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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第7話 初陣のブラックバード


 ――異世界、中立国家アヴァロン、首都ラフレシア郊外。



 もふちゃんの報告ではゴブリンの群れは馬車を狙っているという。


 馬車の後を追う動きを見せているようで、先程から徐々に進行方向が変わっているらしい。加えて先程、その群れから足の速い斥候部隊が馬車を止める為、突出して追撃してきたと報せを受けた。


 馬車への襲撃を阻止する為、ボク達も移動して迎撃地点を変更する。


「この辺が良いかな?」


「そうねっ!」


 雑木林を抜けた先、そこは視界が開けた草原地帯。

 ここなら馬車を追撃して来る斥候部隊の進路上に陣取れる。

 おまけに視界が開けている為、討ち漏らしの可能性も低い。


(見通しが良い場所ならスキルの攻撃範囲も分かり易いな)


 まだスキルの攻撃範囲について正確に把握しきれていない。

 周囲に人の気配は無いので、攻撃範囲を把握するなら丁度良い状況だ。

 ここならゴブリンを相手に思いっきりスキルを振り回せる。


 ――そうしている間に雑木林からゴブリンの斥候部隊が抜けて来た。


 その姿を目視して、もふちゃんから報せを受ける。


「先遣隊のお出ましなのだっ! 数は60体ねっ!」


「任せて! 一網打尽にしちゃおう!」


 補助スキルの効果はまだ切れていない。

 (さや)を掴み長剣の(つか)に片手を添えて、居合のように待ち構える。

 それに対し鋒矢(ほうし)の陣形で突撃してくる斥候部隊。


 どうやら勢いに任せて此方(こちら)を蹴散らす心算(つもり)でいる様子。

 当然ながらそうは行かない。斥候部隊の後には本隊の突撃が控えている。

 ならばこの程度の数を相手に手間取ってはいられないのだ。



「――【天翔(てんしょう)(せん)】――」



 白銀の長剣を引き抜くと同時、黒い光が剣身から瞬時に伸びる。

 黒い光を刃として、横薙ぎ一閃。黒い軌跡がゴブリン達を強襲する。

 気付いた時には既に手遅れ。黒い刃はゴブリン達を逃さず捉えた。


 ――黒い刃によって真っ二つに斬り飛ばされたゴブリン達が宙を舞う。


 切り離された上半身が、飛翔するように天高く跳ね飛ばされた。

 全てのゴブリンの上半身が一斉に跳ぶ光景は正に天翔。

 状況を飲み込めぬまま、ゴブリンの斥候部隊は消滅した。


 全ての個体が銀の流体に還った事を確認して、もふちゃんは言う。


「斥候部隊の討伐、完了なのだっ!」


「上手く行ったね!」


 余談だが、【天翔閃】のスキル効果に空を飛ぶ効果は無い。

 【天翔閃】の天翔とは切り裂いた物体を空高く打ち上げる事を指している。

 つまり天高く飛翔するのは、自分では無く切り離された物体の方なのだ。


 (ちな)みに攻撃範囲で言えば、影装(シャドウ)騎士(ナイト)の持つ攻撃スキルの中で一番広い。

 威力こそ他と比べて低い方だが、この広範囲と打ち上げ効果は唯一無二だ。

 RoFの頃は対人コンテンツである“闘技場”で【天翔閃】が非常に使えた。


(そう言えば、こっちの世界にも闘技場ってあるのかな?)


 RoFでは全ての首都に闘技場が存在していた。

 もしかするとこっちの首都にも存在しているかもしれない。


 ――等とちょっとした疑問に気を取られていると、もふちゃんから報告が。


「マスタっ! 後5分で、本隊のご到着なのだっ……!」


「分かった! 一応、念の為に補助スキル掛け直すね!」


 まだ補助スキルの効果終了まで余裕はあるものの、万が一を考え掛け直す。


「【韋駄天(いだてん)】【刹那(せつな)の見切り】【(くれない)の誓い】」


 まずは本隊を相手に最も攻撃範囲の広い【天翔閃】で先手を取る。

 ゴブリンの耐久力なら【一撃必殺】までは必要ない。今は温存しよう。


 迎撃の準備を整え、再び居合の構えをしていると雑木林に動きあり。

 けたたましい音と共に雑木林から一斉にゴブリンが現れる。

 見る見る内に増えるその数、何と驚きの3000体以上。

 視界の先がゴブリンの群れで埋め尽くされていた。


 その異常な光景を見ながら思わず(つぶや)く。


「……とんでもない数だなぁ」


「マスターなら、やれるのだっ……!」


 隣を見れば、もふちゃんが謎の自信に満ち(あふ)れていた。

 純真(じゅんしん)無垢(むく)にボクを信じ、強気な表情で胸を張るその姿が何とも愛らしい。


(もふちゃんにそこまで信頼されたら、やるしかないよね!)


 推しから信頼されて頑張らない道理はない。

 もふちゃんの期待に応える為、鋭く短く息を吐いた――


「――【天翔閃】――」


 黒い光が放つ影の刃がゴブリン軍団を強襲する。

 まずは広範囲に重い一撃。先頭集団を(ほうむ)って、敵軍の足止めを狙う。


 悲鳴を上げる暇すら無く、(およ)そ100体を超えるゴブリンが斬り飛ばされた。

 突然の奇襲にゴブリン達は困惑し、動揺から足並みが乱れ、進軍が止まる。

 その隙は逃さない。もふちゃんに一声かけて、敵軍目掛けて飛び出した。


「行ってくるね!」


「いってらっしゃいっ!」


 音速に近い速度で駆け抜ける。赤と黒の二対の翼が軌跡を描く。

 混乱状態のゴブリン達に肉迫し、すれ違い様に一太刀一殺。

 大地の上を飛ぶように隙間を縫って戦地を走り、一方的に敵を(ほうむ)る。


「ギェイ!? ギァギィ!!」


「ガァグ!! ガァグッ!!」


 指揮官と思しき個体が声を張り上げ指示を飛ばしている様子。

 無論それを許す道理はない。優位を保つ為、指揮官は優先的に排除する。


 ――指揮官に向け最短距離で、道中のゴブリンを(ほふ)りながら突き進む。


「ギィイイイ!!?」


 恐怖に(おのの)きながらも剣を突き出す指揮官に向け白銀一閃。

 一瞬芽生えた罪悪感を振り払い、その首を一太刀の元斬り飛ばす……


(相手はモンスター……迷えば()られる。迷うな……!)


 モンスターとは言え死に(おび)える表情は、この精神を(むしば)むには十分すぎる。

 元々はただの大学生、ただのゲーマー。命を奪った経験何て有りもしない。

 しかしここでそんな言い訳は通じない。生きて行く為覚悟を決めよう……


「――【孤狼閃(ころうせん)】――」


 震えそうになる心を振り払うように、スキルを使用し己を鼓舞する。


 演武を舞うような流麗な体捌きで、襲い掛かるゴブリン達を斬り伏せる。

 自身の周囲に影を(まと)い、流れるような13連撃。その後闇に(まぎ)れて姿を隠す。

 スキル効果により射程範囲内に存在する13体の指揮官に斬撃が飛び掛かる。


「ギェ――!?」


「ギァ――!?」


 【孤狼閃】は、使用時に影を纏い合計13回の連撃を繰り出す攻撃スキル。演武終了後は自分の姿がステルス状態になり、射程範囲内に存在する1体~13体の任意のターゲットに向けて虚空から斬撃を発生させる。


 突然虚空から奇襲を受けて、指揮官達は短い悲鳴と共に息絶えた。

 ステルス状態になった事で敵はボクを見失い、戸惑うように辺りを見回す。

 その隙に息を整える為、ゴブリンの軍団から離れて様子を(うかが)う。


 ――しかしその行動は、今のボクの心理状態では悪手であった。


(戦闘を続けるべきだったな……その方が、余計な事を考えずに済んだ……)


 今のボクは疲弊している。体力的には問題無いが、精神的な疲れが酷い。

 初めての実戦。それに加えてモンスターとは言え、数えきれない命を奪った。

 頭では分かっている。しかし体は言う事を聞かず、無意識に震えてしまう。


()らなきゃ()られる……分かっているのに、頭から離れない……)

 

 今更になって葬ったゴブリン達の顔が脳裏に(よみがえ)る。

 最初の内はモンスターだから……人では無いからと高を(くく)っていた。

 しかし脳裏を過ぎる表情を思い出せば、そこに生き物としての恐怖がある。


(くそっ……! 戦わなきゃ……! もふちゃんを危険には晒せない……!)


 このまま息を潜めていては、もふちゃんにヘイトが向かう危険がある。

 もふちゃんに怖い思いはさせられない。その為にボクが盾に成らなければ……

 (ひたい)から流れる冷や汗を拭いもせず、愛剣の柄を握り締めた……その時。



 ――ゴブリンの集団目がけて、上空から紅蓮一閃。



 (またた)く間も無く、紅蓮の光はゴブリン達を巻き込み爆発した。

 地上に咲いた花火のように、その爆発は芸術的に火炎を広げて消滅する。

 後に残されたのは焼け跡と、魔石と化したゴブリンだった物。


(このスキルは……炎装(フレイム)拳士(ファイター)の【炎槍拳(パイルバンカー)】……?)


 炎装拳士というのは、耐久力に特化したタンク系の戦闘職(ジョブ)だ。

 使い方次第ではタンクらしからぬ火力を出せる、サブアタッカー的な戦闘職。


 そして【炎槍拳(パイルバンカー)】は炎装拳士の特徴的な攻撃スキルであり、炎で形成された槍状の物体を投擲(とうてき)し、爆発させて攻撃する。投擲された炎槍の速度が上がる程、攻撃範囲と攻撃力が上昇する効果を持ったスキルである。


(炎装拳士の冒険者が、異常事態に気付いて救援に来てくれた……?)


 突然の事態に困惑しつつ様子を窺っていると、上空に人影を捉えた。

 飛んでいる……というより落下中であるらしいその人物は、更に加速。

 恐らく補助スキルを使用したと(おぼ)しき速度で、その人物は地上に降り立つ。

 

 地上に降り立ったのは一人の女性。

 長い金色の髪に、一束だけ赤い髪を混ぜたとても美しい女性だった――


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