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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第2話 未知への招待


 ――フルダイブ型VRゲーム、Road(ロード) of(オブ) Fantasy(ファンタジー)内部、マイホームエリア。



 お菓子やスイーツをモデルにした外装と内装に包まれた異質な空間。

 家全体、そしてインテリアに至るまで全てがお菓子の形を模している。

 なぜこんな見た目なのかと問われれば、それは完全に個人的な趣味である。


 ここはRoF(ロフ)内で使用しているボクのマイホームであり拠点。

 RoFではマイホームを自分の好きな形に作り変えられる機能がある。

 その機能を用いてコツコツと、素材を集めて作り上げた自慢の拠点だ。


 そんなユニークな空間で、マシュマロみたいなソファに座り、独り(つぶや)く。


「欲しい装備の作成に必要な素材があと二つ……」


 あの後、いつものように90層のボスを倒し切り自分の拠点に帰還した。

 目的のドロップ品を回収し、現在はインベントリに映る今日の戦果を確認中。


「ダンジョンの方で手に入る素材は集め終わったから、次はフィールドかー」


 RoFには100層まであるダンジョンの他に、広大なフィールドがある。

 レアなアイテムや素材など、ダンジョンやフィールドを探索して入手する。


 (ちな)みに他プレイヤーとトレードするという機能もあり、自由取引できる市場がある。そこでお互いが納得した物を物々交換するか、あるいは売り手が設定したゲーム内通貨で取引が行われている。


(他プレイヤーから買うって手もあるけど……残りの素材はかなり希少で高価だからなー……今だと価格はどのくらいになってるんだろ?)


 この手の“プレイヤーが自由に価格を設定できる仕様”だと需要が高く希少な品物はインフレし易い。現に、ホログラムで表示されたインフォメーションから該当アイテムの市場価格を検索すると、法外な値段が表示された。


(最安値で10億S(シード)越えかー……案の定予算オーバーだし、交換リストに載ってるアイテムは出せないし……自分でドロップさせた方が早いか)


 Seed(シード)というのはRoFのゲーム内通貨の名称だ。

 RoFでは金の種子という意味で通貨を(シード)と呼ぶ。

 日本円に換算すると、1円=1Sである模様。


 ――等とインフレ価格に頭を悩ませていると、自室に来訪者がやって来た。


「生クリームのドーナツさんっ♪ 隠れてないで、出て来てねっ♪」


 可愛らしくあどけない声音に視線を向ければ、そこにいるのは白い妖精。


 白くてふわふわな毛並みを持ち、黒くて(つぶ)らな瞳が可愛いデフォルメ容姿。

 絹糸のような黒髪を姫カットにした、小柄で丸っこい柔らかそうな小動物。

 おまけのような丸い手足が生えたその姿、正に雪だるまのぬいぐるみ。


 その可愛らしい妖精さんの正体は、RoFのマスコットキャラクター。プレイヤーのサポートキャラとして様々なナビゲートを行ってくれる存在だ。自由に名前を付ける事ができ、ボクは『もふちゃん』という愛称で呼んでいる。


「もふちゃんだー!」


「マスターなのだー!」


 妖精さん(もふちゃん)はプレイヤーの事を『マスター』という愛称で呼ぶ。

 理由は良く分からないが、マスターと呼ぶもふちゃんの姿はとても嬉しそう。


「マスターの元まで、行くのだっ……!」


 マイホーム内をクッキー型のお掃除ロボの上に乗り、移動しているその姿。

 相棒(?)であるお掃除ロボに指示を出し、ボクの元まで向かってくる。


(もふちゃんは今日も可愛いなぁ……)


 その道中、嬉しそうに小さな両手を振っている姿に心が(なご)む。

 そんな姿に思わず破顔し、もふちゃんへ両手を振り返した。


 低速で進み、ボクの足元で止まったお掃除ロボ。

 ロボからもふちゃんを抱え上げ、思いっきり抱きしめながら問いかけた。


「何してたのー?」


「われはねっ、生クリームのドーナツさんを、探してたのだっ」


 妖精さんは自分の事を『われ』と言い、相手の事を『うぬ』と呼ぶ。


 プレイヤーに対してだけはマスター呼びだが、それ以外の相手には基本うぬ呼びだ。加えて妖精さん達は同族の事を『われら』と呼び、同族以外の種族の事を『うぬら』と呼んでいる。

 

 柔らかくて肌触りの良い感触に満たされつつ、もふちゃんを撫でてあやす。


「そっかー。ドーナツさんを探してたんだねー」


「うむー。大好きなのでっ! もっと撫でても、良いのだっ」


 妖精さん達は大のお菓子とスイーツ好きである。

 そしてボクは大の妖精さん好きである。


 ボクがマイホームエリアをお菓子とスイーツで埋め尽くしているのも、(ひとえ)にもふちゃんを喜ばせる為だ。ゲーム的にはもふちゃんの好感度を稼ぐ事で色々な報酬が貰える仕組みなので、個人的な理由とゲーム的な理由からこうなった。


「わしゃわしゃーもふもふーもぐもぐっ……!」


「マスターっ! われを食べても、美味しく無いのだっ」


 推しキャラ相手につい愛情が限界突破して甘噛みしてしまった。

 そんなどうしようもないボクに対して抗議するもふちゃん。

 頬を膨らませてホログラムの漫符(まんぷ)を表示させている姿が可愛らしい。


「ごめんねっ! 美味しそうだったからつい食べちゃったよ!」


「われらを食べたらお腹壊しちゃうのだっ。気を付けてねっ!」


 もふちゃんは当然ながらゲームのキャラクターなのでAIだ。

 しかしAIとは思えない程自然なコミュニケーションが取れている。

 こういう所が、RoFが世界的に人気なMMORPGになった理由なのだろう。


「お詫びにもふちゃんの新しい衣装をプレゼントー!」


「なんぞー?」


 拠点に帰って来る途中でお店に寄り、ファッションアイテムを作成してきた。

 RoFではプレイヤー専用の衣装の他に、妖精さん専用の衣装もある。

 妖精専用の衣装は帽子と上着に加えて、幾つかのアクセサリーを装着可能だ。


 ――インベントリから衣装を選択し、もふちゃんに着せてみる。


「もこもこした帽子と上着! おまけの犬耳と尻尾ね!」


「われは子犬さんに、なったのだっ……!」


 ブラウンカラーの帽子と上着。それと同色の小柄な犬耳と丸まった尻尾。

 頭に付いた犬耳とお尻に付いた尻尾から、柴犬のような見た目に早変わり。

 元から30cmくらいの丸っこい体である為、柴犬の子供に瓜二つだ。


 新しい衣装を着せられて、得意げな様子で『わふっ!』と鳴くもふちゃん。

 想像通りの可愛らしい姿になったもふちゃんをスクリーンショット。

 新しい衣装が完成した時にはいつも、こうして撮影会が始まる。


「それじゃ、撮影ポイント探そっかー」


「よかろー」


 映えポイントを探してマイホームエリアを練り歩く。

 少しでも良さそうなポイントがあればすかさずもふちゃんを配置して撮影会。

 走り回っている様子や、ソファの上で爆睡している姿をスクショに収める。


 ――そんな癒しの一時を過ごしていると、唐突に聞きなれない『ピコン』という音が聞こえて来た。


(なんだろ……?)


 撮影会を一旦中断し、音の出所を確認する。

 するとそれはインフォメーション画面からだった。


「……えっ」


 アイコンが付いている項目を確認した時、思わず困惑の声が口から零れた。

 なぜならその項目は、ボクがRoFを始めてから一度も使用した事が無い項目。

 登録した『フレンド』とやり取りする項目だったからだ。


(な、何で!? なんでフレンド機能に新着が……!? 今まで一度も使用した事なかったのに、いきなりどうして……)


 運営からのメッセージは別に専用の項目がある。

 なので明らかにこれは他のプレイヤーからメッセージが送られて来たという事。

 勿論、コミュ障ボッチであるボクにはフレンドは愚かリア友すらいない。


(何かの罠か……? スパムのメール? それともマルチの勧誘とか……)


 そうなると当然、警戒心しか湧いてこない。

 ボッチ特有の無駄に高い警戒心が脳内で警鐘を響かせる。

 惑わされるな、これはきっと良くないお誘いだと……


「まぁ、間違いメールかもしれないし、確認だけはしよっか」


 有り得ない出来事に若干動揺したものの、努めて冷静さを取り戻す。

 そしてフレンドの項目を開くと、そこには見覚えの無い名前。


(アルファベットと数字の羅列……迷惑 bot(ボット) かな?)


 明らかにランダムに名前を決めましたと言わんばかりの名前である。


 こういうオンラインゲームにはアカウントを売買する為にbotを利用して商売している人、あるいは業者がいる。そういう人達が商品として育てるアカウントは大抵、名前がアルファベットと数字の無意味な羅列で出来ている。


 この時点でメールを削除してもよかったが、万が一を考えてメールを開く。



 ――『全行程の修了を確認。対象データの転送を開始します』――



 メッセージ欄に表示されたのはたった一文。

 それ以外何も書かれておらず、あまりにも不審過ぎるメールだった。


(何だこれ……? 悪質な悪戯(いたずら)――)


 そう考えて運営に通報しようかと思った矢先、視界に突然ノイズが走る。

 驚いて視線を移すと、そこにはフリーズしたもふちゃんの姿があった。

 ノイズが走り、眠った姿のまま表示が乱れている。


 今までにこんな現象は見た事が無い。ゲームの不具合だろうか?

 そう思い一旦ログアウトして公式情報を確認しようとした瞬間。


「――なっ!?」


 突然視界がブラックアウトし、何かから切断されるように意識が途切れた――


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