第55話 実力主義者達の王
ガイドは親ガイボンに向かい合う。親ガイボンは「カラカラカラ」と笑い、「ピバ」と声を出して口から光線を吐き出す。それをガイドは右手を前に出して手のひらで受け止めた。手のひらから煙が出ているものの、ガイドは何一つ険しい顔をしていない。
(エイン)(!!?やっぱりガイドさんは次元が違う……!)
(ガイド)「後ろに守るものがある戦いは苦手なんですよね……絶音は防御魔法ではないし……どうしたものか」
(親ガイボン)「久々のご馳走……!いただきます……!」
親ガイボンがガイドに向かい走り出す。
(ガイド)「……意味の分からない獣の貴方に、その言葉は相応しくありません……黒炎武闘・番犬」
ガイドは突如猫騙しのように手を前で叩いた。そして手の指先を真っ直ぐに伸ばしながら、左手を腰のあたり、右手を胸の前のあたりで構える。加えて、手を叩いた時に圧縮した空気の熱を増幅させ、黒い炎生成し、全身に纏わせた。
突如、黒い炎を纏い始めたガイドに対して警戒し、足を止める親ガイボン。そのガイボンに対してガイドは自分から攻撃を仕掛けようとしなかった。
(エイン)(ガイドさん……何やってるんだろ?)
(セーラー)「エインちゃん……少し……手を貸して……」
エインに膝枕をされていたセーラーはエインの手を取り、自身の耳に当てる。ふるふると震えていてとても怯えているような姿だった。エインの魔法は間違いなく発動している。だから、セーラーを苦しめた何かも聞こえてはいない。けれど、セーラーはそういう行動をとった。
そんなセーラーに優しい声で『大丈夫』と、そう一言だけエインは呟いた。耳を押さえているセーラーに言葉が届いたのかどうかは分からないが、気持ちは伝わったようでセーラーの震えが幾分かはましになる。
(ガイド)(セーラーさんでもあの感じ……、他のエルフ達はより一層ダメージが……、あまり時間もかけていられなさそうね……、エインに学んでもらいたかったけど仕方ない……)
(親ガイボン)「カカカ!!!」
(ガイド)「威嚇してもこれは解きませんよ……それにこれは守りだけの技というわけでもありません……!」
ガイドが親ガイボンに急接近する。
(親ガイボン)「ガポ!!」
親ガイボンが逃げる為に後ろ斜めに飛び上がる。飛び上がった瞬間、ガイドに後頭部を蹴られ顔面が地面にめり込んだ。めり込んだ親ガイボンの足を掴み、ガイドは親ガイボンを逆さに持ち上げる。
(親ガイボン)「ポポン……ビパ!!!」
親ガイボンは光線を口から吐いた。その光線はガイドの顔面を直撃する。しかし、少し赤くなった程度で全く応えているようには見えなかった。
(ガイド)「……効きませんよ」
ガイドが親ガイボンの腹を殴る。親ガイボンは嘔吐した。ジタバタしてなんとか逃げようとする親ガイボン。しかし、ガイドに足を持たれている親ガイボンはガイドから距離を取れない。さらにもう一発、同じ場所を殴られた。親ガイボンは動かなくなる。
(エイン)(!?ガイドさん……少し……怖い……?)
(ガイド)(さて、どうしようかしら……殺してしまっても良いけれど……それはエインに見せたくはない方法だし……んー……)
ガイドが考え事をしているほんの数瞬の短い時間で親ガイボンは目を覚ます。考え事をしているガイドの脇腹を蹴り吹っ飛ばした。突然の事にさすがのガイドも親ガイボンの足を離してしまった。
(ガイド)「(思ったよりも頑丈……)」
ガイドが態勢を元に戻した時既に親ガイボンはエイン達のところへ辿り着いていた。親ガイボンは「幾人幾人幾人か」と言いながら、エインを襲う。エインは剣を持ちガイボンに咥えさせることでガイボンの歯をギリギリのところで防いでいるが、ガイボンは剣を噛みながらエインを押し倒し、逆に剣をエインの鼻付近まで押し返した。
(エイン)「(なんて力……!!全く歯が立たない……
!!なんとか!!なんとかしないと!!!)」
(セーラー)「エインちゃんからはな」
セーラーが親ガイボンを横から攻撃しようとした瞬間、セーラーの頭に石が当たった。頭から血が吹き出し、セーラーはその場で倒れる。子ガイボンが目を覚まし石を投げたのだ。
(子ガイボン)「キキキ!!!!」
(親ガイボン)「さぁ!いただきます!!」
(エイン)「ぎっ!!!うぁああ!!!」
親ガイボンが大きな口を開けエインの左肩に齧り付いた。エインの左肩から先はすでに義手。だから齧り付いても肉を食われる事はない。しかし、義手といえど神経を繋いだ高度な義手だ。本物の手のように動かせるが、その分痛みも通常のように伴う。エインは齧り付かれた痛みで叫んだ。
エインが叫んだ瞬間、ただ一人を除いてその場にいた全員の動きが止まった。別に時間が止まったわけでも、動きを封じる魔法をかけられたわけでもない。
ただ一つ、圧倒的強者から放たれる身を縮こませるほどの威圧感。それがその場を包んだのだ。
ガイドがゆっくりと歩いていく。ガイドが近づく事に比例して、エインやガイボン達の感じる圧力は強くなっていく。味方であるはずのエインでさえ、涙目になり息が荒れるほどだ。
敵側のガイボン達はそれ以上の恐怖を感じているのだろう。息が荒れるなど烏滸がましく思えるほど、ただただ息が止まっているように見えるような静かな息をしていた。
(ガイド)「魔族は強い者が正義……、完全なる実力主義の世界……大いに分かっています……、なにせ元魔王なので……そんな実力主義者達の頂点に立った私が……あなた如きに全力を出していたと……思っていたのですか?」
ガイドが親ガイボンの顔をゆっくりと覗き込む。親ガイボンは全く動かない。そんな親ガイボンの様子を見てからガイドはセーラーのところへ行き、傷を癒してからまた親ガイボンの所へ戻ってきた。
(ガイド)「エインを食べようとした事……セーラーさんを殺そうとした事……何一つ咎めはしません……生きる為に食し、自身に害をなす者を亡き者に変えることは【生物としての当然の権利】……そしてそれは……私にも許された自然の摂理です」
ガイドはゆっくりと話しながら親ガイボンの首を掴む。首を掴まれているにも関わらず、親ガイボンはいまだに動けない。ガイドの手が拳をつくっていく。その過程と共に親ガイボンの首が徐々に細くなっていく。
(ガイド)「さぁ……覚悟なさい……」
(子ガイボン)「カカカカカカカカカ!!!」
(親ガイボン)「ガ……ポン!!!」
子ガイボンがガイドに蹴りを放つ。その蹴りがガイドの顔面に直撃しガイドは吹っ飛ばされた。その際、手から親ガイボンが離れる。親ガイボンは慌てて子ガイボンを担ぎ上げ、何処かへ走り出した。
(ガイド)(あまり見せたくはなかったけど……仕方ない……)
ガイドは右中指と右親指で大きな音を鳴らした。その音共に黒い炎が指先から放出される。親ガイボンは音に驚き、一瞬飛び跳ねたものの足を止める事はなく、この場から離れる為に懸命に走っていた。
(ガイド)「逃しませんよ。黒炎魔術・蜜箱」
ガイドが手を大きく下から上に振った。その瞬間、親ガイボンを中心に黒炎の囲いが出来る。黒炎の囲いは円形になっていて何処にも隙間がない。その上その高さはとてもじゃないが飛び越えられるような高さではなかった。
(親ガイボン)「ガポ!!!!」
親ガイボンの攻撃に対し、黒炎の囲いは何一つ色を変える事も何か変化する様子を見せる事も無い。
(親ガイボン)「ピパ……」
(ガイド)「さぁ……、お別れの時間です……!」
ガイドが腕を激しく身体の前で交差させた。その瞬間、黒炎の囲いが縮まっていく。黒炎はやがてガイボンたちを包み、掌に乗るほどに小さな球体へと変化する。
ガイドはその黒炎の球体を握りつぶし、ガイボン達の魔力が消失した事を確認した後、エインに近づいていった。エインは後退りしようとしているが、思うように身体が動いていないのか、後退りが出来ていない。故にガイドは普通にエイン達に近づけた。そしてしゃがみ込み声をかける。
(ガイド)「エイン、大丈夫ですか?」
(エイン)「え、あ、や……」
ガイドを見つめながら涙を流すエイン。エインのカチカチと歯を鳴らす様子とエインの下方に出来たシミを見てガイドは気が付いた。
(ガイド)「あ!すみませんすみません!!魔王モード解除!」
(エイン)「や……や……、……、ガ、ガイドさん……?」
(ガイド)「ごめんなさいエイン……これはいくらあなたでもまだキツかったですよね……」
(エイン)「ご、ごめんなさい……怖がちゃって……」
エインは涙を拭いながらガイドと話を始めた。止まらない涙を拭いながらも懸命にガイドの方をエインは見つめ続けた。
(ガイド)「……、よく頑張りました」
ガイドはエインの頭を撫でた。
(エイン)「??私……何も……してない……」
(ガイド)「何もしてない事はありません。子ガイボンと互角以上に渡り合ったこと、セーラーさんのそばに居てあげた事、私を気遣ってくれた事……、あなたがここでした事は立派な事です」
(エイン)「……、はい」
お疲れ様です。
洋梨です。
Q.黒炎武闘を使う必要なかったのでは?
A.ありませんね。番犬は本来広範囲に黒炎を展開する事が出来る型なのですが、必要なかったみたいで。
Q.蜜箱の効果は?
A.黒炎に閉じ込める。それだけの術ですね。壊すも壊さないも自由ですが、閉じ込められたものは中から出る事は出来ずに黒炎に苦しめられるので、壊してしまう方が温情かもしれませんね。




