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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第33話 戦い終わって


 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、大森林地帯。



 ライセンスから聞こえるビヴァリーさんの声。

 どうやら無事ゲートまで退避できた様子。

 声色の調子からして怪我の治療は無事に終わったのだと推測した。


 安心しつつビヴァリーさんに返答する。


「ボクは無事です。それより、ビヴァリーさんの方は無事ですか?」


『ああ。問題無いよ。“生命術師(ライフヒーラー)”に治して貰った』


 生命術師(ライフヒーラー)というのは支援回復系の補助スキルに長けたジョブの事だ。

 パーティーには欠かせないタイプのサポーターであり後方支援の要。

 純正タイプのヒーラーであり、複雑骨折くらいなら恐らく瞬時に治せるはず。


 彼女はボクの声に安心すると、続けて言葉を(つむ)いだ。


『それより、ソロウはどうした? 撤退したのか?』


「はい。周辺に反応はありません。撤退したと思います」


 それを聞いて彼女は安堵の溜息を吐き出した。

 ボクも今、ビヴァリーさんと気持ちは同じだ。

 あのまま戦い続けていたらどうなっていたか分からない……


 それから気を取り直し、彼女はボクに指示を出す。


『分かった。ならアタシと交代だ。イズルは一旦ゲートに戻って休憩してくれ』


「え……? これから戦略級のスキルが使用されるんじゃ……」


『それはG(ギルド)M(マスター)のハッタリだよ。ソロウを撤退させる為に、一芝居打ったんだ』


「えっ!? ただのハッタリ何ですか!?」


 あの緊急放送はヴィターGMの指示による芝居だったと聞いて驚いた。

 確かに、今19層を見渡しても戦略級のスキルが発動する予兆は見られない。

 ソロウはそれにまんまと乗せられたという事か。ボクも騙されたけど……


 取り合えずゲートに急ぎ戻る理由が無くなり、ボクも安堵の溜息を吐いた。


「そうだったんですか……良かった」


『疲れただろ? モンスターはアタシとGM、それに他の冒険者達で何とかなるからさ、イズルは今の内にゆっくり休んどいてよ』


「……分かりました。一旦戻りますね。後はお任せします」


『はいよ。任せな』


 独りで休むのは彼女や他の人達に悪いかと思ったのだが、流石(さすが)に限界を超えた戦闘で疲労がピークに達している。無理に最前線で戦い続けても足を引っ張るだけだと思い、ありがたく彼女の申し出を受け入れた。


 ――ゲートに戻る為、高高度を飛翔しつつ戦場を俯瞰(ふかん)する。


 モンスターの一割程度はゲートまで到達している。

 しかしゲートの防衛網は硬く、敵の侵入を一切許していない。

 ちゃんと連携を取って陣形を組み、モンスターの侵攻を防いでいる。


 ヴィターGMが来た事で全体の士気が上がり、冒険者達の守りがとても堅くなっている。おまけにモンスター側の指揮官個体が不足している所為(せい)か、最早モンスター軍団は烏合の衆だ。


(相変わらず【プロメテウス】の殲滅速度は凄まじいし、ビヴァリーさんも前線に復帰するし、この調子なら1時間も経たずに終わりそう)


 何て考えている内にエントリーゲートに到着。

 地上に降りて、邪魔にならない場所でひっそりと休憩する事にした――




   ▼ ▼ ▼




 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、エントリーゲート。



 あれから1時間後、予想通り19層のエントリーゲートはモンスターの殲滅(せんめつ)に成功した。途中で復帰したボクも加わり、モンスターの殲滅は予想以上のスピードで進んだ為、大した被害も無くエントリーゲートの防衛は果たされた。


 他の階層でも人類側が優勢になり、徐々に沈静化しつつあるとの事。

 一時はどうなる事かと思ったが、無事にモンスターの氾濫(はんらん)を鎮圧できそうだ。


(どのゲートも無事に守り切れそうで良かった……)


 それで思うのはヴィターGMの迅速で的確な判断力の高さだ。

 ヴィターGMが応援に来てくれた事で大した被害も無く殲滅できたのは事実。

 ソロウについてもあっという間に撤退に追い込んでしまった。


(ホント、トップギルドのGMって凄いんだなー。別次元って感じがする)


 平穏が戻り、医務室でのほほんとそんな事を考える。

 今ボクは、ビヴァリーさんに言われてゲート内にある医務室へ来ていた。

 念の為、彼女と二人で体に異常が無いかを検査して貰ったところ。


 検査結果を待つボクに対し、軍医は結果を報告してくれた。


「至って健康ですね。体に異常は見られません」


「あ、ありがとうございます……」


 いつもの平穏が戻った事で、ボクのコミュ障も元に戻った。

 筋金入りのこの性分は、そう都合良く改善したりしない模様。

 誠に遺憾である。


 ――何て内心残念がっているボクの肩を、隣に居たビヴァリーさんは、ハグするように思いっきり抱き締めた。


「大金星だな!」


「ふぁっ!?」


 無邪気に飛びついて来る純粋な彼女の好意に心が跳ねる。

 突然の柔らかい感触に戸惑うボクの事などお構い無しに、彼女は言葉を(つむ)ぐ。


「あの絶望を相手にして軽傷で済んだ何て、ホントにイズルは凄いよ。お陰でここに居る全員が助かった……改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」


「あばばっばばbっばばっばb」


 彼女の体が密着し、ボクの腕にあまり当たってはいけない所が当たっている。

 初めて受けるその感触に、当然の(ごと)く思考回路が麻痺してショートする。

 不慣れな体験に顔を赤くして、ただただ体を硬直させる事しか出来ない。

 更には彼女から伝わって来る甘い香りで、余計に気が動転してしまう。


 ――そんな時不意に、廊下から足音が聞こえて来た。


(あ、この足音は……)


 とても静かな音だというのに、何故(なぜ)かやたらと耳に残る不思議な足音。

 均一的に(かな)でられるその神秘的で静かな音色を、ボクは知っている。


(何故だろう……この音を聞いていると不思議と落ち着く……)


 その足音の主は医務室の前で立ち止まり、扉を開けてボクを見た。


「良かった。元気そうだね。安心したよ」


 そう言ってボクを(ねぎら)ってくれたのは、静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)の支配者。

 白桃色の髪をそよ風に揺らし、優雅に(たたず)む綺麗な女性。

 見間違えるはずも無い。キャロル・ヴィターGMその人だった。


 彼女の姿を見て、ビヴァリーさんは立ち上がり右手を左胸に当てて敬礼する。

 それに対してヴィターGMは軽く片手を挙げて応え、敬礼を止めさせた。


 入ったばかりとは言えボクもサイレンスディーヴァの一員である為、ビヴァリーさんと同じように立ち上がって敬礼しようとしたのだが、それはヴィターGMに止められてしまった。


「そのままで良いよ。それより、体調に異常は無いかな?」


「は、はい……! お陰様で、異常ありませんっ!」


 彼女の足音を聞いて静まった気の動転も、再びコミュ障から再発してしまう。

 そんなボクの事を彼女は微笑(ほほえ)んで見つめ、ボクに片手を差し出した。


「ありがとう。君のお陰で悲哀の(ソロウ・ディ)12月(ッセンバー)を撃退できた」


「い、いえ……あれはヴィターGMの機転があったからこそで……」


 慌てて彼女の手を両手で取り、緊張しながら謙遜する。

 当の彼女は表情を崩さず、ヴィターGMは続けてボクに賛辞を述べた。


「それでも奴を撃退出来たのは君が時間を稼いでくれたお陰だよ。この報酬は、事が収まったらそれ相応の物を必ず用意する。約束しよう」


「あ、ありがとうございます……!」


 こんな凄い人から素直に感謝の言葉を受け取るのは何だかむず(がゆ)い。

 それはそれとして、ビヴァリーさんはヴィターGMに質問する。


「キャロルGM、一つ質問してもよろしいでしょうか?」


「構わない。答えられる事なら答えよう」


「奴は、何故ここに現れたのでしょうか?」


「それは裏切り(ビトレイ)者達(ヤーズ)が今回の騒動を引き起こした首謀者(・・・)だからだよ」


 ――その言葉に、ボクもビヴァリーさんも驚愕(きょうがく)し一瞬言葉を失った。


 何て事は無いとばかりにさらりと事の真相を語るヴィターGM。

 その異様さと悠然さが混じるミステリアスな雰囲気が彼女を彩る。

 呆気にとられたビヴァリーさんは気を取り直し、再び質問した。


「その根拠と証拠は……?」


「他の階層でもビトレイヤーズのメンバーを確認したという報告があってね。恐らく事前準備された計画的犯行だろう。魔族であれば、モンスターを先導できても何ら可笑(おか)しくはないからね」


「他の階層でも!? 確かにそれは、決定的な状況証拠になり得ますね……」


 返答を受けたビヴァリーさんは考え込むように腕を組み、瞳を伏せる。

 ボクの個人的な見解としてはヴィターGMの説明には納得だ。


 戦闘中ソロウを別の戦場へ誘導した時、【プロメテウス】で薙ぎ払われるまで奴の周辺にはモンスターが複数いた。しかしモンスターは奴を狙う素振りを一切見せなかった。偶然かと思っていたが、奴がモンスターを操る術を持っていたのならその不可解な状況にも納得が行く。


 ――と内心納得しかけた時、不思議とビヴァリーさんの様子が気になった。


(……あれ? ビヴァリーさん、何か気になる事でもあるのかな?)


 彼女の様子は一見すると説明に納得しているようにも見えるが、何だか疑っているようにも感じた。とは言え確証は無く、ボクの単なる直感に過ぎない。


(うーん? ボクの気の所為(せい)、かな……?)


 さり気なく観察してみたものの、それ以上目立った違和感は覚えなかった。

 単なる直感である上に、これと言った根拠も無い。


 という訳でボクの気の所為だと結論付けて彼女から視線を外した時、開かれた医務室のドア前に見覚えのある姿が映った――


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