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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第16話 黒い鳥 vs 黒い獅子


 ――異世界(オリジン)、闘技場、試合会場。



「さぁ!! 皆様お待ちかね!! ファンサービスを無事終えて、あの黒い獅子が遂に動きを見せました!! ここからが本大会の本領発揮です!!!」


 興奮した様子で闘技場の司会者が拡声器を通し、声を張り上げて喧伝する。

 それに呼応するように、会場の観客達も声援の声を張り上げる。


 そんな中、威風堂々と歩く黒い獅子はボクに近付くと立ち止まった。

 彼我(ひが)の距離は(およ)そ10m。奇しくも汎用戦士の彼と対峙した時と同じ構図。

 あの時と違うのは、ボクの目前にいるのが絶対強者であると言う事か。

 肌がヒリつく……汎用戦士の彼とは比べるべくも無い程の威圧感。


 ――冷や汗を(したた)らせるボクに対し、ハスキーな声で彼女は言う。


「面白そうな戦い方してんじゃん」


 (わず)かに(あご)を上げ、挑発的な笑顔を伴い、此方(こちら)を見下ろすような彼女の態度。

 どこか気怠(けだる)げな様子と声色から察するに、暇潰しできそうな獲物を見つけた。

 そんな心の声が聞こえてきそうな気さえする。


 油断とも取れるその態度は(すき)だらけ……とは思えない。


(……ダメだな。今なら()れるかとも思ったけど、返り討ちに合うのが落ちだ)


 構えてすらいないのにも関わらず、彼女の放つ気配には隙が無い。

 頭の中で何度か彼女の首を狙って見るも、その(ことごと)くを(ふせ)がれる。

 このままでは勝機が無い。なので今は言葉を(もち)いて勝機を探そう。


「……ボクと戦っても面白くないと思いますよ?」


「それは無いな。こん中なら一番面白い。アタシと対峙して戦意が落ちないのも良いし、頭の中で(・・・・)何度か本気で殺しにきたのもアンタだけだしな?」


 ――此方(こちら)の意図が読まれている。やはり(まが)う事なき格上か。


(覚悟を決めるか……)


 正直に言ってスキル無しでは勝ち筋が見えない。今の自分には厳しい相手だ。

 今の所敗色濃厚だが、こうなっては仕方が無い。己の実力不足を受け入れよう。

 そう思い踏み込もうとした時、彼女から声を掛けられた。


「盗み聞きするつもりは無かったんだけどさ、ジョブは影装(シャドウ)騎士(ナイト)なんだって?」


「……それが何か?」


 いきなり問われ怪訝(けげん)な面持ちで彼女に答えると、彼女は笑顔を収め、(あご)を引いて真剣な表情を見せる。それからボクに向かって右手の(こぶし)を突き出した。


「アタシさ、影装騎士で強い奴を知らないし、戦った事もないんだよね。だから……アンタとは本気(ガチ)()りたいと思ってる。お互いスキル有りの全力勝負で」


 その言葉は意外な物だった。


 スキル有りで戦いたいという事は、本選で戦いたいと彼女も思ってくれているという事。それが本心なら予選での直接対決を回避できるかもしれない。


 ……後、コミュ障ボッチ陰キャ童貞の前で『ガチでヤりたい』とか言わないで欲しい。こんな状況にも関わらずドキッとしてしまった……恥ずかしい。


 何て馬鹿な事を考えていたボクに向け、彼女は再び笑顔を見せた。

 それはもう清々しいくらいに晴れやかで、獰猛な(・・・)笑顔だった――



「じゃ、そういう訳だから、死ぬ気で(・・・・)生き残ってくれよ?」



 ――そう言い放った瞬間、彼女の足元から爆発のような煙が上がる。


 その爆発は彼女が地面を踏み込んだ事によって起きた現象だと理解した刹那(せつな)、ボクの目前に彼女が一瞬で移動してきた。


「――ッ!!」


 瞬間的に殺意を察し、(ほとん)ど反射的に体を半歩右にずらして首を右に傾ける。ボクが右に頭を()らすのと、赤いグローブを着けた彼女の左拳がボクの頭の横を通り抜けたのは同時だった。


 驚くべきはその速度。彼女の左ストレートは音速の壁を突き破り、ソニックブームを巻き起こしながら突き抜ける。おまけに炎装(フレイム)拳士(ファイター)はそれほど機動性能が高いジョブではないというのに、彼女は音速に匹敵する速度で移動した。


(スキルも使わずにこの速度……! でも、速さなら影装騎士の方が上……!)


 恐るべきスピードだが、ボクに反応出来ないスピードではない。

 瞬時に斬り抜けようと(つか)を握り、彼女の横をすり抜ける――


 ――しかしその一瞬で、彼女は右手でボクの愛剣の柄頭(つかがしら)を軽く叩いた。


 その所為(せい)で白銀の長剣を(さや)から引き抜けず、ただ単に彼女の横を素通りしてしまう結果に終わった。彼女の反応速度は有り得ないくらいに速い。此方が得意とする間合いを維持し続けないと、一瞬で持って行かれてしまう。


(ていうか、結局は予選で戦う事になるのか……)


 悠々と振り向く彼女の表情から見える、獰猛(どうもう)で挑発的な笑顔。

 その意図を察するに、この程度で落ちるようなら本選で戦うまでもない。

 黒い獅子は言外(げんがい)にそう言っているのだろう。


(死ぬ気で生き残れ、か……こうなったらやるしか無い!)


 彼女の様子を見るに、本気でボクを落としに来ている訳では無いのだろう。

 本気なら、彼女が自分の間合いからボクを逃がすはずが無い。


 速度では此方に分がある。彼女の間合いにさえ入らなければ、ボクが()られる事はない。しかしその場合は此方も彼女を討ち取る事はできないだろう。


 要は残り10人に成るまで生き残ればいいのだ。

 彼女から距離を取りつつ、他の参加者を減らして行けばいい。

 ボクが落ちるのが先か、参加者が10人以下になるのが先か……その勝負だ。


 ――そうと決まれば戦場を瞬時に駆け抜ける。


 漁夫の利を狙うように対戦中の参加者達を死角から狙い、斬り抜ける。


「へっ……!?」


「な、何が起きたんだ……!?」


「バリアが割られた……!? いつの間に!?」


 乱戦中なら相手の死角を突くのはとても容易(たやす)い。

 別の相手に気を取られているその背中は隙だらけで無防備だ。


(他の参加者達に手練れはあまりいないみたい……汎用戦士(バランサー)のおじさんみたいな人がゴロゴロいるのかと思ってたけど、案外そうでもないのかも?)


 彼のような、背中にも目が付いているような人は今の所見当たらない。

 これなら生き残れる……そう考えた時。


 ――会場に砲撃のような轟音(ごうおん)木霊(こだま)した。


「ふぁっ!?」


 思わず情けない声を上げてしまう程、それは異様な光景だった。

 何故(なぜ)ならボク目掛けて、人間が(・・・)砲弾の(・・・)ように(・・・)飛び込んできたのだから。


「くっ――!!」


 地面に仰向けに寝そべるように、咄嗟(とっさ)にスライディングしてギリギリ(かわ)す。

 何が起きているのかと、勢いをそのままに立ち上がり、再び駆け出す。

 人が飛んできた方向に視線を向けると、そこに居たのは咆哮(ほうこう)する黒い獅子。


「アタシから逃げ切れると思ってんのかァ!!? 逃がさねェよ!!!」


 付近にいる参加者達に肉迫し、アッパーで相手を浮かせると、浮かせた相手に拳を叩き込み音速の人間砲弾(・・・・)としてボクを狙って撃ち出していた。


「そんなのアリ……!? む、無茶苦茶すぎる……」


 人間砲弾を撃ち出す彼女は、参加者達を飛ばしながら着実にボクの元へと接近している。ボクの移動先を狙って参加者達を正確に飛ばし、ボクの退路を断って動ける範囲を狭めているのだ。


(詰められるのは時間の問題か……!!)


 その手際はあまりにも(よど)みが無い。

 手慣れた様子で獲物を追い込む百獣の王。

 狩る者と狩られる者の構図が完成している。

 彼女の前では皆、等しく狩られる側の存在なのだ。


 その阿鼻(あびきょ)叫喚(うかん)に包まれる参加者達を見て、司会者が興奮気味に実況していた。


「皆様ご覧下さい!! これぞ正しく百獣の王!! 黒獅子のビヴァリー・フラッグ!! 絶対王者から逃げ惑う参加者達に希望はあるのか!? 誰でも良い!! 彼女を止められる救世主はいないのか!?」


 現実は厳しいもの……そう都合良く救世主は現れない。

 彼女の攻撃でも参加者は減っているが、未だ数十人の生き残りがいる。

 ボクと彼女が接触するまでに、この予選が終了する事は無いだろう。


(とにかく今は、時間を稼ぐ……!!)


 此方から攻めるのは悪手(あくしゅ)。ならば絶妙な間合いを維持して時間を稼ぐ。

 此方を捕らえた黒い獅子は、再びボクに肉迫しようと間合いに踏み込む。


「シッ―—!!」


 鋭く短く息を吐き出し、彼女はボクに(こぶし)を振るう。

 それは信じられない程の拳の乱打。行く手を阻む怒涛のラッシュ。


 ――しかしその軌道は目で追える。


 彼女を中心に辺りを周回するように、ひたすら動きながら拳を躱す。

 少しでも距離を稼ぎ身を引きながら、拳の軌道を見切り回避する。


(右ストレート、左ストレート、左ジャブ10回からの右ストレート……)


 動きを読んで躱しながらも、相手のストレートには剣を当てて軌道を逸らす。ジャブは可能な限り躱しつつ、無理な場合は体術を駆使して自分の左手や足を使い、相手の関節を狙ってジャブを中断させて距離を取る。


 攻めなければ(しの)ぐことはできる。

 しかし依然として劣勢である事に変わりなし。

 じりじりと押され、彼女の攻めを打開する手段は見出せない。


「はぁ……はぁ……! ふっ……! はっ……!」


「どうした? 息が上がってんぞ? 手加減してやろうかァ!?」


 手加減して頂けるなら是非お願いします……

 獰猛な笑顔を見せる彼女は未だ汗一つ()いていない。

 対するボクは既に息が上がり始めている。


(耐久力の差か……これは、もう……)


 そう諦めかけていた時——突然彼女がボクから距離を離した。

 続けて聞こえたのは複数の銃声。それはボクと彼女の間を通り抜ける。

 何事かと視線を向ければ、そこに居たのは残り全ての参加者達。


「なめられたままで終われるかぁぁぁああああ!!!」


「覚悟しろ黒獅子ぃぃぃいいいい!!!」


「お前に勝つのはこの俺だぁぁぁあああああ!!!」


 気が付けば、いつの間にか残りの参加者達が団結し、黒い獅子に向かって合戦のように突撃して行く光景が広がっていた――


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