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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第12話 思い立ったが吉日


 ――異世界(オリジン)、首都ラフレシア、裏通り。



 もふちゃんを抱えて外に出ると、上空には飛び交う飛行船。

 大小様々で多種多様な形の飛行船は全て、魔導式で動いている。

 魔導式の物は例外無く、魔石から抽出されるエネルギーが原動力だ。


 オリジンでは大型~中型の飛行船や、小型の飛空艇で物資や人員を輸送するのが一般的で、馬車や魔導式の自動車を使うよりもコストが安く安全だという。その為、この世界では飛行船がとても身近な存在なのだ。


 (ちな)みに首都内に幾つも(そび)え立つ鉄塔は、その全てが飛行船の発着場。鉄塔の至るところから橋が伸びており、そこに飛行船が横付けするように停泊している。ここからでも停泊中の飛行船に向けて、貨物運搬用の小型の飛空艇が行き来している光景が見えた。


 オリジンにおける鉄塔は地球でいう所の空港のような存在なのだ。

 そんなこの星の主要な移動手段を見てもふちゃんは言う。


「今日もいっぱい、お空を飛んでるのだっ」


「そうねー」


 飛行船に興味を惹かれているもふちゃんをあやしつつ、徒歩5分の目的地へ。

 いつものようにコインランドリーに入ると、利用者はボクしか居なかった。

 基本的にこの時間はいつも空いている。なのでボクには一番良い時間帯だ。


 適当な場所に座って、倉庫画面から衣類を取り出し魔導式洗濯機へ放り込む。

 続けて倉庫から洗剤を取り出して入れ、500S(シード)硬貨を投入して稼働させた。

 静かな店内で無機質に動く洗濯機を、座りながら何となく眺める。


(残るギルドは……情報が全く表に出ていないギルドに、評判の悪いギルドか。明らかに反社ですね? って所は論外として、どうするか……)


 情報が全く手に入らないという事は、かなり閉鎖的なギルドという事になる。評判の悪いギルドは風評被害の可能性もあるが、(ほとん)どがギルド内の対人トラブルが絶えない事が原因だろう。


(コミュ障に対人トラブル何て対処しようがないな……)


 (むし)ろ更に悪化させる未来しか見えない。

 行き詰まりを感じてもふちゃんに相談してみる。


「ギルド選び、もふちゃんはどうしたらいいと思う?」


「まずは名声を、稼ぐのだっ……!」


 何となくで相談してみたが、もふちゃんから意外な答えが返って来た。


(名声……? 今の状態で名声を稼げるとしたら……もしかして、闘技場?)


 ふとRoF(ロフ)には全ての首都に闘技場が存在していた事を思い出す。RoFの闘技場は単なる対人コンテンツでしかなかったが、オリジンではどうなのか……そんな疑問を抱き、もふちゃんに確認してみた。


「闘技場って誰でも参加できるの?」


「うむっ。毎週大会が開かれてるので、参加できるのだっ」 


「闘技場で開催されている大会に出て勝つと、名声が得られるの?」


「うむっ。大手ギルドからスカウトさんが、やって来るのだっ」


「大手からスカウトが……!?」


 それは正に、今のボクにとって福音(ふくいん)だった。

 戦闘技能に自信はあるが、それをギルドに周知できる機会が無い。

 しかし大会に出て結果を残せばこの上無いアピールになる。


 最悪、フィールドで魔石を荒稼ぎしていれば何処(どこ)かのギルドに目を付けて貰えるのではと考えていたが、それよりは闘技場で大会を勝ち抜いた方が遥かに良い。……ただ、闘技場のシステムがRoFと同じかどうかが気にかかる。


「RoFの時と闘技場のシステムって同じなのかな?」


「そうねっ。同じなのだっ」


「じゃあ、特殊なバリアのお陰で怪我しないんだね?」


「うむー。われらの技術で出来てるので、安心なのだっ」


 RoFの闘技場は妖精さん達が扱う特殊なバリア、(バブル)(シールド)を改造した物を利用している為、安全に戦えるという設定だった。全ての攻撃によるダメージをその特殊なバリアが肩代わりしてくれる為、相手や自分が怪我をするリスクが無いのだ。


(闘技場か……ギルドの事ばかりに目が行ってて盲点だったな)


 その特殊なバリアは自身の今現在のH(ヒット)P(ポイント)を参照して耐久力が変動していた。そして先にバリアが破壊されるか、戦闘エリアの場外に追い出された方が負けるというルールだった。


(システムとルールが同じなら、100%に近い実力を発揮できる……!)


 全力で戦っても自分や相手が怪我をしないのならこの上ない好条件だ。

 今の状況で怪我をする訳には行かないし、人の命を危険に晒したくはない。

 なので闘技場で名声を稼ぐというのは素晴らしいアイディアだった。


流石(さすが)もふちゃん! 闘技場に出られれば一発逆転できるかも!?」


「マスターなら、できるのだっ! われは信じてるのでっ」


 そうと決まれば善は急げだ。

 明日の早朝、直ぐに闘技場に向かい大会の日程を確認しよう。

 取り合えず参加できそうな大会が直近にあれば何でも構わない。

 無事に今後の方針が決まった所で、帰りに飲食店によって夕飯をとろう。


「それじゃ、帰りにいつものお店で夕飯にしよっか! 今日は特別に、もふちゃんの大好きなイチゴのホールケーキを頼んじゃうよ!」


「よいのっ!?」


「よいぞっ!」


「マスターありがとねっ! われは、成し遂げたのだっ……!」


 生クリームのドーナツと同じ位大好きなイチゴのホールケーキが食べられると分かり、もふちゃんは(つぶ)らな黒い瞳をキラキラと期待に輝かせる。楽しそうに丸い体を左右に揺らす姿を見れば、ボクも同じくらい幸せな気分になれる。


「イチゴのホールケーキさんっ! われが行くまで、待っててねっ!」


「イチゴのホールケーキさんは逃げないよー?」


「そんな事ないのだっ」


「逃げちゃうの?」


「うむっ! お体を回転させて、飛んでっちゃうのだっ」


「どういう事なの……」


 もふちゃんの目から見たイチゴのホールケーキは体を回転させて飛んで行ってしまう生き物らしい。とてもメルヘンでユニークな生態をしている模様。


 余談だが、妖精さんには口が無い。なので食べ物を体内に取り込む際、食べ物に体を密着させて吸収するように食物を食べる。吸収した食べ物は体内で直ぐに分解されるらしく、分解された食べ物はキラキラと光る謎粒子となって体から大気に放出され、そのまま大気中に還元される。


 キラキラ光る謎粒子の匂いは無臭であり、その仕組みは本人達にも良く分かっていない様子。生態が謎に包まれた、何とも不思議なぬいぐるみ生物達である。


 ――洗濯と脱水が終わり、洗濯機から魔導式乾燥機に移し替えつつ思う。


(今現在の残高は約115万S(シード)……まだ余裕はあるけど、冒険者に成った後の事も考えれば、三カ月以内には大会で結果を残したいな……)


 ホテルに宿泊する際、一ヶ月連続で宿泊する場合に限り宿泊代が50%オフになるというお得な宿泊プランがあった為、三カ月で45万かかるところを22万5000S(シード)に抑えられた。まだ余裕はあるものの、油断はできない。


(大会に出てスカウトされる可能性を最大まで引き上げるとすれば、やっぱり優勝一択。一月に参加できる大会は最大4回。三カ月で12回か……)


 一応、RoFでも対人戦はかなり得意だった。

 ランキングでは一桁台を維持していた経験もある。


(でもオリジンでは高ランクの冒険者は皆プロクラスの実力があると見て間違い無いし、プロ相手にどこまで通用するかは未知数……)


 オンライン上での対戦ならプロと対戦した経験は何度もある。

 しかしオフラインの大会に出た経験は無いので確証は無いに等しい。

 オンラインとオフラインではプロの強さは天と地ほどに変わる。

 特に賞金やタイトルが掛かった試合ではプロの強さは桁違いだ。


(チャンスは12回……)


 それに何より、実際の試合では観客がいる。コミュ障ボッチな人生を謳歌してきたボクにはそのプレッシャーは計り知れない。大勢の観客に囲まれているというだけでガチガチに緊張するのは想像に容易(たやす)い。


(まずは慣れて行かないと。優勝何て夢のまた夢だ)


 まだ生活には余裕がある。初参加の大会で結果を出す必要は無い。

 まずはプレッシャーの中でも戦えるように、空気感に慣れるのが最優先だ。


 ――乾燥が終わった衣類を倉庫画面に戻し、もふちゃんを抱える。


「それじゃ、食べに行こうか」


「うむー! とってもとっても、楽しみなのだっ」


 いつでも明るいもふちゃんに癒されつつ、いつものお店に向かうのだった――


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