第8話 触らぬ神に祟りなし
司会「さぁ、準備はいいか?」
最高潮の盛り上がりを見せる腕相撲対決最終戦。私とガイドさんは位置についた。やるからには全力でやる。勝負だ!
司会「よーい!!はじめ!!」
「うおりゃああああ!!!!!」
私は掛け声と同時に全身の力を腕に込める。しかし、ガイドさんの腕はびくともしなかった。それどころから、不敵なニヤニヤ顔をしている。
なんか腹立つ。
「あぁ〜、負けちゃうかも〜」
ガイドさんの方にゆっくりと腕が倒れていく。
ムカつく!!!このままつけてやる!!!
私は全力で力を入れたが、最後まで押し込めない。
「ここで巻き返し」
今度は私の方へ倒れていった。本当に馬鹿力だ。抵抗なんて出来もしない。クソォ!!!!
「勝って!!勝ってください!!!エインさん!!!お願いします!!!」
ミッドさんがそう声をかけてきた。という事は、同衾はあまり気乗りがしない様だ。
「ああ言ってますよ、ガイドさん!!同意なき行為はしないんじゃなかったんですか?!」
「約束は!!守ってほしい!!!!あの子からの提案なんです!!!!!これは同意に入ります!!!」
「うぅ……、その通りです……でも今日はお酒飲みたいんです……」
あ、どうしても嫌というわけでもなさそうだ。しかし、勇者様たるもの人の頼みを叶えるのは大事だと勇者様伝記に書いてた。だったら叶えてみせる。
「ガイドさん!!1つ私からも提案があります!!」
「なんですか?」
クソォ!!!油断誘ってもビクともしない!!!ほんとなんなんだこのドスケベ!!!
「……、私を勝たせてくれたら、胸、また10回揉ませてあげます……!」
司会「おおっと!!!!!ここでエイン・アリス!!!八百長を持ちかけたー!!!!!しかし、勇者志望のエイン!!!!そんなズルをしていいのか?!!!」
「うるさい!!!!勝てばいいんです!!!」
司会「とても勇者志望とは思えぬ発言!!!しかし!!!それは真理!!!勝たなければミッドはガイドと同衾するしかない!!!!さぁ!!!ガイド!!!この提案をどう受ける?!!!」
ガイドさんは苦悶の表情を見せていた。
「久々のアレ……でも……エインの10回……、負けたらスリーサイズも……でも……胸10回……」
「スリー?サイズ?」
司会「そう!!!!ガイドがかけたマル秘情報はおまえのスリーサイズだ!!!!これにどう応える勇者!!!!」
どう、すればいいんだ?!ここで私が勝てば!!ミッドさんは助かるというかなんというか、まぁ、お酒が飲める!!でも私が勝っちゃうと!!スリーサイズ公開に!ガイドさんへの奉仕まで!……どうすれば!?
「……公開しますよ!!スリーサイズ!!」
司会「勇者エイン!!!!恥を捨てミッドの安寧を取った!!!!素晴らしき心だ!!!!」
今まで以上の歓声がここで上がる。上がるが、私にはどうしようもできない。ガイドさんはまだ苦痛の顔をしながら悩んでいる。
「10回……エインの10回……、でも久々という響き……でも……10回……、エイン、もう一声ダメですか?それなら即決出来ます」
「もう一声?」
「15回はダメですか?」
司会「謎魔の女ガイド!!!まさかの要求吊り上げだ!!!!どうする!!!勇者エイン!!!!この要求を受けるのか?!!」
「お断りします!!!!」
司会「即答だ!!!!一瞬で断った!!!!何故だ!!!何故!!!これを受ければ必ず勝てるというのに!!!!」
「このスケベは今ここで受けたら20回まで確実に要求を吊り上げてきます!!!!受ける事はできません!!!」
司会「見破られているぞ!!!ガイド!!!どちらを選ぶ?!!」
「うーん……10回……久々ぁ……10回……」
「……久々は後でも解消できますけど……私の胸は今しか取れませんよ?」
司会「勇者エイン!!!!まるで!!!身を売る様な発言!!!!これは教育に悪い!!!!お子さん達は下がらせて!!!!」
クソォ!!……好き勝手言いやがって……!!
「うーん……」
ガイドさんの腕は力を無くし、ガイドさんの方へストンッと落ちていった。つまり、私の勝ちだ。
よかったんだ、これで!これでよかったんだ!!クソォ!!
司会「決まったあああ!!!!!!勝者は勇者エインだあああああ!!!!!おめでとう!!!!!さぁ!!!!賭けの答えを!!!!!」
辺りは一瞬で静まり返る。生唾を飲み込む音が聞こえるほどに。
そんなに気になるか?皆んなスケベか?
「エインのスリーサイズは……、すみません……分かりません……」
司会「おおっと!!!意外な展開!!!まさか賭けた張本人!!!スリーサイズを知らないらしいぞ!!!!」
「だって、負けると思わなかったから……」
司会「それは仕方ない。では勇者エイン、答えてもらおう」
「え?」
司会「賭けは払わねば賭けにはならん。不毛な時間になってしまうからな」
「……私も知りません。測った事ないし」
司会「……だそうだ。しかしこれでは収拾がつかん。どうすれば……」
「では私が答えましょう。上から、86・65・92。身長は約170、これで満足でしょうか?」
ルースさんが乱入してきた。
「それは誰のサイズでしょうか?まさかルース様の?」
「えぇ。この前測ってみた結果です。お役に立つでしょうか?」
司会「聞いたか野郎共!!!!この国の王女であるルース様が恥を忍んで!!!友を思いやって!!!自らのサイズを公開してくれたぞ!!!!!おまえらも漢気見せろや!!!!記憶を飛ばせ!!!!酔って酔って記憶飛ばさんかい!!!!!」
また大歓声が上がった。そして皆んなしてお酒を飲み始める。大丈夫だろうか?
「エイン様、私たちも何か食べましょうか?」
「あ、はい」
……………
「ん〜!!!美味しいです!!!これが庶民の味!!!」
「庶民の味」
私とルースさんは2人で食事をしている。ガイドさんは「飲み比べだあああ!!!」と言いながら、他の冒険者とお酒を飲み始めたので置いてきた。
ルースさんの話を聞くところによると、いつもは宮廷の料理人が朝晩の食事を作り、お昼は冒険者の仕事であろうと王族の仕事であろうと兄様が弁当を作ってくれているのだそう。それなら庶民の味を知らなくてもおかしくはないのか。
「エイン様は何をお召し上がっておられますか?!」
「私は……」
確か紫芋のダバダバ漬けとかいう意味の分からない料理があったから注文したけど、ねっとりした液体の中に、紫の芋が入っているだけの食べ物だ。味は普通に食べることができる味。塩味が少し効いていて、液体は濃厚な牛乳の味がする。
「紫芋のダバダバ漬けというやつです」
「それはどういった料理ですか?」
「……、紫芋がダバダバと漬けられています!」
ルースさんは、ポカンとした顔をするが私だってこの料理は何か知らない。不味くもないけど美味しくもない料理だ。
「あ、そういえば、エイン様、私、折言ってお願いがありまして……」
ルースさんは突然もじもじし始める。仕切りに指を組み替えながらこちらをチラチラ見ている上に頬が赤い。
……まさか!!!!?
「ダメです!!それはダメ!!!」
ガイドさんと同じスケベな人だなんて!!王族もスケベなのかこの国は!!!
「え、え、え、……すみません……そうですよね……、王族と友達なんて……嫌……ですよね………すみません……」
「?友達?友達になりたいんですか?」
「?はい……」
「なんだぁ、てっきり勘違いしてました。友達ならこちらこそです!!よかったぁ!冒険者の人の中に同世代の人がいないっぽくてちょっと不安だったんです!!」
「な、なってくれますか?!友達!!」
「もちろん!!あ、じゃあ呼び方変えたほうがいいですよね!ルースちゃんと言えばいいかな!?」
「ル、ルースちゃん……へへ、じゃ、じゃあ私は……、エイン……と呼ばせてください」
「うん!!いいよ!!」
ルースちゃんの顔がぱあっと華やぐ。とても嬉しい事は簡単に伝わる。その顔に嘘偽りはない様に見えた。
それからしばらくルースちゃんの顔はゆるゆるになって、さっきまでキリリっとしていた顔は面影もなかった。そのゆるゆる顔の時に私を担当してくれた受付の2人が話しかけてくる。相変わらず耳がとんがってる。
「よ!なんや楽しそうやな!」
「ルース、いい事でもあったぁ?」
「は、はい。エインがお友達になってくれると……えへへ」
「よかったじゃん!!いぇーい!!」
受付の女の人の方がルースちゃんの頭をぐしぐしと撫でている。かなり距離感が近いな。王族って言ってたけど、この人たちも友達なのかな?
「……、エインちゃん、ありがとうね。この子、王族だからね。友達私たち以外いないんだ」
「私も今なったばかりなので、友達じゃなくなる可能性はありますが……」
「……、いや、びっくりするくらいストレートパンチ仕掛けてきたな。まぁ、そんくらいの方が上手くやれるか?」
「どういう事ですか?」
この時点で受付2人はルースちゃんの両隣に座る。私から見て、左から順に男の人、ルースちゃん、女の人だ。
「王族ってのは、皆んな避けたがるんや。ルース含めたここの兄弟妹はそんな子たちじゃないんやけどな、他の王族は庶民の態度にかなり厳しい。少し無礼を働いたくらいで打首なんてこともあるんや。まぁ、簡単に言えば触らぬ神に祟りなしというやつやな」
「へぇ」
「いや、他人事じゃないから。あなたの最初の時の態度ね、あれこの子らじゃなかったら一瞬で極刑の判断くらってるから」
「……、王族って心狭いんですか?」
「……おまえ、もの凄い胆力やな。一応ここにも王族おるで?」
「い、いえ。王族が心狭いのは本当なので。でも心が狭いというよりかは礼節を誰よりも重んじていると言って頂いた方が良いかと……」
「なるほど。気をつけます。……ところで、私、おふたりの名前をまだ知らなくて……」
「あぁ、そうやな。自己紹介がまだやったな。俺は'ミドル・トールマン'、知っての通りギルドで受付やっとる」
「私は、'アレッタ・トールマン'、同じく受付です!」
「両方ともトールマンなんですね」
「そう!私たち夫婦なの!どう?驚いた?」
「え、あぁ、まぁ。ところでおふたりとも耳長い?というかとんがっていますけど、それはなぜですか?」
ルースちゃん含めた3人とも「まじか?」みたいな顔をした後、クスクス笑い始めた。
「あはは!まぁ、王族知らないくらいだもんね。私たちは"エルフ"よエルフ」
「エルフ」
エルフは勇者様伝記にも出てきた。長命な種で軽く1000年は生きていけるという。勇者様伝記に載っていたエルフの特徴は聡明で落ち着いた様子の種であり、とても慎ましかったと書いてあった。
全然違う。本当にエルフか?
「……エルフもどき?」
「コンガキャアアアアアア!!!!!!なんだなんだ!!!?おばさんって言いたいのかああああ!!!!!」
「いた!!!痛いぃ!!!!」
アレッタさんは急に両の頬をつねってきた。めちゃめちゃ痛い。
「落ち着け。勇者志望なんやろ。多分勇者様伝記でも読んでるんちゃうか?」
「は、はいぃ……」
まだ離してくれない。それから数秒後に離してくれた。
「俺らはある歳まで行くと歳とり辛うなるからな。あんまり分からんねんけど。このアレッタは最近老けたかもって気にしてんねん。変わらんのにな」
「変わらないって言われても!!私は変わったって思うもん!!!おばさんじゃないもん!!!」
違う。私が気にしたのはそこじゃない。まぁ、もういいや。それよりも気になることがある。
「それよりもですね、聞きたいことがあります。エルフって長命種なんですよね?だったら……」
「勇者様についてか?」
「!!!!わかるんですか!?」
「それはもうな。……、ルースも聞いてきたしな」
「えぇ。そうですね」
「じゃあ、ルースちゃんも知ってるってこと?」
「いえ、残念ながら。勇者様についてはなにも。しかし、かつての世界の状況は聞きました」
「世界の状況?混沌としてたとかそんなのですか?でもそれは勇者様伝記にも載ってました」
「本で読むのと生き証人の話とではまた話の受け取り方がちゃうやろ?聞きたないか〜?」
ミルドさんは私のおでこにぐりぐりと拳を当ててきた。とても楽しそうにしている。一方アレッタさんはムスッとしている。ちなみにルースちゃんはさっきからご飯をパクパクと夢中になって食べていた。
「私は気乗りしないな。おばさん扱いされたもん」
いや、してない。
「まぁまぁ、ルースの友達やんか」
「……、それはそうね。じゃあ私から説明するわ」
結局、説明してくれるんだ。いい人だな。
お疲れ様です。
洋梨です。
ミドルとアレッタは金髪です。
エインは泣き虫のくせにメンタルは一級品の図太さを備えています。




