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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第28話 誰かの役に立てるなら


 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、エントリーゲート。



 ビヴァリーさんと共に司令部のある建物に入り、指揮所に足を踏み入れる。

 すると指揮所に居た司令官がボク達を見て、左胸に右手を当てて敬礼した。


「ご無事でしたか! 北西の方角で氾濫(はんらん)が起きたと聞いて心配しておりました」


 ビヴァリーさんは軽く片手を上げて応答し、司令官と言葉を交わす。


「Dランク帯で遅れはとらないよ。それより、数は?」


「正確な数は偵察に出ている部隊からの報告待ちですが、現状の予測では――」


 ビヴァリーさんから聞いた話では、氾濫が起きた際はエントリーゲートの司令官とSランク冒険者が中心になって事態の対処に当たるという。なので現状ではビヴァリーさんが最高指揮官に最も近い立場にいる。


 (ちな)みに、ダンジョン側のエントリーゲートは基本的に国際冒険者連盟側の管轄になっている。なのでダンジョン側のエントリーゲートを管理しているのはギルドでは無く、国際冒険者連盟機関に所属している職員なのだ。


 その為、ダンジョンで氾濫が起きた際には全てのギルドが国際連盟の要請を受けて協力する形になるという。


 ――司令官から報告を受けている途中、通信士から速報が入る。


「偵察班からの報告来ました!! 数は……す、推定5万ッ……!?」


 その在り得ない数の報告に、指揮所にいた全ての人が振り向き硬直する。

 司令官は驚きに声を上げ、その信憑性を動揺した様子で確認した。


「それは本当か!? モンスターの数が5万……前代未聞だぞ……!?」


「更に続報!! モンスターは未だに増え続けており、現在6万を超え……更に増え続けているとの事です!!」


 その報せは悪い物だった。

 絶望が広がる指揮所で一人、冷静さを失わずにいたビヴァリーさんが(つぶや)く。


「この調子じゃ、最終的には10万くらい行くかもな……」


 それに対し、ボクは胸中に広がる不安を抑えつつ、彼女に問いかけた。


「10万……対処可能な数字何ですか?」


「現状の戦力差じゃ不可能に近い。ここにいる冒険者の(ほとん)どがDランク。Cランクも多少はいるが、あの数の前じゃ誤差の範囲だ。こっちの数は約1000。対して相手は10万。Sランクパーティーが4組……あるいはAランクパーティーが20組は必要になる。このままじゃ、ここを破られるのは時間の問題だ……」


 それを聞いて嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 Dランク程度のモンスターならギルド側でも十分対処できるだろう。

 しかしそれが大量となれば話が別だ。防衛線を破られる可能性が高い。


 おまけに転移魔法陣で転移したモンスターは何処(どこ)の転移魔法陣から出て来るのか分からない。完全なランダムであるらしいので、出現地点が(かたよ)った場合、防衛戦力に不安のある中小ギルドでは侵攻を止めきれず市街に(あふ)れ出してしまう。


 ――この劣勢を(くつがえ)す為、司令官は他の階層の状況を確認する。


「37層と54層の状況はどうなっている?」


「先程受けた報告によれば、ここよりも更に酷い状況のようです。現状では、19層が最も戦力差が少ない方かと……」


「なんて事だ……これでは、SランクやAランクの増援は見込めない……」


 上の階層から優先的にSランクやAランクの冒険者が配置されているはず。

 それにも関わらずここよりも更に戦力差が酷いという現実。

 おまけにダンジョンは多国籍な場所である為、勝手に国軍は動かせない。

 国軍を動かすには国際連盟での決議が必須になる。とても間に合わない。


 正に絶望的な状況下だ。

 とてもビヴァリーさんだけで何とか出来る状況ではない。


(……ボクに、何かできるとしたら――)


 味方との連携には不安が残る。足を引っ張ってしまう可能性が高い以上、皆と一緒に防衛線を維持するのは得策とは思えない。現状のボクに出来る事と言えば、得意な単独行動で全体の負担を減らす事くらいだろうか……


(単騎で最前線を駆ける……そして可能な限り指揮官個体を優先的に討伐する)


 モンスター側にも集団で行動する時には指揮を執る個体が現れる。

 知能は低くとも指揮ができる個体は驚異的だ。

 指揮官個体が居るだけで全体の動きや戦力が底上げされてしまう。

 この不利な状況を覆す為には、指揮官個体の早期討伐が最優先目標。


 ――決意を固め、打開策を考え込むビヴァリーさんに意思を伝える。


「ビヴァリーさん、ボクから一つ提案があります」


「提案……?」


 怪訝(けげん)な表情でボクを見る彼女の瞳を逸らさず見つめ、言葉を(つむ)ぐ。



「ボクに……単独で敵軍の側面を強襲させて下さい」



 その言葉を聞いて彼女は目を見開き、驚愕(きょうがく)した様子でボクを見た。

 そして直ぐ様厳しい面持ちに切り替えて、ボクに詰め寄る。


「自分が何を言ってるか分かってんのか?」


「わ、分かっていm……ます」


「ダメだ。信用できない。勝手な行動は慎め」


 彼女の鬼のような気迫と態度に気圧されて噛んでしまった……

 トラウマから来る対人メンタルの弱さが恨めしい。

 だが、(いく)ら情けない所を見せようともここは引けない。


「ギルドや国からの応援は期待できない……戦力も圧倒的な差があります。この状況で、ここを守り切れますか……? 全滅しないと言い切れますか?」


「それは……」


「な、ナラっ!! ボク独り突撃するくr、らいっ……!」


 胸の前で両手を握り、勇気を振り絞るも案の定声が裏返る。

 おまけに気が動転してまたしても噛む始末……非常に締まらず情けない。

 そんなボクの両肩を掴んで、悲痛な表情で彼女は言う。


「アタシにはここを、ここに居る冒険者達を守る義務と責任がある。だから、誰一人犠牲にする訳には行かねぇんだよ……! 不安なのは分かる。でも分かってくれよイズル……捨て駒なんて必要無いんだ……!」


 初めて見る彼女の姿。それは普段や戦闘中では思いもしない姿だった。

 気丈に振舞いつつも内心では八方塞がりな状況に弱っていたのだろう。

 しかしだからこそ、こればかりは譲れない。その不安はボクが取り除く。


「捨て駒じゃありません。ボクは生還します。死ぬ心算(つもり)なんてありません」


 今度は(しっか)りと、力強く言い切る言葉に自然と自信が湧いて来る。

 誰かを助ける為ならトラウマ何て言っていられない。

 それに不思議と、そうしなくては成らない……そんな気がする。


 ――とその時、不意に足音が聞こえて来た。


 不思議と響く足音に、皆が気を取られ指揮所の入口に視線を送る。

 その先に居たのは……戦闘装束を(まと)う一人の女性だった。



「そういう事なら、君も彼と共に敵軍を遊撃すると良い」



 ゴシックミリタリーな衣装を身に纏い、落ち着いた声色で話す彼女の姿。

 突然現れ、驚くビヴァリーさんに向けて彼女はそう言い放つ。

 彼女にはビヴァリーさんに指示を出す権利がある。何故(なぜ)なら――


「キャロルG(ギルド)M(マスター)……! どうして貴女(あなた)がここに!? ギルド側の防衛は……?」


 ボク達の前に現れたのは他でも無い、静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)に君臨する支配者、キャロル・ヴィターGMその人だった。彼女は驚き問うビヴァリーさんへ向けて、ここに来た経緯(いきさつ)を説明する。


「ここが突破されては意味が無いだろう? 今回のような状況なら、ギルドよりダンジョン側を守る方が効果的だ。三大ギルドのGM達もそれに同意してくれてね。54層は勇者が、37層は剣聖が、そして19層は私が加勢する事になった」


「そ、そうでしたか……すみません。取り乱してしまって」


「構わない。それより、遊撃に回る話は了承して貰えるかな?」


 GMからの問い掛けにビヴァリーさんは姿勢を正し、敬礼して応える。


「勿論です! 了解しました! 遊撃隊として敵軍の側面を突いて攪乱(かくらん)し、敵戦線の崩壊を狙います!」


 ……何と言うかビヴァリーさんに失礼な話だけど、彼女の(かしこ)まった姿に意表を突かれた。やっぱり、彼女程の女傑でもヴィターGMには頭が上がらないらしい。それだけヴィターGMは一線を画した存在という事なのだろう。


 そんな大物を前にして緊張するボクに対し、ヴィターGMは確認を取る。


「イズル君も、それで構わないかな?」


「は、はい! 勿論です!」


「ありがとう。……それでは司令官殿、敵の数はどれくらいかな?」


 彼女に問われ、司令官もまた緊張した様子で敬礼し応答する。


「現在時点で推定8万……! 更に増える見込みです!」


「10万近い敵戦力か……何とも懐かしい響きだね」


「は……? 懐かしい響きとは……?」


「なに、ダンジョンは我々を歓迎しているようだと思ってね」


「歓迎、ですか……?」


 不敵に微笑(ほほえ)むヴィターGM。その(たたず)まいは凛々しくも妖艶さが漂っている。

 こんな逼迫(ひっぱく)した状況だというのに彼女からは全く焦りが感じられない。


(皆の表情がまるで違う……彼女を見て、まるで救世主が現れたみたいな反応をしてる。これが三大ギルドの一角、静寂の歌姫に君臨する支配者……)


 しかも先程まで絶望が蔓延していた指揮所内の雰囲気を、現れてから一瞬で払拭してしまった。言い表しようのない不敵さと気品さが醸し出す空気に皆、当てられているようだった――


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