第9話 現代の7大都市
「そもそも、エインちゃん。あなたは現代の世界7大都市はご存知?」
「???知りません」
「だよね。まずはそこからね。これから勇者様を目指して、というよりは冒険者として生きていくには必須の知識だからきちんと聞いて覚えておく事。分かった?」
「了解です!!」
「よし。……世界は今、1つの国として生きている。その国の名が"カルデラ"。私たちが暮らす国よ。この国は帝国ではなく王国と定義されている。絶対君主を作らせないようにね。その為王族の中では権力が分散してる。当然王族の1人であるルースにもその権力が付与されているわ。だからルースも結構偉い人なの。友達だからと言ってあまり無茶しないようにね?」
「は、はい?」
「ここからが本題。この国の土地は世界にある7つの大陸全て。その大陸1つに都市が1つずつあるんだけど、それを総称して7大都市と言ってるのね。それぞれ名前が、
自然都市:『グリーナイン』
鋼鉄都市:『アイアンエフィー』
古代都市:『カミノコ』
未来都市:『エレクトリア』
海洋都市:『アブブポッパ』
天空都市:『スカウド』
そしてここ、英雄都市:『インカ』
これが今の7大都市よ」
7大都市。勇者様伝記に書いてあるのは5大都市だった。勇者様伝記には古代都市と未来都市はなくて、英雄都市もなかった。その代わり、中央都市というものがあったけど。多分、それが英雄都市なんだろう。「もしかしたら街の名前になるかも、照れる」とか書いてあったし。
「この都市はそれぞれ得意なことが違うわ。自然都市は農業・畜産、鋼鉄都市が生成・加工とかその辺、古代都市は浪漫、未来都市が発展・魔道具作製、海洋都市は漁業・養殖そして海流操作、天空都市は天候操作、英雄都市は拡大・流通。こんなとこかしらね?」
なに言ってるか全然分からん。古代都市が浪漫ってことしか覚えてない。浪漫、いい響きだ。好き。
「現在ある7都市は昔は5大都市だったの。勇者様伝記にもそう書いてあったんじゃないかな?」
「書いてありました」
「よし。よく読んでる。当時の5大都市の中でここに位置するものは中央都市だった。それが勇者インカのお陰で世界に暫しの安定をもたらしたとして、その中央がインカの出身地でもあった事から、英雄都市インカと名前を変えたの」
「……、あれ?勇者様って農家出身じゃなかったですか?自然都市じゃなかったんですね?」
勇者様はなんか知らないけど、あまりその辺を書いていない。なんでだろ?
「……、そう。自然都市じゃなく中央都市出身よ。なにもその都市でそれしかしていないというわけじゃないの。あくまでそれが得意というだけよ。じゃないと、すぐに食糧危機とかに陥っちゃうし」
「ふーん」
「まぁ、それはどうでもいいの。新たに増えた2大都市、これはその勇者様が作り出した都市よ。元々ここは魔族が占拠していた大陸なんだけど、勇者様が腕試しでだって言ってその大陸の魔族を追い払ったからその大陸を人間が占拠できるようになったと言われている。当時もその話題で持ちきりだったのよ」
「ふーん」
「……、興味無くした?」
「え、あぁ、いやぁ。なんか考えてみれば昔の事聞いても今とはあんまり関係ないかなって……」
ちょっと話長くなる気がするし。あんまり過去にも興味ないし。
「……、そうね。昔の事だもん。次の勇者様が出る頃には全く取り巻く環境も違うでしょうしね」
「……ですが、歴史から学ぶ事は多くあります。それにエイン……アレッタの好意を無碍にする、今のはそう言っているという事は分かっていますか?」
今まで何の口も挟んでこなかったルースちゃんが挟んできた。しかも、怒りながら。でも、ルースちゃんのいう通りで何の言い訳もない。
「すみません……アレッタさん」
「……、いいのよ。あの時とは随分様変わりしたもの。私の話を聞いても何の糧にもならないし。でも興味が出てきたなら、また聞きにいらっしゃい」
アレッタさんはニコニコしているが、今まで見せたようなニコニコ顔じゃないような気がする。とても悪い事をしたような気がした。
「……、ごめんなさい」
「……、じゃああと1つだけ聞いてもらおうかな」
「?何ですか?」
「あなたが登録したギルドと言う場所は、各都市に3つずつ設置してある。各都市に行ったらまずは、そのどこかに挨拶しなさい」
「挨拶?」
「そ、挨拶。お世話になります、お仕事させていただきますってね。私らのところはそういうのはあまり気にしてないけど、よそ者は煙たがられ事も多いからね。勇者様を目指すなら、各大陸に足を運ぶ事にもなるでしょう。覚えておいて損はない」
「……分かりました!気をつけます!」
「ふふ、頑張れ若人」
……………
「エインは本当に礼儀を知りませんね」
「すみません……」
アレッタさん達と分かれてから、ルースちゃんにボロカスに怒られた。その後、また訓練場に来ている。
「さぁ、エイン、柔軟の続きです」
そう言ってルースちゃんは先に柔軟を始めた。
「え?まだやるの?」
「当たり前です。勇者様に近道なし。ただ地道に歩いていくのみ。止まっている時間はありません」
ルースちゃん、もう既にこんなに強いのに……私も、もう言い訳してばかりはいられないな。勇者様になるんだ、覚悟を決めろ、エイン。
「……、うん。分かった」
「……よろしい。少しだけ良い顔になりました。そういった本気の顔は好きです。頑張りましょうか」
「よろしくお願いします!!!」
「うぉ、びっくりした……急に大きな声出して。全く……仕方ないですね。そこに座って」
「うん!!」
それからその日ずっと、ルースちゃんに稽古をつけてもらっていた。模擬戦をやるかと思えば、まず全体的に力が足りないと言われたので筋トレを中心に、体力作りを行った。そして最後に1回だけ模擬戦を行ったが、やはり手も足も出なかった。
私は地面に四つん這いになり、もう全然動ける気がしない。
「ありがとう……ございました……」
「いえ。こちらも有意義な時間でした。また明日もやりましょう」
「いいの?」
「教える事によって、私自身至らぬ点がある事も学べる事もあります。エインはそういった、『何事からも学べる事があるという事』をまず理解する必要がありますね」
「何事からも……じゃあ!!胸揉まれた時に学べることってあると思う?!今日多分また揉まれると思う!!あのドスケベから!!!」
ないかもしれないけど、ルースちゃんなら何か知っているかもしれない。僅かにでも可能性があるなら知りたい。
「……揉まれる時の気持ちとか?」
「……それだけ?」
「……、その状況下での相手の油断とか?」
「……、分かった。考えてみる」
「……エイン?何事からと学べるとは言いましたが、あれは心構えとしての話で」
「それでも……何もない私にとっては、塵のような小さな情報だとしても……力に繋がると思いたい」
そうだ。私には何もかもが足りない。同じ勇者様志望のルースちゃんがここまで強いんだ。もう、泣き言言っていられない。私は絶対に強くなる。
「……焦るのは良くありません。勇者様なんて所詮御伽噺です。今はもう過去の話。魔王や魔族なんて、今後現れない方がいいんです。勇者様志望ということは、その魔王や魔族の復活を望んでいる人類の敵とも言われかねない。エイン、無理に強くなる必要はないんですよ?」
「……、ルースちゃんは何で勇者様目指してるの?」
「それは……カッコよくて憧れたからです。こんな人になりたいと」
「……、私はある人に言われて勇者様目指してる。ガイドさんに私を選んでよかったって思ってもらいんたいんだ……それに本物の勇者様は確かにカッコいいと思う……期待に応えるためにも……本物に近づく為にも……些細な情報でも欲しい……やっぱりもう1度アレッタさんの話聞いてくる……」
「……まぁ、今日はもう遅いので明日にしましょう。それにアレッタやミドルも暇ではありません。どの道強くなるには地道な努力が必要ですから。焦らずここで少しずつ強くなりましょう。エイン、それだけ悔しければあなたはきっと強くなれます。いえ、私が強くします。ついてきなさい」
「……、お願いします!!!」
お疲れ様です。
洋梨です。
情報は小出しにしていくスタイル。
ちなみに後でも出てきますが、ルースさんは18歳の設定です。