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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第24話 ライトダンジョンへ


 ――異世界(オリジン)静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)、エントリーゲート。



 転移魔法陣の中央で、GM(ギルドマスター)と向かい合う。

 周囲では、冒険者達が転移魔法陣から転送されて行く。

 逆に転移魔法陣から出て来る冒険者達の姿も見受けられる。


 この光景に異様な所があるとすれば、それは全ての冒険者達がボク達を見て驚き、邪魔にならないように避けて行く所だ。それだけ彼女……キャロル・ヴィターGMの存在感は大きく、絶対的な存在である証拠なのだろう。


 そんな大変目立っている中、彼女は相変わらず落ち着いた声色で話し始める。


「まずは君のライセンスから転移魔法陣にアクセスしようか。メニュー画面から“ゲート”を選択して貰いたい。妖精さんは一旦、私が預かるよ」


「あっ、はい。すみません、ありがとうございます」


 申し出をありがたく受け取って、ボクはもふちゃんを手渡した。

 不思議そうに頭上から『?』マークを出しているもふちゃんが可愛い。


「なんぞー?」


 脇を抱えて持ち上げられた子犬みたいに尻尾を振る妖精さん。

 そんな可愛らしい姿のもふちゃんに、彼女は説明する。


「君のマスターはこれからダンジョンへ行くんだよ?」


「そーなのかー。ならば、われはここで待ってるのだっ」


 そう言って満足そうに彼女の腕の中で(くつろ)ぐぬいぐるみ。

 その姿と言葉にボクは驚き、素朴な疑問をもふちゃんに送った。


「もふちゃんは一緒に行かないの……?」


「今はまだ、その時ではないのだっ……」


「その時とは」


「マスターのアイテムはマスターのライセンスに送るので、頑張ってねっ!」


 もふちゃんがそう言うや否や、ボクのライセンスが振動する。

 画面をタップすれば、そこには『アイテムが譲渡されました』の文字。

 “インベントリ”と書かれたアプリをタップすれば、そこにはアイテムの一覧が。

 それを見て、彼女は補足説明をしてくれる。


「インベントリにあるアイテムをタップすれば、インベントリから君の手元に転送されるよ。逆に、インベントリ画面からカメラを起動してアイテムを撮影すれば、インベントリにアイテムを転送できる。転送されたアイテムはアーカイブエリアにあるアイテム倉庫に自動的に入庫される仕様だ」


 転送されたアイテムにも魔石と同様に番号が振られる為、他の冒険者のアイテムと混同したり、間違って転送されてくると言ったトラブルは無いとの事。(ちな)みにアイテムはアイテム倉庫、魔石は魔石倉庫に入庫されるという。


 ――取り合えずもふちゃんの事は置いておき、ゲートアプリを起動する。


 すると転移先の階層を選ぶ画面が表示された。

 現時点ではダンジョンの80階層まで転送先が開放されている。

 しかし今のボクが選べるのは20層までだ。それ以上はロックされている。


「今の君は登録したばかりだから、冒険者ランクはDランク。ダンジョン内は階層によって危険度とモンスターのランクが決められているから、冒険者ランクに応じて転送できる先が決まっているんだ」


 説明によると、1~20層がDランク帯、21~40層がCランク帯、41~60層がBランク帯、61~80層がAランク帯、そして81~100層がSランク帯に分類されている。80層まで開放されているという事は、この国のダンジョン攻略は80層で止まっているという事でもある。


(80層のボスっていうと“剣姫(けんき)”か……RoFでも初見殺しとか、強さがバグってるって有名なボスだったし、あれを現実で討伐するのは確かに難しいだろうな……)


 個人的には90層のボスより遥かに強かった印象しかない。

 RoFでも80層と90層のボスは配置を間違えている、何て言われていた。


 ――それはそうとGMから追って指示が伝えられる。


「転移先は1層に指定して貰いたい。そこで君を案内する人物が待っている」


「あ、はい。了解です」


「それでは、ダンジョンの雰囲気を肌で感じて来ると良い。君が帰って来るまでの間、妖精さんは私が預かっておくよ。ダンジョンから帰還したら忘れず、私の執務室まで来るように」


 ヴィターGMの言葉に続くように、もふちゃんは胸を張ってボクに言う。


「うむっ! われはその間、マムさんと一緒を見て、過ごすのだっ」


 もふちゃんがボクに付いて来てくれない理由は多分これだ。

 GMの執務室に案内された時、魔導式テレビがあったのを覚えている。

 もふちゃんはそれで『マムさんと一緒っ!』を見るつもりなのだろう。


 ダンジョンに入ってしまえば恐らく5時頃まで帰って来れらない。『マムさんと一緒っ!』の放送は午後4時からなので、今からダンジョンに入れば見逃してしまう。それを考えてもふちゃんはこっちに残る事にした模様。


「もふちゃんはボクよりマムさんと一緒を選ぶんだね……」


「そうねっ!」


「なぜなのか」


 清々しいくらい元気一杯に肯定するぬいぐるみ生物。寂しさはあるもののダンジョンの中は危険なので、もふちゃんを連れて行かずに済むならその方がありがたい。預かってくれるヴィターGMにはとても感謝だ。


「それじゃ、行ってくるからね? 良い子で待っててね?」


「いってらっしゃいっ! お菓子もあるので、心配無いのだっ」


 執務室にあった来客用のお菓子を食べる気満々のぬいぐるみ。

 甘いお菓子やスイーツを前にして、もふちゃんに遠慮の二文字は無いのだ。


 そんな横着者なもふちゃんを優しく撫でるヴィターGMを眺めながら、ライセンスに表示された『ENTRY(エントリー)』と書かれたアイコンをタップする。


 すると自分の周囲が光に包まれ、ダンジョンの中へと転移した――




   ▼ ▼ ▼




 ――異世界(オリジン)、ライトダンジ(『ベイル)ョン第(ロンド』)1層、市街地、エントリーゲート。



 ダンジョンの中には、地下にあるとは思えない程の異空間が広がっていた。

 ダンジョンの天井にはホログラムとしか思えないような空と雲に偽の太陽。

 おまけに市街は発展した都市の様相を見せ、大きな建物が幾つも見られる。


 中立国家アヴァロンにあるダンジョンの名称は“ライトダンジョン”という。


 世界的に見てもかなり大規模なダンジョンで、ダンジョンの第1層には何と“ベイルロンド”という名の市街地まで出来ている。ダンジョンの1層だけは何故(なぜ)かモンスターが湧いてこないらしく、人間が済める環境になっているらしい。


(本物のベイルロンドだ……やっぱり、実際に見ると活気が別次元だなー)


 RoFのベイルロンドは眠らない黄金街という設定で、大勢の様々なN(ノンプレ)P(イヤーキャ)C(ラクター)が過ごしていた。しかし幾らRoFのAIが高性能とは言え、現実の人間とはやはり違う。なので実際にこれだけの人と活気を見ると何だか感慨深い。


 現実のベイルロンドも眠らない黄金街である様子。ここには冒険者は勿論、冒険者として活動している商人達も多くいる。大手ギルドとも成れば、商人でありながら冒険者でもある、という人材が多く在籍しているのだ。


 ――鮮やかな黄金街を見回していると、見知った女性の姿を見つけた。


「よっ! ちゃんと忘れずに来たな」


 そうボクに気さくに話し掛けてきたのは金髪に一束の赤髪が混じった女性。

 見間違えるはずも無い。黒獅子ことビヴァリー・フラッグS(サブマ)M(スター)その人である。


「フ、フラッグSM……!? えっと、どうして此方(こちら)に……?」


「フランクに行こうぜ? 堅苦しいのは苦手だからさ、普通にビヴァリーって呼んでよ。そんで今日はアタシがイズルを案内するから」


 両手をポケットに仕舞って(たたず)む美人を前に心が跳ねる。

 人好きのする微笑を(たた)えた彼女の姿。思わず視線を奪われてしまう。

 動転する心を抑えつけながら、努めて冷静を装って聞き返す。


「ビヴァリーさん(みずか)ら案内を……!? これが通常何ですか……?」


「まさか。今回だけの特別だよ。アタシが連れて来たようなもんだしな」


 そう言って彼女はライセンスをポケットから取り出した。

 ライセンスには細いチェーンが付けられていて、ベルトと繋がっている。

 盗難防止の為だろうか? そんな風に見つめていると彼女が言う。


「イズルもライセンスに丈夫な紐とかチェーン付けた方がいいよ? 高速で移動したり、衝撃を受けると偶に吹っ飛んで行くし、大抵は戦闘中に勢いよく飛んで行くから探すの大変なんだ」


「ああ……なるほど。疑問が解けました」


 RoFでは所持品が飛んで行く事は無かったので失念していた。高速戦闘が持ち味の影装(シャドウ)騎士(ナイト)なら尚の事、対策しないとライセンスが大変な事になる。一応、この衣装には手帳を仕舞っているチャック付きポケットがあるので、そこに入れても良いかもしれない。


(でも頻繁に使用するし、戦闘中も使用するからもっと取り出し易い場所に仕舞った方がいいかも……)


 そうなるとやはり丈夫なチェーンを付けた方が良い。(ちな)みにライセンスは魔石を加工して作られている為、非常に頑丈で壊れ辛い。しかし軽いので飛ばされ易く、戦闘中に紛失してしまう可能性を排除しないと不味(まず)い。


(何度も紛失すると登録を抹消するって言われたし、気を付けなきゃ……)


 ――なんて考えていると、彼女はライセンスを指してボクに言う。


「まずはパーティー登録しようぜ? ライセンスのメニュー画面からパーティーって書いてあるアプリを起動すれば、お互いをパーティー登録できるからさ」


「分かりました。えっと、パーティーアプリっと……」


 彼女の指示に従って該当アプリを開くと、そこにビヴァリー・フラッグという名前が表示されていた。それから彼女はボクに説明する。


「自分から1m以内にいる相手は自動的に表示されるし、検索欄から相手の名前を入力して表示させる事も出来るから覚えといて」


 彼女はそう言って自分のライセンス画面をタップする。どうやら彼女のライセンスに表示されているボクの名前をタップした模様。その結果、ボクの画面に『ビヴァリー・フラッグからパーティー申請されました』という文字が表示された。


 勿論断る理由は無いので、即申請を承諾した――


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