第7話 エイン・アリスの内容
ルースさんについて行くと、大きな広場のようなところに出た。地面に傘は生えてなく、漏れなく土。端の方にはカカシみたいな物が何個かあるけど、人は誰1人としていない。
「ルースさん、ここって何処なんですか?」
それほど距離を歩いた気はしない。それどころかギルドの中の道を突っ切ってきただけだ。近場にこんな所があるなんて思いもしなかった。
「ここは訓練場です。冒険者は強さが資本ゆえ、ここで皆が特訓しています」
「……その割には誰もいませんね」
「そろそろお昼時ですからね、食堂でまったりでもしているのでしょう。何やら人だかりもありましたしね」
それだけでこんなに閑散とするかなぁ? 不思議な感じはするけど、たまたまかもしれないし、気にするだけ無駄なような気もするし、気にするのやめとこ。
「さぁ、構えてください。私も構えますので」
ルースさんは剣をまえ構えた。足を肩幅に開いて、両手で鞘を持ち、剣を前に突き出している。剣の長さは私と同じくらいで、持ち手から剣先までで多分、腰から足くらいまでしかない。それに比較的よく見る構えだ。
私もその構えをとる。
「同じ構え……、随分自信がお有りのようで」
ルースさんはニコッと笑うが、あれは明らかに怒っている。後ろに何か怒った顔の怪物が見える。これあれだ。あれ、勇者様伝記に出てきた『鬼神傀儡』だ。才能ある人だけが顕現できるかなり強力な魔法って書いてあった。効果は確か、全体の力が上がるとかそんなのだったはず。
絶対に!!!!そんな技は!!!!練習で使うべきではないと思います!!!!けど、弱音ばかりも吐いていられない……
前に行かなければいけないという意志とは反対に、身体が後ろへ動こうとする。それほどまでに目の前にいる人間の凄まじさを感じていた。私はなんとかその場にはとどまれるものの、ガクガクと膝が笑っていて、腕もプルプルと震えている。
「来ないのならこちらから行きます」
その声が聞こえた時には、ルースさんの顔がすぐ目の前にあった。左手に剣を持っている。剣を振りそうな構えだと思い、私は咄嗟に剣を右に寄せようとする。が、寄せる前に右手でビンタされた。
「すみません、隙だらけでしたので」
私は思いっきり剣を横に振ったが、その剣をルースさんの剣に滑らされ、勢いを流された。そしてそのまま勢いよく私は体勢を崩す。そんな体勢を崩した私に対して、ルースさんは足を軽く上げて受け止めた。私の背はルースさんの膝に支えられ、そして首に剣を置かれる。
これ、殺し合いだったら普通に死んでたな。
「……、この程度ですか?」
「……、この程度です……すみません……」
「……、この程度で勇者様になろうと?」
「……、そうです!成り行きです!ダメですか?!」
「そうですか、それは……、……いえ、早計ですね。誰しも初めは弱いもの。これから強くなれば良い事です」
悔しい……少し哀れだと思っているその目が悔しい……
「……、そのように泣くものではありませんよ。大丈夫、一緒に強くなりましょう。まずあなたの鈍重な剣戟を変えてみましょうか」
「はい……」
ルースさんはその後、私の身体をほぐしてくれた。なんでも身体がまず固いのだそう。なにを振るにも柔軟な身体を手に入れることが重要だと教わった。しかし、そのほぐし方がとても生半可なものではなかった。
「いた!!いたたたた!!!!!」
「これくらい我慢して下さい」
私は無理やり足を180°開かれようとしている。今までそんな開いた事ない。はっきり言って無理。
無理無理無理!!!
「無理ですぅ!!!!」
しかし私はルースさんに上から覆い被されている。逃げるに逃げられない。……、でも胸の感触が頭にあるからそれはそれで満足。他の人のってこんな感じなのか。ガイドさんが夢中になるのも分からないではないかも。
「……、何やら邪な事を考えていませんか?」
「??え?そ、そんなわけ?」
顔に出てたかな?
「まぁ、良いです。いきますね」
「え?!ちょ!!まぁああああ!!!!」
私の足は一気に開かれた。それと同時に色んなところがぶちぶちいって、切れたような気がする。
……………
足を開かれてから数分、私は全然動けなかった。ルースさんはそんな私の横でストレッチをしている。かなり身体が柔らかく、なんか360°足回りそうな気がするくらい。
「そういえばもうすぐ昼食の時間ですね。何か食べましょうか?」
「……、動けません。おんぶしてください」
「自分で歩いてください」
即答で断られた。仕方ないので自分で立つ。まだちょっと痛い。
甘やかしてほしいな。ケチ。
私とルースさんはその後少し会話しながら食堂まで来た。ルースさんは今まで食堂では食べたことがないらしい。いつも兄様と外で食べるか、受付の人の所で食べているという。なので、私と食堂に行くことがすごく楽しみらしい。
そんな食堂に着いたのはいいが、何やら大変な盛り上がりを見せていた。盛り上がりの中心地にはガイドさんがいる。なぜか腕相撲をしていた。
「またやったーーー!!!!不思議な女、ガイド!!!!98人抜きだぁあああああ!!!!!!」
ハチマキを巻いた司会っぽい人が、大声張り上げて実況しているみたいだ。何してるんだろ?
「食べる前にちょっと見てみますか?」
私はルースさんにそう言って提案してみる。
「そうですね。楽しそうです」
案外こういうのに興味あるみたいだ。
「さぁさぁさあ!!!!次なる挑戦者誰だ?!後2人!!!後2人勝ち抜けば!!!100人抜きだああ!!!!目標は目の前まで来ているぞ!!!」
「どなたでもどうぞ!かかってらっしゃい!」
これでもかというくらいのドヤ顔でガイドさんは腕を上げている。それに対して割れんばかりの歓声がギルド全体を包み込んだ。普通にうるさいが、楽しそうなのでワクワクする。
でも、ガイドさんは何してるんだろ?
「……、私も挑戦したいです」
ルースさんがいつのまにかガイドさんの前に出ている。ガイドさんとルースさんは握手を交わし、腕相撲の体勢に入った。
「さあ!恨みっ子なし!!!謎の女、ガイド!!!そして我が国の王女、ルース様!!!!よーい!!はじめ!!!!」
ルースさんは瞬殺された。ガイドさんとルースさんはまた握手を交わし、ルースさんは戻ってくる。
「あの人、強すぎますね……初めてです。力でこんなにも差を感じたことなど。もしかしたら兄様より強いのではないでしょうか……いや、確実に強いです」
自称元魔王だし、その辺の魔物なんか見ただけで逃げようとするしで、元から底知れない強さはあったけど。ルースさんでもそう思うのか。すごいんだ、あのドスケベ。
「後1人だああああああ!!!!!」
盛り上がりは最高潮を見せる。
まぁ、100人抜きまで後1人となればこのくらいはなるのかな?
「最終戦の前にここでおさらいだ!!謎の女ガイドが持ちかけてきた賭けはこうだ!!ガイドが何らかの勝負で100人抜きをしたら!!我がギルドの受付!!'ミッド・ラットーナ'との同衾の権を行使できる!!!しかしできなければ!!!連れのエイン・アリスのマル秘情報を暴露だ!!!!さぁ!!後1人!!!挑戦者は誰だ!!!!?!」
ミッド・ラットーナという人は多分、司会の横に立っているあの女の人だと思う。私を担当してくれた人じゃないけど、耳は同じく尖っている。髪は長く、烏の濡れ羽色の様な感じだ。
まぁ、それは置いておいて。何だその賭け?おかしくない?おかしいよね?だって私関係ないよね?違うと言って?お願いだから?
「エイン様の名前も出ましたね」
「いやだよぉ!!ルースさん助けて!!!」
藁にもすがる思いで私はルースさんにしがみつく。しかし、ルースさんは困った様に私の頭を撫でるだけで何も言わない。
それが不味かった。いや、撫でてくれるのは別にいい。大声を出した自分が悪かった。皆んな、私の方を見ている。そして歓声が上がる。
「おおお!!!!!エイン・アリスの登場だあああああ!!!!!!」
ここにいる人たちは漏れなく初対面のはずだ。少なくともこの街で名前を名乗った事はない。では何故だ、何故私のことを知っている?まぁ、考えなくても分かる。絶対あのドスケベが原因だからだ。
「なんで知っているんですか?」
でも、理由は気になる。
「そうか聞きたいか!!!ならば教えよう!!!このガイドという女!!!圧倒的強さ故に!!!パーティを組みたいという冒険者が多数出た!!!!しかし!!!それを全て断ると言う!!!!何故かって?それはエイン・アリス!!!おまえがいるからだ!!!!そして皆は問いただす!!!!それは誰だ?!!どんなやつだ?!!それにガイドはこう言った!!!!短いながらもどこか少女らしさを感じさせる美しい金色の髪を持ち!!!!透き通る様な青色の瞳でガイドを惑わすかわいらしい顔立ち!!!!肌はとても冒険者とは思えぬ良い肉感でモチモチとしており!!!何より!!!美しい煌めきを放つ白さ!!!!しかし!!!白すぎず健康的な日焼けしてる感!!!!背は小さめで手足が少しだけ長いスレンダー型の体躯!!!!そして16歳としては小ぶりながらも確かにあり!!!!他の部位とは比にならないほどのモチモチさを持っている胸!!!!!それがエイン・アリスだ!!!!」
「ふざけんなぁあああああ!!!!!!!」
思わずそう叫んだ。そう叫ばざるを得ない。
「見損ないました!!!ガイドさん!!!!」
「違うの!!!これにはわけがあるの!!!!」
「どんなわけがあるって言うんですか!!?」
「まず私は勇者様のパーティですって言いました」
「……はい」
「その後、『どんなやつだ、強いのか』って聞かれたから、マンイーターに殺されかけてビービー泣くほど弱いって言って」
「……、はい」
「そしたら、『そんな弱い奴が勇者になれるわけないだろ』と言われたから、カチンときちゃって、エインにもいいところあるんだって言いたかったんです」
「それで今の内容を?」
「はい」
おそらく、本当におそらく、悪気はないのだろう。というかそうであってほしい。そうじゃなきゃ私が死んじゃう。
「分かりました……、胸の感触はともかく、それ以外は見れば分かる事ですし、別にいいです」
私は本当にかわいいから、嘘じゃないし、悪いことじゃない。許す。
「あぁ、おまえナルシストちゃんなのね。よぉし、仕切り直して!!!挑戦者はいるかー!!!!?」
また歓声が上がる。けど、誰も手を挙げない。というか、全員私を見ている。私が出ろの合図だ。
「……分かった!!出ます!!!やらしていただきます!!!」
圧に負けた。集団圧力怖い……
「よぉし!!!これで役者は揃った!!!!100人抜きなるか!!!ガイド!!!!それを阻止するか!!!エイン!!!!最後の真剣勝負!!!笑うのは誰だ?!!」
お疲れ様です。
洋梨です。
0時更新にしたいのですが、眠たいので朝とか昼とかにします。
訓練場に人がいなかったのは、腕相撲大会が盛り上がりを見せていたからですね。エインも訓練場行く前になんか盛り上がってるなぁ、くらいには思ってましたが、その時はまだ10人抜きくらいとかで盛り上がりもそこそこだったので、あまり気にならなかったのでしょう。そういう裏設定です。
技名のルビを日本語にするか横文字にするか悩んでいます。鬼神傀儡は日本語にしますが。
全体の力が上がる等というのは、簡単に言えば全部のスタータスが上昇するバフみたいなものですね。