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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第10話 惑星オリジン


 ――異世界、首都ラフレシア、大通り。



 人で(あふ)れる賑やかな大通りを、流れに沿って進めば銀行が見えて来る。

 交差点の角にあるアンティークな外観を持つ西洋風の大きな建物。

 そこが目的の銀行だ。看板には『オリジンバンク』と書いてある。


 ふとその名称が気になってもふちゃんに尋ねてみた。


「オリジンってどういう意味なんだろうね?」


「この惑星の、名前なのだっ」


「えっ!? そうなの!?」


「うむー。われらが発見した時(・・・・・)に、そう名付けたのでそうなのだっ」


「ふぁ!?」


 不意に明かされた驚愕(きょうがく)の真実……この惑星はオリジンという名前で、しかもその名付け親が妖精さんだったという事実。おまけに妖精族は宇宙からやって来た知的生命体である事がサラッと明かされてしまった……


(もふちゃんが宇宙人!? こんな雑踏の中で聞いて良い話なのか……?)


 周囲を見回しても此方(こちら)に注目している人達はいない。

 聞こえていなかったのか、それともオリジンでは周知の事実なのか。

 とにかくそんな事実はRoF(ロフ)の中でも明かされていなかった。

 取り合えず声を潜めてもふちゃんに確認する。


「……それって周知の事実なの?」


「うむー。オリジンの人間(うぬら)さんは、知ってるのだっ」


 ボクに合わせて声を潜め、コソコソしているもふちゃん可愛い。

 もふちゃんが宇宙人であろうとも、この可愛さと純粋さは何も変わらない。

 動揺したものの、いつも通りなもふちゃんの姿を見て心を静めた。


(確かに、RoFの設定上では妖精族は宇宙に進出しているって話だったけど……違う星から来ていた何て思わなかったなぁ……)


 妖精族を人類が最初に発見した場所はダンジョンの中という設定を見た事があったので、妖精族は地底に住む謎の生物だと思っていた。しかしそれは間違った認識で、実際のところは宇宙から来て何らかの事情で地下に潜った種族であった模様。


(そうなると、妖精族の長的な存在である“マザー”と“ファザー”も宇宙からきた知的生命体って事になるのか)


 妖精族にはマザーという存在に加え、ファザーという管理者的な存在もいる。


 RoFの設定ではマザーは自然環境と妖精族を含めた全ての生物の生態系を管理していて、ファザーはダンジョンとモンスターに加え“スキルシステム”を管理している存在らしい。そしてファザーはマザーとしか交流が無いらしく、妖精族では干渉出来ない存在という話だった。


 (ちな)みにスキルシステムというのは、人類が使用するジョブとそれに関する多様なスキルの事だ。この特殊な力はファザーによって人類に(もたら)された技術なのである。


 ――あまりの衝撃に考え込んでいると、もふちゃんから呼び止められた。


「マスター! 目的地に着いたのだっ。通り過ぎないでねっ」


「わっ! ごめんねっ! もふちゃんありがと!」


 思考の海に沈みかけていた所で我に返る。

 慌てて人並から外れ、辿(たど)り着いたのは銀行前。

 ローマみたいなデザインの支柱の合間を通り入店する。


「ご来店頂きありがとうございます! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 人で混み合う玄関ホールを通り抜け、窓口に着くと受付のお姉さんから挨拶された。第一印象の良い、ふわっとした感じの綺麗な人だ。


 そんな綺麗なお姉さんを前にして、コミュ障であるボクは当然戸惑う。


「あっ……えっとその、魔石の換金がしたくて……」


「魔石の換金ですねー。ライセンスはお持ちでしょうか?」


「えっ!? ラ、ライセンス……!!?」


 聞いた事の無い単語に動揺し、圧倒的不審者感を遺憾無く披露する。

 黒い外套(がいとう)を着て帯剣し、顔を隠すようにフードを被る姿は正に不審。

 困惑した様子で意味も無く周囲をキョロキョロと見回してしまう。


 そんなテンパるボクを腕の中で何となく見上げるもふちゃん。

 ボクのピンチを何となく察したのか、表情をキリッと引き締める。

 それからカウンターの上に飛び乗って、ボクの代わりに対応してくれた。


「マスターはライセンス持って無いので、われがライセンスの代わりなのだっ」


「あら~! そうなのね! マスターさんのお手伝い?」


「うむー。われが、マスターをサポートしてるのでっ!」


「偉いわねー! 良い子っ!」


 そう言って受付嬢さんはもふちゃんを優しく撫でる。

 気持ち良さそうに撫でられる子犬のようなぬいぐるみさん。

 そんな二人の(なご)やかな姿を見ていると動揺が収まり、心が落ち着いた。


「すいません……初めてなもので、動揺してしまって……」


「いえいえ、お気になさらず。最初は誰でも緊張しますから! 人がいっぱい居ますし、無駄に広くてやたら仰々しい内装してますからね。そのお気持ち良く分かりますよ!」


「あはは……」


 流石(さすが)は接客のプロ。場の空気を取り持つのがとても上手い。

 ボクみたいなコミュ障ボッチ陰キャからすると神様のような存在だ。

 勿論、神様みたいな存在の中にはもふちゃんも含まれている。

 いつも天真爛漫なもふちゃんは、ボクにとって陽キャ界の神様なのだ。


 続けて受付嬢さんはもふちゃんに確認する。


「換金する魔石はどれくらい?」


「とってもいっぱい、あるのだっ!」


 そう言ってもふちゃんはカウンターの脇にあった端末に体をくっ付ける。

 すると端末が起動し、もふちゃんから何らかの情報を読み取っている様子。

 受付嬢さんがそれを操作しつつ確認し、驚きの声を上げた。


「……こんなに!? すごい数ねー!」


「マスターはとっても、強いのだっ!」


 確かゴブリンの魔石が合計837個あったはず。ゴブリンは低級のモンスターなので、一度にそれくらい稼ぐ人は珍しくないのではと思っていたのだが、彼女の反応を見るにそうでもないらしい。


 気を取り直して、受付嬢さんはボクに向き直る。


「それでは、少しの間妖精さんをお預かり致しますね? 妖精さんから魔石を受け取らなければいけませんので、少々お時間が掛かってしまいますがご了承下さい」


「分かりました」


「では、此方(こちら)が整理券になります。換金が完了次第店内アナウンスにて番号をお呼び致しますので、ご確認くださいね!」


 そう言って手渡されたのは番号の書かれた札だった。

 お礼の言葉を告げて窓口を離れ、玄関ホールの端にあった椅子に座る。

 離れる際『ちゃんと待っててねっ!』というもふちゃんが可愛かった。


 ――改めて、落ち着いた心で銀行内を見渡してみる。


 広告と(おぼ)しきポスター群に、魔法と錬金術で作られた道具や機材。

 それらが各所に配置されたアンティークで芸術的なお店の内装。

 映画でしか見た事の無いような異色の空間が広がっていた。


(あのポスターに書いてあるのは、オリジンバンクの広告か……)


 その広告の内容は、オリジンに存在する全ての国に支店を持っていると宣伝し、信頼と実績を強調する物だった。やはりオリジンバンクの名の通り、世界中を股にかけるメガバンクである模様。


(日本語に翻訳すると地球銀行……なんか不思議な感じ)


 広告には他にもキャッチコピー的な文言があり、計画的な資産運用で世界中から貧困をなくすというスローガンが掲げられていた。


(いかにも国際的なメガバンクって感じのスローガンだなー)


 そんな風に何気なくポスターに目を通していると、銀行のロゴマークとは異なる、アイリスの花をモチーフとした紋章を発見した。


(あの紋章は……ギルドエンブレム?)


 付近にあったポスター群の情報から、その紋章は“静寂の(サイレンス)歌姫(ディーヴァ)”という名称の超大型ギルドの物であるらしい。どうやらオリジンバンクはサイレンスディーヴァの傘下にある企業のようだ。


(この世界のギルドは大手企業を傘下に置けるくらいの社会的地位や財産を持ってるって事か……RoFとは違ってめちゃくちゃ権力を持ってそう……)


 調べて見ない事には分からないが、RoFでは冒険者という職業はスポーツ選手のような社会的地位と説明されていた。


 モンスターという強大な障害を取り除き、魔石という人類に無くてはならない資源を回収する冒険者。それは最早、社会的インフラを支える代えの効かない重要な職業なのだ。故に冒険者はそれなりの地位を保証されていた。


(こうなるとギルドへの入会は就職活動と同じかも……先に情報収集に時間を割いた方がよさそう。今の状態じゃ世間知らずもいい所だし、ブラックなギルドからしたら都合の良い餌と同じだ)


 メガバンクを傘下に置けるくらいの社会的地位を持つ組織となればそれはもう一流企業と変わらない。全てのギルドがそれだけの地位や資産を持っている訳ではないだろうが、それでもこの世界のギルドは会社である事に変わりは無いのだ。


 ――何て考えていると店内アナウンスの声が聞こえて来た。


『109番のお客様。8番窓口までお越しください。繰り返します――』


 自分の番号は109番。無事に魔石の換金が終了した様子。


(それじゃ、もふちゃんを迎えに行きますか)


 これからの事を考えつつ、愛しのパートナーを迎える為に席を立った――


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