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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
8/49

第8話 いずれ交わる炎装拳士


 ――異世界、中立国家アヴァロン、首都ラフレシア郊外。



 茂みに隠れて様子を(うかが)っていたボクは、一人の女性に見惚れていた。


 長い金髪に混じる一束の赤い髪。風に揺れる髪から覗く、整った顔立ち。

 アスリート的な引き締まった肉体美を持つ、健康的でスリムな姿態。

 170近い身長に、黒を基調とするパンクなファッション。

 歳は20代後半くらいだろうか? 大人の色気に(あふ)れている。


(綺麗な人だなー……)


 左側だけ開けたスカートに、ショートパンツ。加えて赤い軍用ブーツ。

 両手には炎装(フレイム)拳士(ファイター)らしく、装甲の入った耐火性と思しき赤いグローブ。

 恐らく彼女が身に着けている衣類は全て、戦闘用にチューンされた物だろう。


(間違いなく、高位の冒険者……見た目はバンドマン見たいな感じだけど)


 彼女が身に着けている装備品や装飾品を見れば、そのどれもが高価で性能の良い物だと分かる。(たたず)んでいるだけの彼女の様子をゴブリン達が窺っている所を見るに、彼女が放つ覇気に圧倒されているのだろう。


 それだけで、彼女の実力が如何(いか)に高いかが窺い知れた。


 RoF(ロフ)と同じなら冒険者にはランクがある。高い順にS~Dの五階級に分けられ、恐らく彼女はSランク……最低でもAランク以上であるのは間違いない。


 ――そんな風に推察していると、たじろぐゴブリン達より先に彼女が動いた。


 左足を一歩踏み出し、ボクサーのように両手を構える。

 そして次の瞬間には目にも留まらぬ速度で虚空にラッシュを打ち始めた。



「――【炎弾拳(ブレイズショット)】——」



 攻撃スキルを(つぶや)いた彼女の両手の(こぶし)から放たれるのは、無数の炎弾。

 流星のように軌跡を描き、炎弾は視界に映る全ての敵対象に飛んで行く。

 獲物を逃さぬように、炎弾はあらゆる角度から追尾しゴブリン達を強襲した。


 炎装拳士の攻撃スキル【炎弾拳】。それは両手に(まと)った火炎を敵対象に向けて飛ばすスキルだ。攻撃力は低いが、その分射程が長く対象を追尾する。おまけに【炎弾拳】は発動後にスキルのC(クール)T(タイム)R(リセット)する(無くせる)効果がある。


 RoFではスキルのC(クール)T(タイム)R(リセット)後は同名スキルを発動し続ける限り、スキル名を口にしなくても自動的に連続で同名のスキルが発動する仕様だった。それはこっちの世界でも変わらないらしい。


 炎弾の雨に当てられてゴブリン達は成す術無く蹂躙(じゅうりん)される。

 弓矢や槍、更には剣を彼女に向けて投擲(とうてき)するもそれらは全て撃ち落とされる。


(ゴブリンの耐久力じゃ、高ランクの炎装拳士が使う【炎弾拳】に耐えられない。低ランクなら数発は耐えられたんだろうけど、彼女の前じゃ無力だな……)


 本来なら【炎弾拳】は牽制用の攻撃スキルで、射程内にいる敵対象のヘイトを稼ぎ、タンクである自分の周辺に集める目的で使用される。しかしそれが高位の冒険者の物となれば、それは最早(こぶし)大の弾丸と変わらない。


 彼我の戦力に差があり過ぎてヘイトを稼ぐまでも無いのだろう。

 このまま牽制用の技で彼女は全て片付ける心算(つもり)でいるようだ。


(こうなると、もうボクの出番はないかな……)


 そう考えた時、不意に可愛らしい足音が聞こえ、此方(こちら)に近付いて来た。

 足音の先に視線を向けると、そこに居たのは一所懸命走る妖精さん(もふちゃん)の姿。


「マスタっ。首都から救援が、来たのだっ」


 茂みで息を潜めていたボクに合わせたのか、もふちゃんは小声で報告する。

 そんな愛しいパートナーの姿を確認して、(ようや)く緊張の糸が(ほぐ)れた……


 加えて丁度、首都の方角から複数の冒険者が此方に向かってくるのが見えた。

 恐らく彼女の仲間か、あるいは異常を察知して集まって来た冒険者達だろう。

 それを確認して、ボクはもふちゃんへ向き直る。


「もう大丈夫みたいだね」


「うむっ! マスターは、とっても頑張ったのだっ」


「ありがとう! もふちゃんのお陰だよ!」


「そーなのっ?」


「そーだよ?」


 もふちゃんとじゃれ合いつつ、しゃがんだままもふちゃんを抱える。

 ちらりと彼女の様子を確認すると、未だに殲滅中の姿があった。

 救援のお礼を言いたい所だが、戦闘の邪魔をする訳には行かない。


(声を掛けたいけど……ダメだ……人が集まって来て話し掛けられない……)


 駆け付けた冒険者達が彼女と共闘するべく周囲に集まり、戦闘を開始。

 彼女も含めてお互いにやり取りし合う光景を見て、コミュ障故に足が(すく)む。

 複数人が話し合っている状況に割って入る等、コミュ障には到底不可能だ。


 そうとは知らず、もふちゃんは得意げにボクに報告する。


「マスターが討伐した分の魔石は、回収済みなのだっ。安心してねっ!」


「……うん。ありがとう。安心したよ」


 偉い偉いともふちゃんを撫でると、嬉しそうに体を(よじ)る。

 晴れない気分を紛らわせつつ、罪悪感から目を背けた。


(戦闘中だし、終わるまで待ってみようかな……)


 戦闘に参加し、今直接お礼を出来ない自分が不甲斐ない。

 しかし人に話し掛けようとするだけで足が竦んでしまう。

 正直、モンスターと戦う方がまだ何倍も気持ち的にはマシだと感じる。


(ついさっきまでモンスターと戦う事に抵抗感を覚えていたのに、今はそれより人と接する方が怖いと感じてる……人間って不思議だな……)


 先程馬車を護衛していた冒険者達に自然に話し掛ける事が出来たのは、状況が逼迫(ひっぱく)していた事と、自分が救援に入らねば危険だったという流れがあったからだ。今の彼女達に救援に入る必要性は感じず、(むし)ろ邪魔になりそうな気さえする。


(一応、戦闘が終わるまで見守ろう)


 万が一の事態になれば飛び出す覚悟を決めて、彼女たちの活躍を見守った――




   ▼ ▼ ▼




 その結果、何事も無くゴブリンは撃退され戦闘は終了した。

 安心した様子で寝息を立てるもふちゃんを抱えたまま、途方に暮れる。


(結局見守るだけで終わっちゃった……)


 ゴブリン達を危なげ無く撃退した彼女達は、スマホに良く似た不思議な端末を使用してドロップした魔石を撮影し、撮影した魔石を何処(いずこ)かに転送すると、そのまま首都へ向けて帰って行った。


 ボクがここに潜んでいた事には誰も気付かなかった様子。


 戦闘終了後に勇気を振り絞って話し掛けようとタイミングを窺っていたのだが、炎装拳士の女性はかなりの有名人だったらしい。戦闘終了後に他の冒険者達から囲まれて、質問攻めにあっていた。


(お陰で話し掛けるタイミングがなかったよ……お礼したかったな)


 彼女等はそのまま首都へと帰還してしまったのでお礼をするタイミングも逃してしまった。こういう時に上手く輪に入って行ける陽キャな人が羨ましい……


(馬車はもう安全だろうし、ボクも首都に行こう)


 立ち上がり気を取り直して、再び首都ラフレシアへと歩みを進める。

 後はもう視界が開けた見通しの良い草原を突っ切るだけだ。

 これだけ視界が良ければ奇襲に合う心配は無いだろう。

 首都はもう目と鼻の先なので迷う心配も無い。


 腕の中で気持ちよさそうに眠るもふちゃん。時々喋る寝言が可愛い。


「……ますたー。われのドーナツさん……食べちゃダメなのだっ……」


 どうやら夢の中で、ボクに大好きなドーナツを食べられてしまっている模様。


(あぁー……カワイイ。尊い……尊い……)


 そんな姿に癒されていると、落ち込んだ気分も晴れて来る。

 気を取り直して、首都に到着した後やるべき事を整理しよう。


(まずはホテルの確保かな? お金ならさっき討伐したゴブリンの魔石があるし、魔石の換金レート次第だろうけど、数カ月はホテルに泊まれるはず)


 ゲームではゴブリンの魔石は最安値。1つ2000S(シード)だった。

 ホテルの相場は一泊二日で1万S(シード)。ゴブリンを5匹討伐すれば一泊できる。


 インベントリには合計837個スタックされているので、それだけあれば換金レートがゲームの半分であったとしても一月は何とかなるだろう。実際の相場や物価を見ない事には分からないが、これだけあれば生活する分は十分と思われる。


(問題は装備品の整備費用とか、消耗品等の必要経費がどの程度か……)


 生活資金は幸運にも確保できたが、問題となるのは冒険者として生きて行く場合の必要経費だ。アイテムは消費するし、当然ながら装備はゲームと違って消耗する。その経費を稼げなければ冒険者は務まらない。


(それとギルドに冒険者として登録しないと。どのギルドに登録するべきか……こっちの世界のギルド事情何て全く知らないから、(ほとん)ど賭けだなぁ)


 もふちゃんなら何か分かるかもしれないが、ギルド事情に精通しているとは思えない。妖精族は人間と共存しているものの、妖精族は聖域で独自の文明と経済圏を築いているので、実は人間社会に(うと)いのだ。


流石(さすが)に首都の市街地までゲームと同じとは思えないし、ある程度は探索して土地勘を得たいな。それと、ダンジョンに潜るならボスを攻略する必要があるだろうし、パーティー組まないといけないか……どうしよう)


 諸々の事情は何とかなるだろうが、一番厄介なのがパーティー編成だ。

 コミュ障ボッチである自分にはそれが最もハードルが高い。


(やる事が山積みだ……でも、もふちゃんと一緒なら出来そうな気がする)


 何だかんだ言ってもやはり、この世界はボクが愛したRoFと酷似(こくじ)している。

 廃人クラスまでやり込んだ自分からすれば、やっぱり心が躍る世界なのだ。


 そんな風に未知への不安と期待に揺れながら、目的地を目指すのだった――


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