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ロードオブファンタジー ~男の娘ともふもふの冒険譚~  作者: もふの字
第1章 世界に羽ばたく黒い鳥 編
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第1話 Road of Fantasy


 ――フルダイブ型VRゲーム、Road(ロード) of(オブ) Fantasy(ファンタジー)内部、90層ボスエリア。



 眼鼻の先を鋭い剣閃が突き抜ける。

 廃墟と化した近代的な市街地で、強敵を相手に(しの)ぎを削る。

 目前に立ち塞がるのは、5mを軽く超える機械の巨人。


「1、2、3……左回避。次に右回避……1、2、3……」


 アンティークな機械仕掛けの巨人を相手に、リズムを合わせて回避と反撃。

 右手に持った白銀のロングソードを神速の一太刀に変え、死線を(くぐ)る。

 狙いは巨人の足首。二足歩行であるが故に、機械の巨人は足が弱点。


 ――機械の巨人は両手に持った鉄の大剣をボクに対し振り下ろす。


 真面(まとも)に当たれば即死級の大技を、体をスライドさせるようにひらりと(かわ)す。

 敵が繰り出す攻撃を紙一重で回避すれば、敵は(すき)だらけの体を見せる。

 その隙は逃さない。致命的な一太刀を持って、確実にその両足を斬り壊す。



「――【十字閃(じゅうじせん)】——」



 音声認証で発動する攻撃スキルを使用して、必殺の一閃を解き放つ。


 白銀の剣身を持つロングソードが、赤黒い光を放ち逆十字に(きら)めき輝く。

 禍々(まがまが)しく不気味に輝く光を放ち、踏み込みながら横薙(よこな)ぎに光を飛ばす。

 光は巨人の足元を薙ぎ払うように斬り抜けて、容易(たやす)くその両足を切断した。


 ――悲鳴の代わりに機械の巨人は(きし)轟音(ごうおん)を響かせて、両膝を地面に着けた。


(残り時間は……20分。いつもよりタイムが早いし、良い調子!)


 視界の端に表示されたタイムリミットを確認しつつ、巨人から距離を取る。


 機械の巨人には第三まで形態があり、今まで戦っていたのは第一形態。

 両膝を着いた状態が第二形態で、これをクリアすれば第三形態だ。

 しかし第三形態での戦闘は(ほとん)どイベント戦のようなもの。

 なので実質的には第二形態が最終戦と言って良い。


「ゴォォォオオオ!!! ギィィィイイイイ!!!」


 モノアイカメラを赤く光らせ、咆哮(ほうこう)のような異音を(とどろ)かせる機械巨人。

 怒りを露わにした動きで放電し始めた巨人を、安全圏から(たたず)んで眺める。


 視界の下端に映る補助スキルのクールタイムを確認すれば、補助スキルの効果が切れる時間帯。巨人が第二形態に移るまでまだ時間がある。今の内に次の戦闘に備えて、補助スキルを再使用し準備を整えよう。


「【韋駄天(いだてん)】【刹那(せつな)の見切り】【(くれない)の誓い】【一撃必殺】」


 【韋駄天】により自分の背中、その右側から黒い片翼が生成される。

 【刹那の見切り】により自分の両目が金色に透き通り、淡く輝く。

 【紅の誓い】により自分の背中、その左側から紅蓮の片翼が羽ばたき広がる。

 【一撃必殺】により白銀の長剣(ロングソード)、その剣身に赤いルーン文字が刻まれた。


 背中に黒と炎の翼が生えた自分の姿を見て思う。


(何度見てもやっぱり【韋駄天】と【紅の誓い】の同時併用は映えるなー)


 Road of Fantasy ……略してRoF(ロフ)には複数の戦闘職(ジョブ)やスキルがある。


 ボクが使用しているのはその内の一つ、影装騎士(シャドウナイト)というジョブだ。

 ジョブには戦闘タイプが三つあり、タンク、アタッカー、サポーターの三種類。

 基本的にはその三種類を揃えるように、パーティーを組んで攻略する。


 加えてRoFを攻略する上で欠かせないのが、三種類のスキルの存在。

 全てのジョブには攻撃スキル、防御スキル、補助スキルの三種が備わっている。

 それらを上手く組み合わせて各種クエストや強敵を攻略するのが基本的だ。


 そして影装騎士(シャドウナイト)は、防御を捨て回避と攻撃に特化したアタッカーである。

 なので基本的に自己を強化するスキルは回避力と攻撃力を上昇させる物ばかり。

 何とも(かたよ)ったコンセプトのジョブだが、その特殊性が中々どうして面白い。


(大体どんな攻撃でも一撃貰えば即死か瀕死になるレベルの紙耐久……蘇生アイテムで保険が効くと言っても、ほんとここまで来るのに苦労したなぁ……)


 RoFをプレイし始めた当初、見た目の格好良さに惹かれて影装騎士(シャドウナイト)を選んだ。

 しかしその安直な選択が、途方も無い苦行の始まりだとは思いもよらず……


 ――と回想しそうになった時、機械の巨人が第二形態移行を完了させた。


(さて、過去に(ひた)るのは後回し! 自己ベスト更新行くぞー!)


 内心で自分を鼓舞し、ロングソードを正眼に構え、カウンターの姿勢を取る。

 目前に映るのは、変形し重装甲に身を包み、肩に砲塔を背負った機械の巨人。

 第二形態は高火力な遠距離攻撃に加え、防御力が跳ね上がった形態だ。



「――【神影陣しんえいじん】――」



 ボクの足元から約2m程の黒い魔法陣が広がり、不気味な影を揺らめかせる。

 それは影装騎士専用の防御スキルを発動させた証。


 【神影陣】はカウンター系の防御スキル。発動後、魔法陣の中にいる間3秒間無敵になり、無敵状態で敵の攻撃を回避すると10秒間、攻撃スキル使用後のクールタイムが無くなるスキルだ。


 RoFの攻撃スキルと防御スキルには使用後にクールタイムがあり、そのクールタイムが解けるまで他の攻撃スキルや防御スキルが全て使用不可になる仕様がある。


 クールタイムの時間は一律10秒間。なので本来ならその間は補助スキルと自身のプレイヤースキルのみで立ち回らねば成らなくなる。


 しかしRoFのスキルの中にはそのクールタイムを減少、あるいは特定の条件を満たす事で無くせる物がある。そんなスキルを起点として、各種スキルを連携させていくのがこのゲームの醍醐味(だいごみ)だ。


 ――機械の巨人は砲口の照準をボクに合わせ、砲弾を射出した。


「フッ……!!」


 短く鋭く息を吐き出し、タイミング良く前方に跳躍。

 地面スレスレを滑空するように、敵の(ふところ)に潜り込む。

 その刹那、後方で凄まじい爆発が巻き起こる。

 それは巨人が放った砲弾が着弾し、広範囲に爆風が広がった為。


 ――敵の懐に潜り込んで直ぐ、ボクは攻撃スキルを発動した。


「――【十字閃】——」


 逆十字に煌めく赤黒い死の光。光が強く輝く程、周囲の影が暗く深まる。

 【十字閃】のスキル効果により一振りで、二重の斬撃が飛び十字を描く。

 それは容赦無く敵に襲いかかり、その胸元に巨大な十字傷を刻み込む。


 無敵中に敵の攻撃を回避した事で【神影陣】の効果が適応される。

 おまけに補助スキルの【紅の誓い】と【一撃必殺】の効果も加わる。

 【紅の誓い】は攻撃力の上昇。【一撃必殺】は一度だけ攻撃力を4倍に出来る。


 影装騎士(シャドウナイト)の単発高火力。必殺の一太刀を受けて巨人の装甲にヒビが入った。


「ガァァァアアア……!!!」


 重い一撃に巨人が唸り、全身の鉄を軋ませる。

 衝撃に一瞬(ひる)む巨人に対し、隙を与えずスキルの連携を叩き込む。

 残り約9秒間、ボクはスキルの効果でクールタイムを無視して攻撃できる。



「――【幻双閃(げんそうせん)】——」



 闇に(まぎ)れ、幻影の自分を突撃させて(おとり)とし、敵の死角に回り込む。


 囮に気を取られた巨人は完全にボクの姿を見失った。その隙だらけの背中に回り込み、仕掛けるタイミングを見計らう。そして相手の目前で幻影が消えたその瞬間、姿を現し死角から赤い光と共に斬り抜けた。


 背中から斬られた機械の巨人は鉄を軋ませ、片手に持った大剣を地面に突き立て、倒れそうになる己の体を支えて耐え忍ぶ。



「――【孤狼閃(ころうせん)】――」



 追撃の手は緩めない。相手がボクを見失ったその隙に、演武を舞うように空間を斬り進む。スキルの効果により再び闇に紛れたその瞬間、時間差で相手の周辺からランダムに斬撃が強襲する。


 突然四方八方から現れた斬撃に、巨人は激昂し無作為に周辺を攻撃し出す。

 当然、そんな出鱈目(でたらめ)な攻撃に当たるようなヘマはしない。



「――【天翔閃(てんしょうせん)】――」



 相手が混乱している間に近くの壁を駆けあがり、天井目掛けて跳躍する。


 剣身から伸びるのは黒い光。それはスキルの効果で出現した影の刃。

 影の刃を伴い、天井を蹴って巨人の頭上から落ちるように袈裟(けさ)斬り一閃。

 その勢いのまま瞬時に地上へと舞い降りて、白銀の長剣を地面に突き立てた。


 頭上からの奇襲に巨人はよろけ、再び大剣を地面に突き立て己を支える。

 続け様の連携に、巨体故に緩慢な動きの巨人では対応できず翻弄されている。


 残り1秒。次の一太刀が最後の連携。

 長剣を地面に突き立てたまま、ボクは最上位の攻撃スキルを発動させた。



「――【秘儀・絶景閃(ぜっけいせん)】――」



 それは40秒以内に攻撃スキルを3回発動後に使用できる特殊な攻撃スキル。


 突き立てた長剣から広がる、カラスを模した赤黒い紋章陣。

 それと連動するように、敵の頭上、その上空に赤黒い魔法陣が現れる。

 それは魔法陣の内側にいる敵を鎖で拘束し、魔法陣から黒い(ランス)顕現(けんげん)させた。


 身動きを封じられ、頭上を見上げた巨人が見たのは巨大なランス。

 重厚で仰々(ぎょうぎょう)しく、(おごそ)かな装飾で脚色された漆黒のランスが降臨する。


(うーん、壮観……絶景かな)


 立ち上がり突き立てた長剣の柄頭(つかがしら)に片手を置いて、壮観な光景を仰ぎ見る。

 顕現したランスは徐々に速度を上げて標的の頭上に降り注ぐ。


 ――漆黒の(ランス)が標的諸共大地を貫き、嵐のように塵埃(ちりぼこり)を巻き上げ吹き荒れた。


 黒い魔法陣が離散するのと同時、装飾過多なランスも瓦解(がかい)する。

 解体されるビルのようにランスは崩れ、瓦礫(がれき)と化して消え去った。


(……これでボスのH(ヒット)P(ポイント)を10%は削れた。やっぱりソロだと時間が掛かるなー)


 塵埃が吹き飛び視界が晴れると、そこにはモノアイを赤く光らせる巨人の姿。

 本来ならボスモンスターはパーティーを組んで討伐するのが基本的。

 それをソロで攻略しようとすれば当然ながらそれなりの時間が掛かる。


 地面に突き立てた長剣を引き抜いて、再び機械の巨人と相対した。


「残るHPは90%。いつも通り、削り切りますか!」


 ボクが独りでボスエリアを攻略しているのには訳がある。

 レアアイテムを独占する為? ソロの方が効率が良いから?

 答えはそのどちらでも無い。そして答えは単純明快。


 コミュ障ボッチを(こじ)らせ過ぎて、ゲームの中ですらパーティーを組めない万年ソロプレイヤーだからだった――


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