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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第32話 【NCプロメテウス】


 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、大森林地帯。



 赤い熱と白銀の鋼が反発し合う。

 1秒に満たない世界で死線を潜る。

 お互いに超音速で動く体と視線。最早残像しか見えていない。

 視界に広がる光景を脳が認識するより速く、直感で体が動く。


(集中力が切れたら終わる……切れる前に何とかしないと……!!)


 表情筋すら動かせない。限界を超えた世界で精神力のみで場を持たせる。

 ソロウと戦闘を開始してから何分……いや、何十秒が経過しただろう。

 体感では1時間は超えている。しかし現実ではまだ数十秒しか経っていない。

 信じられない速度で奪われて行く体力は、己の死を悟らせる。


 迫る恐怖を振り払うように、死に物狂いでスキルを振るう。


「【一撃必殺】――【十字閃(じゅうじせん)】——!!」


『それは2度目だ。回避予測に修正無し』


 機械と肉声が混じる声色で、ソロウは事も無げに攻撃を回避する。

 やはり当たる気がしない……常に先を読まれているような嫌な感覚。

 吹き出る汗を振り乱しながら、奴が繰り出す熱の斬撃を紙一重で(かわ)し切る。


「――ッ!?」


『新たな回避行動を確認。回避パターンを記録。修正する』


 対して奴は嫌になる程冷静に此方(こちら)の動きを分析し、着実に対応してくる。

 奴から繰り出される反撃は徐々に精度を増し、確実にボクを追い詰める。

 次のスキルまで10秒のC(クール)T(タイム)……たった10秒が、永遠に思える程長い。


(このままじゃジリ貧だ……なら――)


 限界を超えた集中力で奴の攻撃を躱しつつ、10秒の時間を耐え忍ぶ。

 一瞬の(すき)を突いて奴に背中を見せ、限界を超える速度で戦場を駆け抜けた。

 当然奴が見逃すはずが無い。一瞬で間合いを詰め、必殺の蹴りが放たれる。


「――【神影陣(しんえいじん)】——!!」


『それはデータに記録されている』


 蹴りを放ったソロウは冷静に、途中で蹴りを止めてボクの防御スキルを不発に終わらせる。でもそれで良い。動きを止めたその一瞬で目的地に辿(たど)り着ける。


 奴から死に物狂いで距離を稼いだ理由は戦場を変える為。

 今ボクが居るのはモンスター軍団が渦巻く中心地。

 ここはヴィターG(ギルド)M(マスター)の【プロメテウス】で視界不良エリアが出来ている。


(ソロウはステルスを見破れる。その高性能モノアイカメラがある限り視界不良も意味が無い。……でも、ここには大量のモンスターがいて、そしてヴィターGMからの援護射撃が期待できる……!)


 ギリギリの状態で稼いだこの時間は、次にヴィターGMから【プロメテウス】が発射される時間まで粘る為。ここに居ればヴィターGMが気付いてくれる可能性に賭け、そして大量のモンスターを障害物として利用し、勝機を探る。


 ――その目論見通り、大群に向けて放たれた蒼い熱線が降り注ぐ。


 それは大量のモンスターを容易(たやす)(ほうむ)り、戦場に地獄を創造する。

 そして偶然、幸運にもソロウ・ディッセンバーに直撃する一撃が――


『……【プロメテウス】か。やはり脅威だな』


 しかし直撃と思われたその一撃を、奴はバリアを張って耐え忍んだ。


(この威力でもバリアが割れない!? 本当に勝てるのか……)


 戦う事で嫌と言う程痛感する。奴の異名、絶望の名に偽りは無い。

 しかしよく見れば発生させたバリアに異変が出ていた。

 直撃した部分だけバリアの明滅が弱くなっている。

 恐らくそこだけバリアの一部が、作動不良を起こしている様子。


(まだ、チャンスはある……)


 これが勝機に繋がるかは分からない。

 しかしここまで刃を交えて分かった事もある。


 それは、バリアとブレードを同時に使用出来ないらしいという事。禍々(まがまが)しい赤色のバリアが展開されている間はブレードが消失するようで、バリア展開中はレーザーブレードを出してこない。攻撃してくる際は決まってバリアを解除した後だ。


(つまり奴に勝ちたいなら、作動不良を起こしている部分を狙ってバリアを破壊するか、攻撃してきた一瞬の隙を狙ってカウンターを決めるか……)


 しかしどちらにしろ体力の限界が近い。呼吸も乱れ、体が悲鳴を上げている。

 分の悪い一縷(いちる)の望み……とは言えここで諦める訳には行かない。

 そう考えて動き出そうと足を踏みしめた時――



『緊急事態により通達! こちらエントリーゲートより19層全域へ! “魔族特異(シリアル)戦力(キラー)”の存在を確認した! これよりキャロル・ヴィターGMにより“戦略級スキル”の使用を開始する! 19層に居る全ての人員は至急エントリーゲートまで撤退せよ! 繰り返す――』



 ――19層の司令部からアラートと共に通達の音声が辺りに響く。


(戦略級スキル!? ブリーフィングで言ってたアレを使うのか……!?)


 恐らくヴィターGMがソロウの存在に気付いたからこその対応だろう。

 出撃前に行ったブリーフィングでヴィターGMから説明された事を思い出す。


 ヴィターGMは広範囲を消し飛ばす核兵器のようなスキルが使えるらしい。ボクはその詳細を知らないが、それにはダンジョンのワンフロアまるごと消し飛ばせる威力があると言っていた。ヴィターGM(いわ)く――


『戦略級のスキルを使用すれば確実にこの状況を(くつがえ)せる。しかしそうすると貴重なダンジョン内の資源も(まと)めて消し飛ばす事になる。国際情勢や世界経済に政治……それらに与える影響を考慮した場合、使用せずに勝つのがベストだ。その為状況が悪化しない限りは、私にこれを使用する考えは無い』


 異様な説得力とミステリアスな雰囲気を(かも)し出す彼女の姿が脳裏を過ぎる。

 優雅に(たたず)む彼女の記憶と共に、更に想起するのは冗談を交えた警告の言葉。


『緊急事態とは言えダンジョンのワンフロアまるごと消し飛ばせば、世界の首脳達から嫌味を言われてしまうからね。私の心の平穏維持に、皆も協力して欲しい。勿論タダでとは言わない。協力者には特別に、美味しいスイーツを進呈する用意がある。気兼ねなく協力して貰えると助かるよ』


 緊急事態であるにも関わらず、そんな事を笑顔で言う彼女の姿は特別だった。


(考えを曲げてでも使用に踏み切る程の相手が、目の前の“絶望”か……)


 放送にあった“魔族特異(シリアル)戦力(キラー)”という名称に覚えはないが、恐らくソロウ・ディッセンバーのような存在を指しているのだと思われる。そんな危険な存在を前に(にら)み合う状況は酷く心を焦らせる。


 警戒して一瞬たりとも視線を離せないボクに対して、奴は余裕を見せていた。

 バリアを張ったままエントリーゲートの方向に顔を向け、ただ(たたず)む。

 何かを計っているのか……それとも油断か。どちらにしろ動きが無い。


(何を考えてる……?)


 戦略級のスキルが使用される以上、ここに留まるのは危険だ。

 出撃前にボクとビヴァリーさんはヴィターGMとパーティー登録している。

 なのでスキルの影響は受けないが、スキル使用後の環境の変化は別だ。


 それが核兵器に近い代物だというのなら、使用後には殺人級の暴風が吹き荒れ、瓦礫(がれき)と化したあらゆる物体が飛んでくる。そうなればここに居ては助からない。影装(シャドウ)騎士(ナイト)の低い耐久力では尚の事。暴風と瓦礫の衝突には耐えれられない。


(今すぐに逃げるべき……でも、奴の足止めをしないと妨害されるかも……)


 戦略級スキルの発動を妨害されては意味が無い。

 加えてヴィターGMを危険に晒す訳にもいかない。

 ジレンマを抱えて奴を(にら)み動けずにいると、ソロウは不意に(つぶや)いた。


『……潮時か。最低限必要なデータは収集した。帰還する』


 その瞬間、ソロウの姿にノイズが走り奴の足元から影が消えて行く。

 更には奴の周囲の空間が切り取られるように歪み、奴の姿が消えて行く。


(何だ、あれ……!? 消える!? どうなってるんだ……)


 目の錯覚を疑うも、既に奴は消えた後。

 奇襲の(たぐ)いかと素早く周囲を(うかが)うも変化無し。

 念の為ライセンスのレーダーを確認するも異常無し。

 忽然(こつぜん)と、ソロウ・ディッセンバーの姿が消えてしまった……


 ――何て唖然としている場合では無い。


「そうだ!? 直ぐに戻らないと……!」


 奴が撤退した以上、戦略級スキルの使用は中止して貰わねばならない。

 モンスターだけなら何とかなる。一度ゲートに戻って報告しよう。

 そう考えて【(ブラ)(ックバ)(ード)】の効果で飛翔した時、ライセンスが振動した。


『イズル!? 無事か!?』


 滞空しつつ通話の呼び出しに応じると、ライセンスからビヴァリーさんの声が聞こえて来た――


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