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第35話 これが……現実ッ……!! part2


 ――異世界(オリジン)、中立国家アヴァロン、首都ラフレシア、ビジネスホテル。



 早速フロントから受け取って来た荷物を自室で開ける。

 ベッドでうつ伏せに寝そべるもふちゃんと一緒に開封の儀。

 ベッドの端から両手と顔だけ覗かせている姿がとってもかわいい。

 そんな姿を見ながら密封された箱のテープを剥がしていく。


「もふちゃん、静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)の制服だよー! 楽しみだね!」


「そーなのかー!」


 ボクに取っては一大イベントでも、子犬のようなぬいぐるみさんに取ってはそうでもない。でもボクが楽しんでいる雰囲気を察して、何となく喜んでくれるもふちゃんが優しい。この緩い温度感もまた妖精さんの魅力だ。


 (はや)る気持ちを抑えつつ、箱を開けて制服を取り出した。

 新品の制服を保護する包装を取って広げたその瞬間――



「 な に こ れ ???」



 ――立ち上がり制服を広げたボクの瞳に映るのはスカート(・・・・)だった。


 何かの間違いかと箱の中身を(くま)なく掘り出す。

 しかし出て来たのは女性物の上着とワイシャツ。

 おまけにネクタイリボンにケープまで付いている。

 当然のように男性物の制服何て見る影も無く……


 それを見て、無邪気なもふちゃんはボクに言う。


「マスターに、とっても良く似合いそうなのだっ!」


「そんな事ないよ……!? 嬉しいけど嬉しくないよ……!?」


「すまぬー?」


 涙目で抗議するボクに対して『?』マークを浮かべるもふちゃん。

 妖精さんには性別という概念が無い為、よく分かっていないのだろう。

 それだけ純粋に褒めてくれたと分かる分、余計に複雑な気分だ。


(これは明らかに配送ミスだよね……? 自分のプロフィールの性別欄にはちゃんと男性の項目にチェックを入れたし……確認しないと)


 どうやら何かの手違いで男性用では無く女性用が届いてしまった模様。

 直ぐに確認する為、急いで静寂の歌姫ギルドに電話しよう。


(正直、自分から電話を掛けるのはめちゃくちゃ緊張するし、心臓が飛び出そうなくらい苦手だけど……今は緊急事態だしそうも言っていられない……!)


 連絡が遅れた事で制服の再配送が間に合わない可能性もある。

 そうなってはおしまいだ。女装して入会式に出席する事になってしまう。

 それだけは何としても回避しなければ……


 そんな鬼気迫る思いで静寂の歌姫に電話を掛けた。


『はい、お電話ありがとうございます。こちらは静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)ギルドの――』


 直ぐに繋がり、受付さんに事情を説明。

 すると直ぐに確認を取ってくれる事になり、結果を待つ。

 それから(しばら)くして、戻って来た受付さんの言葉にボクは灰と化した。


『只今確認が取れました。大変申し訳ございません。此方(こちら)に手違いがあったようでして、男性用の制服を改めて配送させて頂きます。……それから大変申し上げ(にく)い事ではありますが、男性用の制服は今現在在庫が切れておりまして――』


 男性用の制服を支給して貰うには残念ながら時間が掛かる模様。

 どう頑張っても入会式には間に合わないらしい。


 電話越しで平謝りしている受付さんに『ああ……いえ、気にしないで下さい……』と力無く応じ、対応してくれた事にお礼を述べて電話を切った。


「にゅ、入会式に……女装して出席……」


 有り得ない現実に直面し、体から魂が抜けて行く。

 それを見たもふちゃんは、ボクの魂へと無邪気に両手を振っていた。

 取り合えず考えるべきは三日後の入会式に対する方針だろう。


(どうする……? 女装して出席する……!? 幸い、見た目だけならバレない可能性はある。ビヴァリーさんもボクを女性だと勘違いしていたくらいだし、何とかなる……のか?)


 しかしバレる人にはバレるだろう。

 ヴィターGMはボクを一目で男性だと見抜いていた。

 それにビヴァリーさんはボクの性別を知っている。

 知られたら追放……は無いだろうけど、爆笑されるのは間違いない。


「うごごごごごご……!」


「うごごっ♪」


 苦渋の決断を迫られて、頭を抱えて奇声を発する。

 そんなボクを見て、もふちゃんは楽しそうにベッドに座り真似(まね)っ子していた。

 同じようにぎゅっと目を閉じて、頭を抱えている姿がとても可愛い。


(……あっ! でもこれはギルド側の不手際だし、事情を説明すれば私服のままでも許されるのでは……?)


 不意に思い付いた名案に希望を見出し、表情から曇りが取れる。

 幸いS(サブ)M(マスター)であるビヴァリーさんの連絡先は知っている。

 ちゃんと事情を説明すれば恐らく拒否される事は無いはず。

 周りから浮いてしまう事を除けば、それが最も穏便に済む。


 早速ビヴァリーさんに電話を掛けようとした時、ふと制服を見て手が止まる。


(……せっかくだし、着たいなぁ……制服)


 男性用で無かったのは残念だけど、それでも静寂の歌姫の制服だ。

 雑誌で見かけた時からこの制服のデザインには惹かれていた。

 ボクの胸中に秘められた中二心を絶妙に(くすぐ)る秀逸なデザイン。

 これを一目見た時から、いつか着たいと思っていたのだ。


 という訳で、せっかくなので試着して見ようと心に決める。


「……よし、部屋の中で着るくらいなら大丈夫だよね……?」


「そーなのかー」


 適当に相槌を打っているもふちゃんの事は置いておき、期待に膨らむ胸中を抑えつつ、洗面所で女性用の制服に着替える。これを返品する必要は無いと聞いているので、試着を終えたら倉庫に封印して置くつもり。


 ――そして洗面所にある等身大の姿見に映る自分の姿。


(い、意外と似合ってる……?)


 厳しめに見てもこれと言った違和感は覚えない。

 骨格は女性に近いし、元々ムダ毛は生えない体質なのも幸いした。

 これならボクを知らない人は間違いなく女性だと思うはず。


「ふーむ……スカートも膝丈まであるし、着てみた感じはハーフパンツとあんまり変わらないかも……? ケープのお陰で胸が自然に隠れるし、制服だから露出も少ないし……あんまり違和感ないな」


 着る前はドキドキしていたものの、意外とすんなり受け入れられた。

 とは言えそれは、ここにボクともふちゃんの二人しかいないからだ。

 流石(さすが)にこのまま外に出ようものなら羞恥心(しゅうちしん)で即死する自信がある。


 ――取り合えず良い機会なのでポーズを決めてみた。


 何となく適当に動いて、想像の中に封印してきたカッコイイポーズを解放してみる。密かに中二心を宿す者として、琴線(きんせん)(くすぐ)る衣装を(まと)えば、ポーズを取らざるを得ない運命(さだめ)……これは至って普通の事なのだ。


 何て遊んでいると、洗面所の出入り口にもふちゃんの姿が。


「マスターずるいのだっ。われも新しい衣装さん、着せてねっ」


「いいよー。じゃあ、これにしようかなー?」


 もふちゃんを抱え上げ、倉庫画面から妖精さん専用のファッションアイテムを取り出して着せてみる。今回の衣装はボクの衣装と成るべく親和性の高い、ゴシックな雰囲気を持つドレスにしてみた。


 ゴシックなデザインの小さなプリマドレス。

 RoFのイベントでゲットした衣装だが、相変わらず良く似合う。


「何だか闇の炎が、宿って来たのだっ……!」


 もふちゃんにも無事、ボクの中二心は伝染している様子。

 飼い主として嬉しいやら悲しいやら、何とも複雑な気持ちである。

 そんな可愛い生き物を撫でてあやしていると、ライセンスが振動した。

 画面を見て見るとビヴァリーさんからの呼び出しだった。


 タイミング的に丁度良いので、直ぐに画面をタップして応答する。


「もしもし、イズルです。どうしました?」


『おーす。何か制服、間違って送られて来たらしいじゃん?』


「あー……もう聞いてるんですね。手違いがあったみたいです」


『それは災難だったなー。で、どうする?』


「どうするも何も、私服で行きますよ? 許可お願いします」


『やだ。許可しない』


「あははー面白い事言いますねー」


『イズルはもう制服着て見た? アタシにも制服姿見せてよ』


「な、何言ってるんですか??? 着てまs……せんよ???」


『あんなにポーズとってた癖に……』


「ふぁっ!? ポポポポポーズ何て取ってませんけど!?!?」


『ふーむ、これは図星の反応』


 何という策士……見事に彼女の術中に(はま)り、自ら墓穴を掘ってしまった。

 ビヴァリー・フラッグ……もしや、人の心が読めるのでは……!?

 何て内心驚いているボクに対し、胸中を見透かしている彼女から一言。


『言っとくけど、イズルが特別分かり易いだけだからな?』


 図星を突かれるとポンコツになってしまう己の性分が恨めしい。

 そんなやる瀬無さを素直に表現しつつ、もう一度彼女に確認する。


「自覚はしています……そんな事より、私服の許可下りないんですか?」


『もう下りてるよ? GMからイズルに伝えてって言われたし』


「それを最初に言って下さい……何で揶揄(からか)ったんですか」


『可愛いから』


「こやつ……」


 悪戯(いたずら)好きな小悪魔美人に翻弄されてしまうのは童貞の(さが)なのだ。

 そんな悲しい現実は置いておき、彼女から一つ提案が。


『今から外出れる? 丁度良いから紹介したい人がいるんだけど』


「出れますけど、着替えてから出るので――」


『待った。そのままで来て』


「何言ってるんですか。この恰好(かっこう)で外に出られる訳――」


『妖精さんの可愛いレア画像、欲しくない?』


「 行 き ま す 」


 例えこの身にどんな災難が降り掛かろうと、妖精さんのレア画像を入手しない選択など有りはしないのだ。何としてでも要求に応え、妖精さんの可愛いレア画像をゲットしてマイコレクションに加えてみせる……!


 そんな思いが伝わったのか、もふちゃんは『何だが邪念を、感じるのだっ……!』と言って周囲を警戒していた――


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