孤独なお姫様とカエルになった王子様
お城の北側には日の光が届きづらい塔があります。元々は貴人用の牢として使われていたらしいのだけど、老朽化した今はほぼ無人です。ほぼというのは、私が住んでいるから。
朝は洗濯をしたり繕いものをしたりして過ごしてから、その日のお食事をもらいに本城へ行くのが日課。身分の上では一応お姫様らしいので、ご飯はちゃんと用意してあります。昨日の残り物だけど。
いつものようにお食事を分けてもらっていると、どこからか泣き喚く女の子の声が聞こえました。どうしたのかしらと呟いたら、ご飯を分けてくれたメイドが「末の姫様の癇癪だ」と言いました。
末の姫様というのは私の妹です。
頭がいいと評判の一の兄さまと、武勇を誇る二の兄さま。それに淑女の鑑と言われる姉さまとお人形のように可愛い妹に挟まれた、何もない私。お父様が一時だけ寵愛した歌姫の子が私なんだと聞かされています。母さまは私が生まれるのと同時に亡くなったそうです。
王妃さまは母さまが亡くなったあとで王さまの愛を取り戻したけれど、私の姿を見るのが嫌だと言ってこの北の塔へと追い出されたのでした。
王妃さまには嫌われているけれど、私にとってこの泣き喚く女の子が妹であることに変わりはありません。だからちょっとだけ心配になって、様子を見に行きました。もし王妃さまがお側にいらしたら嫌な思いをさせてしまいますから、陰からこっそりと。
「いやよ! どうしてカエルと一緒にケーキを食べないといけないのっ?」
「どうしてって、貴女が約束したのでしょう?」
叫ぶ妹に優しく言い聞かせているのは姉さまでした。姉さまも綺麗な人で、妹と姉さまが並ぶとキラキラで眩しいくらいです。
けれども、私の視線は一点に集中しています。カエルがいるのです。
お花が咲き誇るお城のお庭で。姉さまや妹のためにセッティングされた白くて可愛らしいティーテーブルに。金色のカエルが。ぎょろぎょろパッチリの瞳は翠色で。大きなお口の脇のほっぺのあたりに傷跡のあるカエルが。
いやよいやよと叫ぶ妹と、だって約束したんでしょうと宥める姉さまと、その合間にゲッコゲッコと聞こえるカエルの鳴き声は本当に異様で。
驚いた拍子に、腕に抱えた籠を取り落としそうになりました。私の今日の食事が入った大切な籠だから慌てて抱えなおしたのだけど、その時につい声をあげてしまったのです。
「あっ……」
一斉に視線がこちらに向きました。姉さまと妹と、メイドたちと護衛と、そしてカエルの視線が。
妹はすっかり泣き止んで私を指さしました。
「そうだ! レナお姉さまが代わりにカエルとお茶をすればいいじゃない」
「えぇっ?」
「してくれるなら美味しいケーキとお茶をあげる。食べたことないでしょ、バイタの娘だから!」
妹は売女の意味を知らないまま私をそう呼びます。王妃さまが口にしたのを覚えてしまったようですが、それを窘める人はいません。
だってお母さまが言ってたもん、と言われたらそれ以上は言えなくなってしまうからです。
姉さまがため息をついて私のほうへと近づいて来ました。
「レナレナ。申し訳ないのだけど、カエルを連れて行ってくれないかしら。あの子はもうずっとあの調子で喚いているのだけど、今は東の隣国の王さまが滞在されているからあまり騒いでもらっては困るの」
姉さまはお淑やかに困った顔のまま笑います。こんな顔をするとき、姉さまは誰の意見も聞きません。バイタの娘である私の意向なんて特に。
結局、どんな約束をしたのかとか詳しい経緯を聞くことすらできないまま、私はカエルを籠に入れて北の塔へと戻って来たのです。
すぐに豪華なケーキやお茶が運ばれて、寂れた塔の一室が甘い香りで満ちました。
テーブルの向かい側にカエルを置くと、大きな翠色の瞳をパチパチとさせました。なんだかお礼を言ってるみたいで可愛く見えて、私は思わず笑ってしまいます。
「カエルとお茶をするなんて初めてだけど、一人で食べるより楽しいわ」
クリームがたっぷりのケーキを一口分だけ切り分けて、ぱくりと口に入れたとき。
「それは良かった」
どこかで男の人の声がしました。
ぐるっと室内を見渡すけれど、もちろん誰もいません。この塔には従僕も護衛もメイドだっていないんですから。
「心を壊すと幻聴や幻覚があるって本で読んだことがあるわ」
「いいや、わたしは確かにここにいるよ」
また声が。
男の人の声はテーブルの向こうから聞こえた気がしました。だけどそこにいるのはカエルです。
翠色の瞳と視線がぶつかりました。
「もしかしてカエルさん?」
「気づいてもらえたようでよかった。わたしはハネス。どうぞよろしく、レナレナ」
「よろしく、ハネス。あなたはケーキ食べられる?」
「もちろんだよ。でも少しマナーに反するのは許してほしいな」
ハネスと名乗ったカエルは、長い舌をべろんと出してケーキの上のいちごをぱくっと口の中に引っ張り込んでしまいました。再び伸びた舌がケーキを横倒しにして造形を崩し、壊れたところから次々に口へ。
「すごい! みるみるケーキがなくなっていくわ!」
「汚いでしょう」
「私もマナーなんてわからないし、見てるぶんにはとっても面白いけど。あと、食べ終わったあとのお皿が綺麗だわ。私よりずっとよ!」
そう言うと、ハネスは身体ごとこちらを向いて「ゲコ」と一言鳴きました。ありがとうって言ってるのかしら?
それから私たちは一緒に歌をうたったり、掃除をしたりして過ごしました。と言っても歌は即興で作った適当なやつだし、お掃除だってハネスはただ応援するだけでしたけど。でもお喋りしながら働くのはとっても楽しいわ。
お日様が少し傾き始めた頃、ハネスが私の名前を呼びました。
「レナレナ、わたしはそろそろお暇しようと思うのだけど、また遊びに来てもいいかな」
「ええ、もちろんよ! 次はケーキなんて素敵なものは用意できないけど」
「それはわたしがどうにかしよう」
どうにかって、どうするのかしら。
よくわからないけれど、ハネスはそう言って小さく手を振ってからぴょこぴょこ跳ねてどこかへ行ってしまいました。
途端に静かで寒々しくなる私のお部屋。人……って言っていいのかわからないけど、誰かの存在は心もお部屋も暖かくしてくれるんだって初めて知りました。
夜になると本城のほうから美しい楽器の演奏が微かに聞こえてきます。
隣国の王さまが滞在されてるってお姉さまが言ってたから、それで舞踏会が開かれてるんだと思います。楽しそうな笑い声も聞こえてとっても賑やか。
私はそんな声を聞きながら眠りにつくの。舞踏会に参加できないことは寂しくないし、むしろ誰かの声が聞こえて嬉しいくらいだもの。いつもなら、ね。
でも今日はハネスとたくさんお喋りをしたからすごく寂しい。なんだかとっても寒くて足が冷たい気がするし、塔の中は一段と静かだし。ねぇ母さま、やっぱりひとりぽっちは寂しいな……。
夜が明けてお洗濯を終えたら、いつものようにお食事をもらいに本城へ。するとお庭で、姉さまと妹がウットリしたお顔でお喋りをしていました。
「王子様とてもかっこよかったわ!」
「そうね、すごく素敵だった。お父様が仰るには、隣国の王様と王子様はご結婚相手を探しに我が国へいらっしゃったそうよ」
「えっ、もしかしてあたし王子様と結婚できる?」
「どうかしら、ロッティはまだ小さいから。わたくしが選ばれると思うけれど」
「いやよいやよ! お姉さまは王子様よりお姉さんでしょっ」
隣の国王さまは王子様のお嫁さんを探しに来たみたいです。
ってことは昨日の舞踏会は姉さまや妹を紹介する場だったのでしょうか。お姫様って普通は他の国の王子様と結婚するものだと聞いたことがあります。妹は確かにまだちょっとだけ小さいから、隣国には姉さまがお嫁に行くんだろうな。
やだやだと癇癪を起す妹の喚き声を聞きながら、今日の食べ物を分けてもらって北の塔に戻りました。
今日もハネスは来るかしら。
北の塔の入り口の階段に座って、足をぷらぷらさせながら流れる雲を眺めてたの。お掃除も、衣類を繕うのも面倒なときはちょっとだけこんな風にサボっていいって決めてるから。
そしたら、ガサガサって草を踏むような音がしました。
「レナレナ、お願いがあるのだけど」
「ルーシー姉さま、どうしたの?」
何人もの従者を連れてやって来たのは姉さまでした。「お願い」って言ってるけど、姉さまが言ったらそれは「命令」です。難しい命令じゃないといいんだけど。
首を傾げた私に、姉さまは光沢のある真っ白な布を差し出しました。付き従う人たちも一歩前に出て箱を並べます。どうやらいろんな色の糸が入ってるみたい。
「刺繍をお願い。デザインはスノーフレーク。今夜までに」
「今夜までだなんて無理だわ」
「無理って言葉は好きじゃないの、知ってるでしょう? あのね、レナレナ。東の隣国の皆様は明日この国を出発されるの。だからね、今夜しかもう渡せないのよ。わかるわね?」
すごく冷たい目。姉さまは綺麗だけど、綺麗なぶんだけ怒ると怖いの。それに姉さまが怒ると毎日のご飯が無くなったり、量が減ったり、古いものになったりするから……。
仕方なく私は引き受けることにしました。
従者が置いて行った箱には植物の本も入ってました。この本がお駄賃代わりと思えばちょっとだけ頑張れるかも。何もないこの塔で、本はとっても貴重な教科書ですからね。
お父さまは私にナニーメイドと家庭教師をつけてくれたけど、その人たちもいつの間にか来なくなったし自分で学ばないといけないの。文字の読み書きや刺繍を教えてもらえただけ良かった、かな?
植物の本をパラパラめくってスノーフレークを探していたら、足元から声がしました。
「レナレナ、こんにちは」
「また来てくれたのね、ハネス。とっても嬉しい! ……あ、でも残念だけど今日は一緒に遊べないの」
ハネスの翠色の目がぎょろぎょろと私の手元を眺めまわします。
「刺繍をするからかい? それなら横で見てていい?」
「それでもいいなら是非そばにいてほしいわ!」
手を差し伸べるとハネスがその上に乗りました。金色のカエルってメジャーな種類なのかしら、カエル図鑑なんて持ってないからわからないわ。でも、人間の言葉を話すカエルは世界広しと言えど、たくさんはいないと思う。
ハネスをテーブルの上に置き、紙とペンも用意して植物の本を開きました。
「スノーフレークってスズランみたいに可愛らしいお花ね」
「東の隣国の国花さ」
「そうなの? ハネスは物知りなのね!」
得意げに「ゲッコ」と鳴いたハネスは、そのあともスノーフレークの話をしてくれました。花言葉とか、実は毒があるんだよとか。それがあまりに面白くて、もっともっと聞かせてっておねだりしちゃった。
そうこうしていたら塔の外に人の気配がしました。
様子を見に行くと、なんとメイドたちがケーキとお茶を運んできたのです!
「えっえっえっ」
って言葉をなくしてるうちにテーブルにすべて並べられ、メイドたちは何も言わないまま去って行きました。
ハネスはちょっと得意げにテーブルの上でぴょんぴょこ跳ねています。
「どうにかするって言ったろう?」
「あなた魔法使い……?」
どうやったのかわからないけどハネスがどうにかしたみたい。まさか本当にケーキが出て来るだなんて。せっかくだから美味しくいただきましょう、ということで、またハネスと一緒にティータイムです。
ケーキを器用につついて崩して口に入れながら、ハネスが思い出したように語り始めました。
「スノーフレークの伝説と言えば……。ここよりもう少し北の国で、羊飼いの少女に恋する花の歌があるのを知ってるかな?」
「いいえ。花って、地面に咲いてるあの花? 花が恋を?」
「そうさ。少女に摘まれて胸に抱き寄せてほしい、だから最も美しい花になりたいって願うんだ。だけど花は気付かれないまま少女に踏みつぶされる」
「え。なんて悲しい歌」
「でも花は喜んだ。だからこれは花にとってはハッピーエンドなんだよ」
私には理解できません。踏まれて命を終えて、少女の記憶にも残らなくてどうして喜べるのかしら?
納得できなくてうんうんと首をひねる私に、ハネスは柔らかな声音で続けます。
「そしてその歌とよく似た伝説が隣国にあってね」
「それも悲しい話なの?」
「どうかな。昔、とても有能な男がいた。力自慢で頭が良くて信望も篤くてね。だから彼は魔女に気に入られたんだ。スノーフレークの姿に変えられてしまった」
「ひどい!」
さいごの一切れを口に放り込んだハネスは、もっちゃもっちゃと咀嚼して飲み下すと小さく首を振りました。
「恋人が正体を見抜けば繁栄を約束するけど、そうでなければ男は魔女のものになるという呪いだ。期限は十日。夜の間だけ人間の姿に戻れたけど、深窓の令嬢だった恋人と夜中に会うのは大変だった」
「そうよね、そうだと思う」
「呪われたことは伝えられても、どこでどのような姿になっているかは言えないらしい。彼はただ探してくれとしか言えなかった。恋人は男から香り立つ花の匂いでスノーフレークであろうと気づくことはできた。しかし毒があるから手当たり次第に触れられず特定には至らない。そのまま時間ばかりが過ぎていった」
ハネスがこちらを見てパチパチと翠色の目を瞬かせ、私はその視線で自分がフォークを口にくわえたままだったと気づきました。やだ恥ずかしい。マナーを知らないという言い訳じゃ足りなくなっちゃうわ。
「ごめんなさい。それでふたりはどうなったの?」
「期限の前夜、男は恋人に愛を囁いた。魔女のものになっても永遠に君を愛し続けると。恋人は男を見つけられない自分を嘆きながら、彼の腕の中で涙を流し続けた。そして期限当日。なんと恋人は男を見つけられた。スノーフレークの群生地でたった一株だけ、涙に濡れたスノーフレークがあったからだ」
「わぁぁああ、よかったぁー!」
ホッとしてこぼれた涙はハネスが舌を伸ばして舐めとってくれました。なんて便利な舌なのかしら。
お話もひと段落したところで、気持ちよく姉さまからの依頼に戻りましょうか。お皿を片付けてデザイン用の紙を広げます。ハネスも紙のそばへとやって来ました。
「これはハッピーエンドだと思うかい?」
「もちろん!」
「では、魔女が諦めなかったとしたら? ふたりの子孫を代々同じ呪いにかけたとしたら」
「急に難しい質問!」
当人にとってはハッピーエンドだけど、呪いが終わらないなら解決とは言えないわけだし……。うーん。
ペンをくるくる回しながら考えてみたけどよくわかりませんでした。
「最初の話に戻るけど、踏みつぶされた花はもしかしたら花のまま死ぬことで魔女の呪いを解いたのかもしれない」
ハネスの声は呟いたみたいに小さくて、私の返事を求めているようには思えませんでした。だから私は聞こえないふりをして作業を進めたの。
だけど、もし死ぬことで魔女の呪いを解くことができるのなら、それはそれでハッピーエンドなのかもしれないわ。しかも愛しい人の手で死ねるのなら……。
その後はハネスに応援してもらいながら、頑張ってハンカチに刺繍を刺しました。だけどやっぱり夜までなんて無理で。途中でティータイムを挟んだせいもあるかもしれないけど。
貴人用とはいえ牢だったこの塔の一室には明かり取りの小さな窓があるだけ。だから外の様子はあまりよくわからないのだけど、入って来る日の光の色や傾きでおおよその時間はわかります。
「そろそろ日が沈むころなのにまだ中途半端だわ、姉さまに叱られちゃう」
「大丈夫さ。幸いにも、さっきにわか雨があったようだから」
「どういう意味?」
ハネスの返事があるより先に、だれかがやって来る気配。きっと姉さまだわ。
そう思って中途半端な仕上がりとなったハンカチを持って塔の前へと出て行ったのだけど、やって来たのはお父さまの従者でした。
恭しく腰を折り、懐から取り出したものを差し出します。彼の手で広げられた布の上には手紙が一通ありました。
「これは?」
「陛下よりレナレナ殿下への信書でございます」
従者は私が手紙を受け取ったのを確認するとすぐに立ち去りました。そして入れ替わるように侍女をひとり伴った姉さまがいらっしゃったのです。
背後を振り返り振り返りして従者の姿が見えなくなると、苛立ったように息を吐きました。
「使いをやるつもりだったのだけど、アレが何をしに来たのか気になって来てしまったわ。それ、お父様からのお手紙ね? 今ここで読んでみて?」
ためらう私に「早く」と姉さまの鋭い声が飛びます。
仕方なく開いた手紙には……。
「今夜の舞踏会に参加しなさいって」
「貴女が? 今夜の舞踏会に?」
私の手から手紙をひったくった姉さまは、自分の目でそれを確かめて高らかに笑い出しました。
「急にそんなこと言われてもレナだって困るでしょうに、ねぇ? 王女は三人いるはずだと言われれば貴女を出さざるを得ないのもわかるけれど。ドレスもない子に舞踏会だなんてかわいそうだわ」
言ってることはすごくよくわかるのだけど、姉さまは悪気なく私の心の柔らかいところを突くからちょっとだけ悲しい気持ちになりました。
妹と違って姉さまは私をちゃんと妹で王女だと理解してくれてるの。ただ母さまの身分が低いから、王妃の正統な子である自分と同等の扱いを受けられないのは正しいことだって考えてる。王族として間違った考えではないけど、私はたまに悲しくて苦しい気持ちになっちゃうの。
姉さまは私の手に手紙を戻し、代わりにハンカチを取り上げます。広げようとするのを見て、まだ出来上がっていないことを思い出しました。謝らなくちゃ!
「姉さま、それ――」
言いかけた私の目の前を、何かキラキラしたものが通り抜けました。
次の瞬間、姉さまの悲鳴があがります。
「ゲッゲッゲコッ」
ハネスが姉さまに飛び掛かったのです。驚いた姉さまはバランスを崩して尻もちをついてしまいました。
怒った姉さまが扇を投げつけようとしたので、慌ててハネスを庇います。
「なにするのよ、このバカ蛙っ!」
「姉さまやめて!」
扇は私の肩に当たりました。そこまで痛くなかったけれど、物を投げつけられたのだという事実が少しショックでした。私に対してであってもそんな酷いことをしたことなかったのに、相手が人間でないとなるといかにルーシー姉さまであってもこうなるのかと。
まぁ、私も虫を叩き潰したりするし……そういうものなのかもしれません。
「あら、貴女の蛙のせいでハンカチが汚れてしまったわ」
侍女の手を借りて立ち上がった姉さまがハンカチを摘まみ上げ、そして私に投げつけました。
「汚れたらもう使い物にならないじゃないの、いらなくなったから貴女にあげる。はぁ、もう全部無駄になってしまって……。その蛙、さっさと踏みつぶすなりして処分なさい。本当に気味が悪いったら」
それには返事をせず扇を返すと、姉さまはおざなりに手を振って本城へと戻って行きました。
彼女を見送って振り返るといつの間にかハネスもいなくなっていて、私の手元にはハンカチと手紙だけが残りました。確かにハンカチは泥で汚れています。「にわか雨があったから」というハネスの言葉はコレを指していたのかしら。つまり私が姉さまに叱られないようにしてくれたってこと?
「……って、ぼけっとしてる場合じゃないわ!」
急いで塔に戻って、私室の隣のお部屋へ。ここには母さまの持ち物がすべて置いてあって、ドレスもたくさんあるの。デザインは古いかもしれないけど、この薄汚れた室内用ドレスで舞踏会なんて絶対無理ですからね、背に腹は代えられません。
髪飾りやアクセサリーもどこかにあったと思うのだけど……と室内を漁っていたら、小さな手帳を見つけました。こんなのあったかしら?
時間もないのについペラペラめくっちゃったりして。好奇心には勝てません。これ、たくさんの詩が書いてありますし、どうも歌姫だった母さまの仕事用の手帳みたいですね。
偶然と言うべきか当たり前と考えるべきかわからないけど、ハネスが教えてくれた踏みつぶされた花の詩もあります。ただ、魔女に恋したカナリヤの詩が並んでいたのには笑ってしまいました。
人間の男が魔女を怒らせてカナリヤに変えられてしまうの。だけど男は魔女に恋してた。カナリヤになってからはずっと魔女に愛を歌い続け、ついに魔女は呪いを解いた……。っていう詩なのだけど、魔女ってば各地で変化の呪いをかけすぎだと思います。
って時間ないんだった!
どうにかひとりで準備を終えるのと、お父さまから遣わされた従者さんが迎えに来るのはほぼ同時で。彼の案内で向かった本城は、明るくて華やかで人がたくさんいました。
久しぶりにお会いしたお父さまは目を合わせてくれません。王妃さまはあからさまに機嫌が悪くなってしまって、妹は「あのドレスなに?」ってクスクス笑うばかり。二の兄さまと姉さまは我関せずというお顔で、最近流行りのファッションについてお話をしています。そして。
「久しぶりだね、レナレナ」
「一の兄さま。こんばんは。ご無沙汰してます」
「レナは社交デビューもしてないし不安だと思うけど、ルーの真似をして大人しくしていれば大丈夫だからね」
「ありがとう、兄さま」
妹のロッティが生まれて王妃さまによって追い出されるまでの五年は、私もこの本城で過ごしていました。その期間があるから兄さまたちや姉さまは私を妹として扱ってくれるのだと思います。中でも一の兄さまだけは少し優しいから好き。
そして高らかにラッパの音が鳴り響いて、王族である私たちの入場の時間がやって来ました。大きく開かれた扉から、お父さまを先頭にゆっくりと会場へ入って行きます。
姉さまは一の兄さまが、妹は二の兄さまがエスコートして、私はみんなの最後をひとりでついていきます。横目で姉さまの様子を窺いながら同じように演じるのに必死で、入場してからどんな儀式があったのかわかりません。ただ気が付いたらみんな好きに歓談してた……。
兄さまや姉さまたちは来客と思われる貴族たちとお喋りをして、お父さまと王妃さまはひっきりなしに挨拶に来る貴族の相手をして。私だけ壁際でぼんやりとその様子を眺めています。
結局、私がなんのためにこの場に呼ばれたのかはわからないまま。
と、そこへこちらに近づいてくる人の気配がありました。
肩につくかどうかという長さのブロンドの髪はバターみたいにこっくりしてて、くりくりの瞳はエメラルドみたいにキラキラしてる、絵に描いたみたいに綺麗な男の人。
「はじめまして、レナレナ王女」
「はじっ……はじめまして」
はじめまして?
でもこの声には心当たりがあります。思えば髪の金も瞳の翠もその美しい色はどれもカエルのハネスにそっくりだわ。
「少し話しても?」
「はっ、はいっ! もちろんです!」
元から隅っこにいたので周囲に人はいないのですが、隣国の騎士服を着た人たちがさらに私たちのそばにいた人をそれとなく遠ざけました。よほど大きな声を出さない限り、誰かに話を聞かれることはなさそうです。
王子さまは開口一番「お願いがあるんだ」と言いました。
「わたしは君をこの酷い環境から連れ出そうと思う。そして十分な資産と身分を与えてあげる。だから……」
一度口を閉じ、息を整えます。私は首を傾げながら続きを待ちました。
「わたしを殺してほしい」
「はい?」
「君はスノーフレークの伝説を知っているね? 連鎖する呪いを止めた悲しい花の歌も」
「……伝説は真実だったってことですか。ハッピーエンドなんかじゃないまま、今もずっと続いてるって」
返事はなかったけど、その沈黙こそが答えなのだとわかります。ハネスは呪いをここで止めようとしてるのでしょう。彼を殺しても資産や身分をくれると言うのだから、王さまも納得の上なのかもしれません。でもそんなの悲しすぎる。
王子さまは何も言わないまま私の返事を待っているようでした。
「なんで私なんですか?」
「あの花は幸せだった。わたしも、その通りだと思うからだよ」
その言葉の意味を問うより先に、幼い少女の声が響き渡りました。
「王子様、レナお姉さまには近づかないほうがいいですっ!」
あまりの声の大きさに、近くにいた人たちが一斉にこちらを見ました。王子さまが困ったように笑って妹に問いかけます。
「……なぜかな?」
「だってカエルとお茶をするのよ、その人。しかもお喋りまでするの、カエルと。きっと頭がおかしいんだわ!」
「ロッティだってカエルさんとお茶をする約束をしたのよね? だからあの日」
「やめてやめて! あたしをレナお姉さまと一緒にしないで。あのときはカエルが手紙を持って来たのよ。それが珍しかったから『いいわよ』って言ったけど、やっぱりカエルとお茶するなんて気持ち悪いじゃない!」
周囲が騒々しくなりました。
カエルとお喋りをする二の王女レナレナ、という話題は貴族たちにとってよほど面白かったのか、広い会場をあっという間に伝わっていきます。
そこへルーシー姉さまがひょっこりとお顔を出しました。
「あら、なんの騒ぎかと思えば。ハネス殿下、レナレナがカエルを友人に持っているのは本当ですの。身体も弱いし塞ぎ込みがちですから、カエルであっても心の支えになるならと思っていたのですが……」
ルーシー姉さまははらりと涙を落として見せました。若い男の人たちが「ああ」と感嘆の声をあげます。綺麗な女の人の宝石みたいな涙に弱いみたい。ていうか「ハネス殿下」って言った。やっぱりこの王子さまがハネスで、カエルなんだわ。
どうしたものかと混乱する私の耳元で王子さまが囁きました。
「注目を集め過ぎたね。今夜はもう北の塔に戻ったほうがいい。でも明日、君も一緒に連れて帰るから。出発までに必ず来て」
王子さまはそれだけ言うと私から離れて別の人とお喋りを始めました。ルーシー姉さまがすごく冷たい目でこっちを睨んで来たので、私は逃げるように会場を後に。
出発までに来て、って言ってたっけ。そう言えばルーシー姉さまが隣国の人たちは明日帰るんだって言ってたように思います。それってつまり、カエルのハネスにももう会えないってこと……?
北の塔に帰って着替えたら、ハンカチを洗いました。泥汚れは完全には落ち切らなくて、純白じゃなくなっちゃった。でもスノーフレークは可愛いから刺繍を仕上げちゃいましょうか。
それにチクチク針を刺してる間は余計なことを考えないでいられそうだから。
「そりゃあ、呪いが続くのは悲劇だけどさぁ」
チクチクしながら独り言。
「ハネスが命と引き換えに解く必要ある? なんでハネスが?」
なんだか集中できなくて定期的に一目戻ることを繰り返して。
「そもそも本当に呪いが解ける保証はあるのかしら」
手が止まりました。
結局余計なことしか考えてなかったけど。
母さまの手帳にヒントになるような詩があるかもしれません。そう思ったら居ても立っても居られなくて、刺繍を途中で放り投げて手帳をめくりました。
たった二回です。たった二回、一緒にお茶をしたりお喋りをしたり歌をうたったりして過ごしただけ。だけど私はハネスが好きだから死ぬとか言わないでほしいんです。
物知りだし、話し方は丁寧だし、ちょっとだけずる賢いところもあって。それにね、私を馬鹿にしなかった。バイタの子だって蔑まなかったし、マナーを注意したりもしなかった。ありのままを受け入れてくれたハネスにもう会えなくなるのは嫌なんです。
お喋りの楽しさを、誰かと一緒に食事したり歌ったりする楽しさを教えてくれたんだもの。もう、ハネスと出会う前には戻れないでしょ。
でも目ぼしい詩は見つからないまま最後のページになりました。見逃してるかもしれないからもう一度、と思ったら部屋のランプが風もないのに消えてしまって、私は外に出ました。マッチを探すより月明かりで読むほうが早いと思って。
手帳をペラペラめくって踏みつぶされた花の詩を通り過ぎたところで、違和感に手が止まりました。一瞬の間に私の目は左側のページに踏みつぶされた花の詩が、右側のページにカナリヤの詩があると認識したはずなのに、初めて見たような気持ちになったのです。
恐る恐るページを戻って読み直せば、左側に異変はありませんでした。ただただ一目惚れした少女に踏まれて喜ぶ不思議な花の話。でも右側は。
「これ、カナリヤを愛した魔女の詩……」
視点が違うのです。
魔女は自分のために愛を歌うカナリヤを愛していたけれど、魔法を解いたらきっと遠くへ行ってしまうだろうと不安になってた。でもあるとき翼に傷を負ったカナリヤを見て、魔女は悔やむのです。こんなにも弱々しい生き物の姿ではすぐに死んでしまうと。そして魔女は自分のそばから立ち去ってもいいから、力強く生を全うしてほしいと願って魔法を解いた、っていうそんな詩。
「なんで内容が変わってしまったの」
確かにこれは母さまの字で書かれた詩。さっき室内で見たときは確かにカナリヤの視点で……。
もしかして。
私は塔の中に駆け込んでもどかしさにイライラしながらマッチを探してランプに火を入れます。
踏みつぶされた花の詩の右側にあったのは、やっぱりカナリヤが魔女を愛した詩で。
「これ、魔法だ……」
月明かりで真実が浮かび上がる魔法だと、私はなぜか理解していました。
母さまは魔女だった。そう気づいたら急に泣けてきて、私はしばらく静かにぼろぼろと泣いていました。絵姿さえ残されていない母さまが急に形を持ったような気がしたから。この月明かりの魔法が母さまと私の繋がりのように思えたから。
好きなだけ泣いて、頭がすっきりしたらまた刺繍に取り掛かりました。今度はひと針ひと針に「純真な心」を乗せて。ハネスに教えてもらったスノーフレークの花言葉です。ただひたすら持ち主の幸せと無事を祈って刺繡を入れていきます。
そして朝。刺繍の完成と同時にテーブルに突っ伏して寝てしまったから体中が痛いけど。急いでドレスに着替えて、手帳とハンカチを手に本城へ向かいました。
まだ朝早いというのに、隣国の人たちは出発の準備を整え終えていたようです。馬車から少し離れたところ、たくさんの衛兵が守る中で隣国の王さまっぽい人がお父さまと話をしています。
隣国の騎士たちは馬車の周囲に少しと、さらに離れたところにもう少し。お父さまの後ろには王妃さまと、私を除く四人の王子王女の姿も。でもハネスの姿はありません。
私が彼らに近づこうとすると、衛兵たちが止めました。私だってお姫様なのに!
でも武器を使ったり強い力で拘束しようとはしないみたい。きっと隣国の王さまの目の前で王女に酷いことはできないからだわ。それならと私は必死にみんなのほうへと進んで行きます。
「ハネス、ねぇ、来いって行ったでしょ。渡したいものがあるの、姿を見せて!」
私が叫ぶと、お父さまが慌てて静かにしなさいと言いました。直接お声を掛けられたのは何年ぶりかしら、一瞬それがお父さまの声だと気づかなかったくらい久しぶりのことです。
私の手首を掴む衛兵の手から逃れようともがいていたら、「レナ」ってハネスが私を呼ぶ声が響きました。一瞬、その場にいる全員が口を閉ざして耳を澄ませます。
「レナレナ、よく来てくれたね」
続いて掛けられた言葉。私には確かにハネス王子の声が聞こえています。けれど、姉さまは「ぎゃっ」と叫びました。
「カエルの鳴き声! 近くにいるわ、早く探しなさい。気味の悪いカエルよ、近づけないで!」
衛兵たちがカエルの姿を探し始めたおかげで拘束が緩み、私はみんなの前へと転がり出ました。
「こっちだよ、レナレナ」
彼が何か言うたびに姉さまと妹が悲鳴をあげます。
私にはハネスの声に聞こえる彼の言葉も、ほかの人にはなぜかカエルの鳴き声に聞こえているようなのです。
「きゃー! あっちよ、馬車のそばにいるわ!」
ロッティの指さす先を見れば、確かに金色のカエルがいました。顎をふくふくと膨らませながら、キラキラのエメラルドの瞳は真っ直ぐ私を見つめていて。
衛兵たちがカエルを捕まえるべくじりじりと彼に近づいて行きます。
ルーシー姉さまは私に「踏みつぶせ」と言いました。でもそんなこと、絶対にさせません。衛兵はなおも私を行かせないよう拘束しようとするので、その手を振り払いながらハネスのそばを目指します。
「ハネス、こっちへ来て!」
私の言葉に応えるように、カエルのハネスは伸びて来るたくさんの衛兵の手をかいくぐってこちらへと跳ねて来ました。あと少し、もう少し。必死で手を伸ばす私。懸命に飛び跳ねるハネス。
業を煮やした衛兵がどこから持って来たのか太い棒のようなものを振り上げました。私はドレスが破れるのもかまわず衛兵の手から逃れてハネスに覆い被さります。その刹那、背中を襲うひどい痛み。息ができなくて倒れ伏してしまったのだけど、王女を害したという事実にその場が一瞬だけ固まったようでした。
「退け、退きなさい!」
威厳のある声ですが、お父さまのものとは違います。きっと隣国の王さまね。私のそばから一斉に人の気配が遠のいて、私の腕の中からハネスが顔を出しました。
「レナ……?」
「ハネス、あのね、私はね、未来のために呪いを終えようとする優しいあなたが好きよ。だから私はあなたを踏めない」
「わたしも君が好きだ。この醜い姿に物怖じせず『ハネス』として接してくれた君が。辛い環境で前向きに笑う君が。であるからこそ、わたしは君の手で、君の最も近くで死にたいと思った」
痛みをこらえ、彼を手に包んで起き上がりました。
ばかねって笑ったつもりだけど言葉にならなくて、私は彼の大きなお口にキスをします。
カエルを愛した誰かがカエルにキスをするの。これでカエルはヒトに戻れる。もしもそれが魔女のキスなら、永遠の呪いさえ解けてしまう。
呪いから解放されたあなたは、もっと綺麗でもっと上品でもっと王妃に相応しい誰かをお嫁さんにするかもしれないけれど、それでいい。呪いなんかに囚われず、自由に、命を大切にして生きてくれるならそれでいい。
瞬きをしたら涙がこぼれ落ちました。
そして姉さまの悲鳴。
「きゃああああっ! ばけもの! ばけものよ!」
一の兄さまも二の兄さまも目を見開いてこちらを見ていました。ロッティは真っ青な顔で王妃さまに抱きついて、ルーシー姉さまは息の続く限り悲鳴をあげて。
だけど私もハネスも、彼らのことはもうどうだっていい。
私の目の前で、昨夜の舞踏会できらきらにかっこよかった王子さまが片膝をついています。
「ああ、レナ。わたしを愛してくれたのだね」
「愛とか恋とかわかんない。私はただ、あなたに生きて欲しかったのよ。ねぇ見て、ちゃんと最後まで刺繍できたの。ちょっと汚れてるけど」
差し出したハンカチをハネスは宝物みたいに受け取ってくれました。
「君の手でもらえるのなら喜んでもらうよ。ありがとう、レナレナ」
彼は大事そうにハンカチを胸のポケットに入れて、私に手を差し伸べて立たせます。再び膝をついて私の手をとりました。
「どうかわたしと結婚し――」
「殺しなさい! 見たでしょう、カエルが人の姿になるなんて、あれはばけものよ! それにそっちのは魔女に違いないわ! ああ汚らわしい魔女!」
ルーシー姉さまの叫び声。衛兵たちの間には困惑が広がって誰も動きません。だって相手は隣国の王子さまだし、私はお姫様ですものね。
だけど、それに構わず剣を手に走り寄って来た人がいました。武勇を誇る二の兄さまです。あっという間に立ち向かう隣国の騎士をなぎ倒していきます。
「やめろ、リッカルド!」
一の兄さまが制しましたがもう遅い。二の兄さまの剣は私を庇うように前へ出たハネスの肩口から斜めに振り下ろされて……!
「ハネス! やだ、ハネス!」
すがりつく私の頭をハネスが優しく撫でました。
「いいや大丈夫、問題ないよ。レナレナ」
ハネスのジャケットは確かに切れているのに、彼の肌は掠り傷ひとつついていませんでした。見れば、二の兄さまの剣に白いハンカチが巻き付いています。
二の兄さまは訳が分からないという顔で数歩ほど後ずさり、ハンカチがひらっと落ちました。ルーシー姉さまをはじめとした誰もが言葉もなくハネスを見つめています。
ハネスはハンカチを拾い上げ、もう一方の手で私を抱き寄せました。
「このわたしに剣を振り下ろしたこと、これは国家間の戦争を始めたものと考えて差し支えないな?」
「や、それは」
お父さまが何か言いかけて口ごもります。ふさわしい言葉が見つからないのでしょう。お父さまも一の兄さまも何も言えずにいる間に、隣国の騎士たちは統率のとれた動きで私たちを守るように立ち、剣を抜いていました。
「わたしの最愛、レナレナの生国だ。できれば事を大きくしたくないのだけど」
一の兄さまが衛兵に命じてルーシー姉さまと二の兄さまを拘束させました。それを見て王妃さまが何事か叫ぼうとしたのだけど、お父さまが口を塞いでしまったからなんと言おうとしたのかはわかりません。
私はハネスに促されるまま馬車へ。しばらくたってからハネスも乗車して「大丈夫だよ」と小さく笑いました。
「こんなときに言うことじゃないかもしれないけれど、わたしと結婚してほしい」
「それって、ずっと一緒にいてもいいってこと?」
「ああ、そうだよ。わたしの最愛、わたしの魔女」
目の前でひらひら振ったハンカチを再びポケットに入れて、彼は私の頬を撫でました。私たちは気持ちを確かめ合うように永遠を約束するキスをしたのです。
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