらあの恐竜、赤色だ。

赤は少し弱いか? 金ならよかったんだが。


「ゆ、勇者様ぁぁ~~!」


ギリギリまで追い詰められる寸前だった。

遠くから女の子の声が聞こえてきた。


その方角は、恐竜の後ろ。

上空を見上げると、

(レインボー)の輝きから何かが飛んでいるのが見えた。


(レインボー)は当選濃厚だろ、これ」


どんな演出でも、メーカーは確定とは言わない。

必ずどんな演出でも、

完全確率を謳う以上百%というのは存在しない。


激アツだって外れるのが常だ。

しかし、だ。

当選濃厚の法則は見れば誰もがワクワクするもの。


現に今、共闘演出が発生している。

遠くから段々とその姿を現し始めた彼女。


恐竜の姿を捉えたかと思えば、

ビームのようなものでその恐竜を吹き飛ばした。


図柄が揃ったというわけだ。

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