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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第27話 緊急招集命令


 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、大森林地帯。



 ガサゴソという物音が大樹の反対側から聞こえて来る。ライセンスからレーダーを確認するも、この辺りにはボクとビヴァリーさんの反応しかない。Dランク帯にはレーダーを無効化するようなモンスターは出現しない為、モンスターでもないだろう。そうなるとこの物音の正体は一体……


 と考えた時、ビヴァリーさんが嬉しそうに声を上げた。


「おっ! 珍しー。見に行こうぜ?」


「え? あ、はい」


 怪しんでいるボクとは対照的に、彼女はとても嬉々としている様子。

 訳が分からず、取り合えず彼女の後ろについて大樹の裏側に回る。

 するとそこに居たのは――



「ふむっ? 人類(うぬら)さんなのだー。お元気っ?」



 ――作業着らしき帽子と制服(上着だけ)を着た妖精さんの姿だった。


 突然現れた妖精さんに驚き、一瞬固まる。

 ダンジョンでは妖精族の姿を見かけなかったので、居ると思っていなかった。

 意表を突かれたボクとは対照的に、ビヴァリーさんは親し気に近付く。


「よっ! お元気だぞー? うりゃうりゃ!」


「なにをするー。われを撫でても、何も出てこないのだっ」


「せやろか?」


「せやぞっ」


 何処(どこ)で見ても妖精さんは可愛らしい。作業着姿も新鮮でまたカワイイ。

 何て可愛さは取り合えず横において置き、妖精さんに疑問を尋ねる。


「君はどうして、ダンジョンの中に居るの?」


「われはね、“アイテムBOX(ボックス)”さんを、設置してたのだっ」


 そう言われて妖精さんの隣を見れば、そこにはRoF(ロフ)でよく見たアイテムBOXの姿があった。メカニックな素材で出来た四角い箱を(バブル)(シールド)で覆い、浮かせた箱を押して移動していた様子。先程聞こえて来た物音の正体はこれだと推測した。


 妖精さんの説明を捕捉するように、ビヴァリーさんが教えてくれる。


「妖精達はダンジョンの中にアイテムBOXを設置して、冒険者達を支援してくれてるんだよ。開封されて空になった箱は回収して、新しいBOXをランダムな場所に再設置してくれてるんだ」


「そうねっ! ランダムに設置するのは悪戯(いたずら)では無いので、分かってねっ」


「ランダムに設置しないとBOXのある場所を陣取って独占しようとする奴らが出て来るからな。そういう不正行為を阻止する為に“国際冒険者連盟”からランダムに設置するように言われてるんだ」


「そうだったんですね……言われて見れば納得です」


 RoFでもお世話になっていたアイテムBOX。それが妖精さん達のお陰で設置されていたとは驚きだ。中にあるアイテムも妖精さん達が用意してくれていたと知り、ダンジョンにあるアイテムBOXの謎が解けた。


「妖精さんが頑張ってくれてたんだね! ありがとー!」


「よいのだー。えへへー」


 ビヴァリーさんに捕まった妖精さんを優しく撫でる。

 すると嬉しそうに瞳を閉じて、自慢げに胸を張る得意げな姿。

 働く妖精さんを(ねぎら)うように撫であやす。


 (ちな)みに国際冒険者連盟というのは世界中の国が加盟し、世界中のギルドと冒険者達を(まと)める巨大連合組織だ。地球でいうところの国連のような存在だろうか。国際冒険者連盟内における発言力は、ダンジョン攻略にどれだけ貢献したかが重要視されているという。今現在最も発言力を持っているのはこの国、アヴァロンである。


 ひとしきり撫で終わり、それからボクは妖精さんに問いかけた。


「アイテムBOXは開けても良いの?」


「よいぞっ! 空になったら回収するので、好きに持っていってねっ!」


「よーし、じゃあ早速開けるかー」


 ビヴァリーさんはそう言ってBOXを開封する。

 そしてBOXの中に眠っていたアイテムは――


「…………入って無くね?」


 不思議そうに箱の中を見つめる彼女に続いて箱の中を覗き込むと、確かに何も入っていなかった。どういう事なのか妖精さんに視線を送ると、そこにはホログラムで表現した冷や汗をかく妖精さんの姿があった。


「アイテムさん、入れ忘れちゃったのだっ……えへへっ」


「可愛く言ってもダメだぞ?」


 お茶目なぬいぐるみ生物をお仕置きするように揉みしだく彼女の姿。

 好き放題揉まれて『やらかしたのだー』と反省している妖精さんが可愛い。

 そこでふと、RoFでも時々空箱が出現していた事を思い出す。

 もしかしてあれは、妖精さんのうっかりを反映していたのだろうか……?


 揉みしだいた妖精さんを、閉じた箱の上に置いてビヴァリーさんは言う。


「箱の中身はちゃんと確認するように」


「ごめんねっ。次からは、気を付けるのだっ」


「よーし、ちゃんと謝れて偉いぞー」


「えへへー」


 二人の微笑(ほほえ)ましい光景を眺めていると心が(なご)む。

 まるで仲の良い姉妹を見ているようで、何となく暖かい気持ちになれた。

 ダンジョンだと言うのに和んでいる状況を不思議に感じ――


 ――とそこまで考えた時、突然ダンジョン内にアラームと声が鳴り響く。



『緊急事態発生! 緊急事態発生! 第19層、第37層、第54層でモンスターの氾濫(はんらん)現象を確認! ダンジョンブレイクの可能性あり! 該当フロアに急行出来る冒険者は直ちにエントリーゲートへ集結せよ!! 繰り返す――』



 響き渡るその内容はとんでも無いものだった。

 呼応するようにライセンスが振動を繰り返す。

 画面には異常を知らせるテキストが出現している。


 ――『EMER(エマー)GENCY(ジェンシー)!! 第19層のエントリーゲートより北西の方角でモンスターの氾濫を確認しました。直ちにその場から離れ、第19層のエントリーゲートに急行して下さい。 EMER(エマー)GENCY(ジェンシー)!!』――


 突然急変した事態に困惑し、一瞬思考がショートする。

 冷静さを失いつつあったボクの肩を、ビヴァリーさんは掴んで制した。


「イズル! ここに居たら危険だ。今はエントリーゲートに急ぐぞ! 妖精さんも直ぐにここから離脱してくれ!」


「うむっ! 後は任せたのだっ! 無理しないでねっ!」


 そう言い残し、妖精さんは空のアイテムBOX毎その場で転移を開始する。

 転移魔法陣が出現し、妖精さんの姿は光に包まれ消え去った。


 妖精族は自由に転移魔法陣を使用出来る為、何処からでも妖精の聖域へと移動する事が出来る。無事に妖精さんが転移した事を確認して、少し心が落ち着いた。ビヴァリーさんにお礼を言いつつ、この場から移動する。


「ありがとうございます。お陰で冷静になれました。直ぐに移動しましょう」


「ああ。それと撤退中でもスキルの更新は忘れないようにな? いつモンスターが襲ってくるか分からないし、事が終わるまで警戒は解かないでくれ」


「分かりました!」


 言葉を交わしながら2人同時に走りだし、この場所を後にする。

 撤退中に気が付いたが、ボク達が居た場所は丁度ゲートから北西の位置。


(独りだと危なかった……困惑から行動が遅れ、氾濫に飲み込まれていたかもしれない。ビヴァリーさんには本当に感謝だな……)


 RoFでもモンスターの氾濫イベントはあったが、やはり現実となると物が違う。

 突然鳴り響き、不安を(あお)るようなアラーム音には当分馴染めそうにない。


(あのアラーム音……当分耳に残りそう……)


 何て考えながら、19層のエントリーゲートまで急行した――




   ▼ ▼ ▼




 ――異世界(オリジン)、ライトダンジョン第19層、エントリーゲート。



 到着したエントリーゲート内では、動揺と喧騒が充満していた。

 皆不安そうな顔を浮かべ、リーダーの指示に従って慌ただしく動いている。

 当然ながらここにいる冒険者の(ほとん)どがDランク帯、まだ駆け出しの段階だ。

 こんな異常事態を経験するのは初めての人も多いのだろう。


 全方位を土嚢(どのう)とバリケードで囲まれたエントリーゲート内部。その中心近くに設営された19層の司令部へと、足早に(おもむ)くビヴァリーさんの後をついて歩く。その道中、彼女に(いく)つか気になる事を問いかけてみた。


「モンスターの氾濫って、よくある事なんですか?」


「まさか。ダンジョンでは年に一度あるか無いかって頻度だよ。しかも三カ所同時に氾濫が起こるなんて聞いた事も無い。前代未聞だ」


「前代未聞……ここへの応援はどのくらい来るんでしょうか?」


「本来ならAランクは勿論、Sランクも数人は応援に来るけど……今回は三カ所同時だ。危険度の高い上の階層から順に応援が回されるだろうから、こっちに来るのは少ないかもな……」


 そう聞いて、良くない空気が漂うのを感じとる。

 それに気が付いたのか、悪い流れを断ち切るように彼女は言う。


「そんな心配すんなって。ここに一人、Sランクが居るだろ? Dランク帯ならアタシ独りでも何とかなる」


 少し表情が曇ったボクを安心させるように振舞う彼女。

 振り返り、自信に満ちた自然な笑顔を見せる彼女に鼓舞される。


(心配かけてるな……ボクも何か役に立たないと)


 とは言えレイドパーティー戦の経験は勿論、通常のパーティー戦の経験すらない。そんなボクがここで役に立てるのかは未知数だ。ソロならともかく、集団で動く場合は何より役割と連携が重要になる。連携が取れず周りの足を引っ張ってしまっては、幾ら強くとも役には立たないだろう。


 そんな逆境の中でも活路を見出そうとしている間に、司令部へと到着した――


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