表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

第1話

以前投稿していたものを編集した改稿版


スマホでかなり見やすく調整してます。

PC版だとスッカスカです。申し訳ない。

非常に読みやすく面白い作品となっております。

時刻は朝六時。


今日はゾロ目の日、

世間からすれば単なる数字遊びかもしれないが、

俺からすれば激アツ日だ。


狙い台は絞っている。

店の傾向、そしてその店特有の推し機種。


髭を剃り、

髪を整えた俺は無地のTシャツを着て準備を整える。


「いってきます」


隣町まで電車で三十分といったところだろうか。


この時間に出れさえすれば、

まず間違いなく()()を受けられるだろう。


開店は朝九時だが、

こういった日の抽選時間はとにかく早い。


一時間前どころか

もっと早くに到着している必要がある。


さらにいえば、その抽選前の待ち時間ですら、

勝負は始まってるといっても過言ではない。


この生活を続けて、早くも十年が過ぎた。


狙井蓮(ねらいれん)、三十歳。

俗に言う普通の生き方というものが嫌で、

この生活を続けている。


世の中では忌み嫌われているパチンコ店に入り浸り、

勝って得た物で暮らす生活は、案外悪くない。


そういった人達の事を、

パチプロ、スロプロと呼んでいる。

パチンコスロットのプロフェッショナルという事だ。


この時間帯の電車は、

スーツを着たサラリーマン達が座席で眠る。


俺はそんな戦場に駆り出される社会人を横目に、

いつも開閉口付近に立つ。


「今日は暑いな……激アツ日和だ」


独り言だ。

誰にも聞こえないようにしているつもりだが、

多分誰かの耳には入っているだろう。


だが、そんな事は気にせずに俺は改札口を出る。


向かう先は俺にとっての戦場。

ここから歩いて五分圏内、

駅近という立派な立地を誇る店だ。


駅から出るサラリーマンの軍勢を潜り抜け、

俺はコンビニに向かう。

そこで買うのは一日稼働分の飲み物、

そして昼用の簡単な軽食。


パチンコ店には()()()()というものがある。


これはユーザーが快適に遊戯して頂けるように、

店側のサービスとして設けられている。

予め決められた時間内で休憩できるというものだ。


その時間というのは店舗により様々で、

大体は五十分程度となっている。


しかしプロフェッショナルと呼ばれる面々は、

この五十分ですら無駄には出来ない。


スロットには()()というものがある。

これは一から六までの計六段階が存在し、

設定の数値により、当選までの確率が変わる。


一が最低確率、所謂低設定。

そして六が最高確率、高設定となる。


例えば低設定の確率が三百分の一。

高設定の確率が百分の一なら、

どっちに座るか明白だと思う。


そう、みんな高設定の台に座りたいに決まっている。


俺達プロはその高設定の台を狙う為に日々研究し、

勿論打っていた台が高設定だった場合なんかは、

開店から閉店までの数十時間、

ずっとその台と向き合う必要がある。


そんな中で休憩を取ろうものなら、

命知らずといったところだ。


「間も無く抽選のお時間でーす」


時刻は八時になる少し前。


俺は抽選の時間まで店舗近くの喫煙所で待機し、

持っていた煙草に火をつける。


イヤホンをしているが、何も聴いていない。


これは情報を集める手段の一つであり、

周りの常連の言動を盗み聞きする為に行っている。


常連が何を狙うか、そして初めて行く店なんかでは、

どんな台に高設定が入りやすいのか、

そんな事を話す人達が稀にいる。


パチンコ店での喫煙所とは情報収集の場であり、

煙草を吸うつもりがなかった俺だが、

こうして情報を集める為に吸い始めた。


店員の声に釣られるように、

朝イチで並ぶ人達が集まってくる。


シニア層の数は数十名。

これは毎日来店する常連だろう。


今日はそれらとは別に、

俺のようなプロがかなりの数揃っていた。


抽選自体は並び順で受けられる。


この方法自体も店舗毎に違うが、

今ではスマホでの抽選なんかも行っている。


二つあるうち一つの抽選機のボタンを押した。

そこから出てくる紙切れが、今日の俺の運勢を占う。


三番。


およそ三桁規模は抽選を受ける中でのこの番号は、

大当たりだ。

今日は勝った。と、そう俺の中で確信した。


この店舗は俺の()()()。常連みたいなものだ。


マイホとは、自分の気に入っている店のことを指す。


自分がよく遊ぶ店を人に話す時に使う単語であり、

マイホールを略した名称の事だ。

ユーザーにとっては一般的な言葉でもある。


世間一般で言う「こんにちは」のようなものだろう。


そんな話はさておき、

この店舗が俺にとってのマイホである以上、

店の傾向は掴んでいる。


どこに高設定が入るか、

そのデータを持つ俺にとっては、

今日の抽選番号の三番は勝ち確定だ。


逆を言えば

こういう日に番号を引けないと勝率はかなり低い。


まあ、そういう日はまた違った勝ち方はあるのだが、

それはまた別の機会に話すとしよう。


それから開店時間までの間、

俺は再び情報収集に徹した。


そして午前九時、パチンコ店の営業が始まる。


抽選番号三番の俺は、

店員の指示通りに動き入場した。


狙い台の場所は当然暗記している。

俺は素早い足取りでその場所へと向かう。


「よし、空いてた」


狙いの角から二番目の台に座った。


勿論一番狙っていた台が座れない時もある。

プロはその狙い台を幾つかピックアップし、

候補として出しているのが当然だ。


一台目に座らなければ二台目、

それもダメなら三台目と狙う。


それでもダメなら打たずに帰る事もある。

無駄に打たないというのが鉄則だ。


まあ、今日は一番狙っていた台に座れたので、

あとは閉店まで休憩を取らず、

ひたすら打ち続けるだけなのだが。


俺は台の右脇にある()()()にカードを入れた。


サンドとはパチンコ、スロットを遊戯するうえで、

お金を入れる場所である。


パチンコは台に向かって左側、

スロットは右側についている。


基本的に現金のみでの遊戯になるが、

()()()()()という特別なカードを作る事が出来る。


これは店によって分けられており、

このカードを作ることによって、

勝った分の出玉を貯める事が出来る。


会員カードを作らない場合、

勝った分の出玉はその日限りとなる。


プロは大体この出玉を貯めた玉、

メダルでの遊戯を行う。

交換は頻繁に行わないのがプロの常識だ。


「おい、そこ俺の台なんだけど?」


慣れた手つきでサンドを操作していた矢先、

一人の男が俺に声を掛けてきた。


「ん? 確かあなた後ろの台取ってましたよね」


この男は俺より前に入場していた若者だ。

見たところ、

俺と同じようにプロとして食っている人物だろう。


そんな男が、

俺にイチャモンをつけるように声を荒げいた。


入場時には必ず台確保券というものが渡される。


これは店側がユーザーに対し、渡す物だ。


パチンコ店は掛け持ち遊戯、

つまり二台同時に打つ事を禁じられており、

店側がそれを確認する為に設けているルールだ。


ユーザーはルールに従って、

確保券を決めた台の見えやすい位置に置く。


俺がこの台に座った時、それらしい物はなかった。

つまり、それが何を意味するのかと言うと、

この台は若者が座っていた物ではないという事だ。


「あ? うっせえな。ダチが来るから待ってんだよ」


なるほど、そうきたか。


「それはルールで禁じられてるけど、店員呼ぼうか?」


面倒事は避けたいが、

こういう自分勝手な奴を放置する訳にはいかない。


仕方なく台の上のボタンで店員を呼ぼうとした。

その時だった。


「黙れよッ! とっとと退けやクソが!」


逆ギレした若者が、俺の腹に何かを刺してきた。

それを確認するのに、時間はかからなかった。


「……っ!」


声にならない呻きを上げ、

その場で座り込む様に崩れる。

腹から生温かい何かが染み渡って行くのを感じた。


嘘だろ? 俺、こんな事で殺されるの?


最近こういう狙い台巡りの事件が多いと聞くが、

なんで俺がこんな目に?


そう頭の中で唱え続けるが、

結局俺の意識はそこで途絶えた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

専門用語は解説しているつもりですが、

もし分からない事とかあれば遠慮なく仰って下さい。


感想とかブクマもらえたら嬉しい。

勝った負けた報告でも嬉しいです。

因みに私は連敗中です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ